安全な血液を必要とする人々にーネパール地震復興支援  日赤支援の資機材を活用中

 2015年4月25日、ネパールで発生した大規模地震とその余震は、死者8,790人、負傷者22,300人以上、半壊・損壊した住宅は約75万戸以上と甚大な被害を及ぼしました。日本赤十字社(以下、「日赤」)は、発災の翌日から行った医療救援活動に引き続き、2016年11月からはネパール赤十字社(以下、「ネパール赤」)とともに、住宅再建や、水と衛生支援、生計支援など7つの分野で復興支援を実施しました。
 その中の血液センター支援事業で実施した資機材の整備については、新型コロナウイルス感染症の世界的流行による渡航制限等により、設置完了後の日赤による現地視察ができていませんでした。ネパールの新型コロナウイルス感染症まん延状況が一定の落ち着きをみせた2022年7月上旬、辻田国際部開発協力課長が同国を訪問し、血液センター支援事業で支援したバクタプール血液センターに向かいました。

被災したバクタプール血液センター 復興までの道のり

 ネパールの首都、カトマンズから車でおよそ30分。バクタプール郡は住宅地の中に森や畑が点在する田園都市です。雑踏と行き交う車の排気ガスで霞がかかったカトマンズ市内に比べると、心なしか空が青く、空気が澄み渡っています。落ち着いたベッドタウンとしての人気が高く、沿道には昔ながらの商店に混じって、駐車場を備えたショッピングモールも建設されていました。

 その中心地にあるのが、ネパール赤バクタプール血液センター(以下、血液センター)で、献血者の募集、受入れから検査、輸血用血液製剤の製造から管理まで、地域における血液事業の全般を担っています。ネパールで2番目に古い歴史を持つ国立バクタプール総合病院が隣接し、また同郡には国立がんセンターや臓器移植センターなどの高度医療機関が点在することから、これらの医療機関と連携して、患者さんのために迅速に血液を届けています。

 同センターでは従来、血液の検査などを行う資機材が老朽化し、安全性の確保が難しい状況に陥っていたところ、2015年の大地震で甚大な被害を受け、建物も随所にひびや傾きがあり、使用が出来なくなりました。一方で、同郡よりさらに壊滅的な被害を受けたカトマンズの医療機関をもカバーする必要に迫られ、仮設のセンターでの業務が続けられました。

 こうした事態を受けて、ネパール赤と各国赤十字社の間で協議がなされ、まず、血液センターの建物をイギリス赤十字社(以下、「イギリス赤」)の支援によって再建し、続いて日赤が資機材を支援することが決まりました。日赤はGAP(赤十字・赤新月社の血液事業にかかる国際諮問委員会)と連携し、ネパール赤が実施したアセスメントに基づき、血液事業の運営に必要な41品目を選定しました。

463E9B8D-BD3F-4825-A317-9794A12D67BD.jpeg

    ネパール赤バクタプール血液センター (c) 日本赤十字社

 イギリス赤の支援による建物の建設は、地震後の建築資材の不足や、様々な行政手続きと設計変更等の困難に直面し、2020年にようやく竣工しました。そして、日赤が支援する資機材を調達する途上で、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、行動制限や作業要員の不足により、隣国インドなどからの搬入が滞ってしまいました。そこで、調達が可能なものから順に血液センターに届け、事業の運営に支障を来さないための努力が重ねられました。そうして、本年、ようやく必要な資機材が血液センターに届き、設置されました。

地域に信頼される血液センターでありたい

 血液センターに入ると、小さいながらも整然と資機材が並び、スタッフが忙しそうに働いていました。1階の検査室には、寄贈された大型の冷蔵庫(血液の保存・管理用)や遠心分離機、検査キットなど、2階の献血ルームには、椅子や棚などが整備され、またボランティアの学生達も出入りしていました。

IMG_1554.JPG

   日赤寄贈の資機材を用いるプラヤップ医師 (c) 日本赤十字社

 検査を担当する医師のプラヤップ氏は、「日赤からの資機材支援のおかげで、血液センターの生産性は大きく高まり、血液製剤の本数は、地震前の月間2,000単位から4,300単位にまで増加しました。この結果、医療機関からの血液の需要に十分に応えられる体制が整いました。また、量の確保だけでなく、血液の安全性の向上にも役立っています。」と誇らしげに語ります。特に、災害や交通事故等によって、医療施設から一度に多くの要請があっても、責任をもって対応出来る「余力」が生まれたことが、大きな変化であるとのことでした。

 バクタプール郡内には、およそ150の献血協力団体があり、日々、街頭献血が行なわれています。企画や運営は協力団体のボランティアが行ない、血液センターのスタッフが採血などを担います。新たな資機材の導入により、人々の善意を安全な血液製剤という形に変えて、迅速に医療機関へつなぐ役割を果たすことが出来ます。

 一方で、資機材の保守にかかる費用の確保、そしてスタッフへの技術研修は血液センターの課題です。政府などの支援を得て、財政的な安定を確保すると共に、若手技術者の育成と継承に力を入れて行きます。血液センターを統括するネパール赤バクタプール郡支部長は語ります。「日本の皆さんの温かいご支援に感謝します。地域にさらに必要とされ、そして信頼される血液センターを目指して頑張って行きます。」

IMG_1556.JPG

  冷蔵庫と血液検査キット (c) 日本赤十字社

 ネパールにおける国際的な地震復興支援は一段落しましたが、その成果は地域の人々によって引き継がれ、さらなる発展が目指されています。日赤は今後も、ネパール赤とともに、復興支援事業の成果が持続し、発展していくことを見守って行きます。

本ニュースのPDFはこちら(434KB)