ウクライナ人道危機から半年:赤十字活動の軌跡とこれから
2022年2月24日に激化したウクライナをめぐる人道危機も、8月24日で半年を迎えました。
この間、赤十字はウクライナ国内そして周辺国で紛争の影響を受けて苦しんでいる人びとに寄り添い、幅広い活動を展開してきました。半年間の支援実績(下記、数字は2022年7月31日までのもの)及び日本赤十字社の活動の報告です。
赤十字の半年間の支援実績
赤十字はこの半年間、「給水衛生および衛生促進(WASH)・保健医療支援」、「シェルター(避難所)、現金給付、生計支援を含む統合的支援」、「保護と予防」を中心とした、幅広い活動を展開してきました。特筆すべきは、これらの活動が多くの赤十字ボランティアによって支えられているということです。ウクライナ、ロシア、ポーランド、ルーマニアなどそれぞれの国に赤十字があり、これまで地域の100,000人以上の赤十字ボランティアがこの人道危機対応に携わっています。
主にウクライナ国内東部の紛争地域において、赤十字国際委員会(ICRC)とウクライナ赤十字社が攻撃によって破壊された水供給システムの復旧やパイプ、水タンクの修理支援を行っています。マリウポリのような都市では、何十万人もの人々が水を失っている状態で、中には、雪を溶かしたり、命がけで小川から水を汲んだりしている人もいるそうです。赤十字は可能な限り、人びとが安全な水を確保できるよう支援を続けています。
スムイに向けて飲料水を運ぶウクライナ赤十字社ボランティア©IFRC Anette Selmer-Andresen
首都キーウで巡回診療を行う医師©IFRC
ウクライナ国内やハンガリーの国境付近における仮設診療所での診察や、ウクライナ国内における巡回診療車を使った医療のアクセスが難しい地域への医療など、71万8,000人に保健医療を提供しました。これには、新型コロナウイルスなど感染症の予防のための啓発活動も含まれます。
ウクライナ及び周辺国や避難民を受け入れている国で心理社会的支援(こころのケア)の活動を36万8,000人に対して実施しました。紛争で非日常の体験をしている避難民の方々の精神的・身体的な健康を守るために、各地で子ども向けの遊び場(チャイルドフレンドリースペース)や必要な時に避難者の方が電話できる「こころのケアホットライン」などが設けられています。
チャイルドフレンドリースペースで遊ぶ子どもたち©ベラルーシ赤十字社
ウクライナのヴィンニツァで食料と衛生物資を受け取る避難民©IFRC Hugo Nijentap
これまで500万人以上に生活に必要な物資(石鹸やトイレットペーパー、子どものおむつなど)や食料、水や衣服、SIMカードなどを配付し、人びとの基本的なニーズに対応してきました。現在は、この先の冬に備えて、毛布やあたたかい上着などの配付の準備を進めています。
これまで62万6,000人に対して、現金給付が実施されました。これは、避難民に対する当面の生活支援金とするものが大半ですが、特定の目的のための支援金、例えば家屋の修繕費用としての給付なども検討されており、今後は中長期的なニーズに対する現金給付支援が本格化する予定です。
ポーランドでの現金給付(アプリ)での手続きの様子©IFRC Carla Guananga
保護・予防にかかる支援として、追跡調査の支援も実施しています。「離散家族再会支援Restoring Family Link (RFL)」と呼ばれるもので、紛争や災害などによって離れ離れになり、お互いに消息がわからなくなった家族の再会を支援するという赤十字のユニークな活動の一つです。ウクライナ人道危機のような紛争状態の中で調査活動が難しい状況の場合、ICRC内に設置された中央追跡調査局(CTA)が中心となり、人びとの所在に関する情報を家族に届けるために活動します。これまでに、紛争当事者からの情報、各国赤十字社やICRC代表部が受け取った調査依頼、その他の情報源に基づいて、捕虜とその家族を含む13,000人以上の情報を収集、追跡、保護し、身内間の再会支援に役立てました。
そのほかにも、紛争地域からの安全な経路での避難や、地雷・不発弾の除去及び地雷の危険性に関する啓発活動、性暴力を防ぐための啓発活動やスタッフへの研修等ジェンダーや社会的包摂にかかるプログラムを実施してきました。
国際赤十字・赤新月社運動は、この半年間の活動を「Six months of Armed Conflict in Ukraine」にまとめました。こちらの日本語訳は活動実績のページに近日中に掲載します。
今後の支援ニーズ
また、国際赤十字の報告書では、今後拡大していくであろう人びとのニーズや、中長期にわたる支援の必要性についても述べられています。
例えば、寒い季節を迎えるにあたって考えられるニーズの拡大です。6月上旬の時点で、少なくとも4,480万平方メートルの住宅が被害を受けていると推定されています。窓ガラスが割れるなどの被害であっても、冬の寒い時期には大きな影響を与えます。また、戦闘が続いている地域では、多くの人が地下室や避難所となった建物に避難しており、そこには水も暖房も電気もないことがほとんどです。今後、寒い時期への備えと必要な追加の支援を行っていく必要があります。
また、メンタルヘルスのニーズの拡大も懸念事項の一つです。ウクライナ保健省は6月上旬に、今回の人道危機により推定1,500万人が心理社会的支援を必要とする可能性があると発表しました。紛争の影響を受けている人びとの多くは、自分たちの将来や予測不能な紛争への不安、避難生活のストレスに耐え続けながらこれまで過ごしており、今後長期的に、精神的、身体的な健康に影響を与える可能性があります。
加えて、避難民を迎え入れているホストコミュニティ側も、支援を提供するという重圧の中過ごしています。
このように、ますます複雑化し拡大するニーズに対して、人道支援組織や政府が一体となって対応していくことが求められています。
日本赤十字社のこれまでの支援、これからの支援
日本赤十字社も、赤十字の幅広い活動と国際的なネットワークのもと、当初よりこの人道危機に対応してきました。
紛争激化直後に国際赤十字(連盟およびICRC)から発出された緊急救援アピール(資金援助)に即座に対応し、2022年3月1日には2,000万円の緊急資金援助を行い、3月2日より「ウクライナ人道危機救援金」の募金活動を開始しました。
同救援金には8月5日時点で63億3,308万5,157円に上る多額の寄付をお寄せいただいています。皆様からのあたたかなお気持ち、誠にありがとうございます。
日本赤十字社は緊急資金援助に加え、この救援金からこれまで国際赤十字に総額50億円(連盟、ICRCに半分ずつ)の送金を行いました。こちらは、上記のような様々な赤十字の活動に使用されています。
資金援助に加えて、日本赤十字社からはこれまでロジスティクス要員、薬剤師、こころのケア要員、放射線技師等、多岐にわたる人材をウクライナ及び周辺国に派遣し、この人道危機に対応してきました。
また、今後も増大し、複雑化することが予測されるニーズに対し、日本赤十字社も中長期的な視点での支援を拡大していく予定です。2022年8月中旬には、日本赤十字社から医療アセスメントチームを派遣し、ウクライナ西部のリヴィウのリハビリテーションセンターの改修・拡充の支援について医療的視点から調査・協議を行いました。
特に日本赤十字社が強みを持つ保健医療の分野を中心に、引き続き支援を実施していきます。
リヴィウのリハビリテーションセンターの改修・拡充に向けた調査・協議を行う日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院の杉本医師
今後も、ウクライナ人道危機についての活動は、国際ニュースや活動実績のページで随時更新していきますので、引き続きご覧いただけますと幸いです。
ウクライナ人道危機救援金の募集を延長
紛争が長期化し、これから中長期及び紛争終了後の復興・復旧に向けた支援が必要となることから、日本赤十字社は救援金の募集を2023年3月31日まで延長しました。
引き続き、皆様からのご支援、ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
ウクライナ人道危機救援金
受付期間:2022年3月2日(水)~2023年3月31日(金)
使途: 国際赤十字・赤新月社連盟、赤十字国際委員会、および各国赤十字・赤新月社が実施する、ウクライナでの人道危機対応及びウクライナからの避民を受け入れる周辺国とその他の国々における救援活動を支援するために使われます。