【速報13】ウクライナ危機:日本赤十字社からウクライナに初めて薬剤師を派遣
ウクライナでの戦闘が始まって約3か月、国内避難民は現在800万人にも及ぶことが報告されています。その中の多くがウクライナ西部への避難を余儀なくされていて、西部地域では医療体制のひっ迫が続いています。
日本赤十字社は、現地での医療支援を行うため、4月28日より薬剤師1名をウクライナ西部の町ウジュホロドに派遣しました。日赤からウクライナ国内への要員派遣は今回の危機が始まって以降は初めてです。
大阪赤十字病院の仲里泰太郎薬剤師は、これまで2017年と2018年にバングラデシュ南部避難民救援事業、2021年のハイチ地震救援事業でも緊急救援要員として現地へ派遣されてきました。
今回は、ウクライナ赤十字社が計画する国内避難民等に向けた仮設診療所の立ち上げ・運営をフィンランド赤十字社のスタッフと共に行います。
その中でも仲里薬剤師は薬局部分の管理を中心に、国内外からの医薬品や医療資機材の調達・管理、現地スタッフへ使用法指導などを担当します。
ウジュホロドに派遣中の仲里薬剤師
現地の仲里薬剤師から、これまでの活動内容の報告です。
「わたしは、ウクライナ西部の小さな町ウジュホロドに設置される診療所の薬剤師/メドログ(医療に必要な物品の調達、輸送、管理を行う)担当として派遣されています。
現地に到着したあと、フィンランドから診療所を設立するための資機材が2回にわたり輸送されてきました。第1便では診療所の外側部分の機材が運ばれ、現地の大工さんと一緒にテントや棚などの組み立てを行いました。最近届いた第2便では医療資機材が運ばれたので、届いたばかりの薬のチェック・分類・保管作業を行っています。
まず必要なのは薬を適切に管理する場所づくりです。冷蔵が必要な薬品のために冷蔵庫の準備を行い、温度逸脱が無いよう収納しました。また、想像よりかなり大きな医療資機材が届いたため、急遽ウクライナ赤十字社の担当者に交渉し、薬局のスペースを拡大してもらいました。それでもそのスペースに全部を保管することは難しく、必要性の有無で薬品を選別し、保管場所を分けました。
薬や医療資機材は、届いた以上は、ちゃんと管理されなければなりません。何がどこに、どれくらいあって、どう出し入れしたか、という在庫管理を徹底するためのデータベースづくりや帳簿も並行して作成しています。また患者に渡した薬を記録するための調剤録や保管場所の環境管理をするための温度管理表なども作成しました。本当にゼロから、診療所立ち上げの準備を行っています。」
冷所薬の確認作業をする仲里薬剤師
冷蔵庫に医薬品を収納する仲里薬剤師
これまでの印象的な出来事なども尋ねてみました。
「ハンガリーとの国境付近、避難民のためのチャイルドフレンドリースペース(こころのケアを目的にストレスを抱えた子供たちが安全かつ自由に遊べる場所)を訪れた時、いきなり抱っこしてほしいと言ってきた5歳の女の子がいました。すごく嬉しそうに懐いてくれる様子を見て、もしかしたら父親だけウクライナに残っているから同じ歳ぐらいの男の人に抱っこして欲しかったのかなあと思い、その出会いは印象に残っています。
また、ある日宿泊施設の横にあるコンビニに行った時、ウクライナ軍の青年が声をかけてきて、彼はウジュホロドが地元らしく、おすすめのビールや観光地など教えてくれました。話の中で彼から1か月後に戦闘のため東に向かうということを聞き、『大丈夫か。』と尋ねると『これがウクライナの現実だよ。』と言われたことは印象的な出来事です。
ウジュホロドはのどかな町ですが、空襲警報の音や、救援物資配付に並ぶ避難民の行列を見ると、紛争が続いていることを実感します。」
国際赤十字・赤新月社連盟は現在、ウクライナ赤十字社への支援を拡大し、国全体の保健医療を支援する長期的な計画を立てています。これからウジュホロドに診療所が設立され、毎週400人以上の避難民に対して無料の健康チェックと薬の提供ができるようになる予定です。
仲里薬剤師は「わたしが日本に帰ってもここでの避難民支援がしっかりと回っていくように、診療所・薬局の立ち上げを丁寧に進めていきたいです。」と語っていました。
戦闘の長期化により、支援のニーズは高まり続けています。日本赤十字社はこれからも、ウクライナや周辺国の状況把握を行い、適切なタイミングでより多くの支援活動を行えるように努めていきます。
これからも皆さまの温かいご支援をよろしくお願いいたします。
「ウクライナ人道危機救援金」
受付期間: 2022年3月2日(水)~2022年9月30日(金)
使途 : 国際赤十字・赤新月社連盟、赤十字国際委員会、および各国赤十字・赤新月社が実施する、ウクライナでの人道危機対応及びウクライナからの避難民を受け入れる周辺国とその他の国々における救援活動を支援するために使われます。