気候変動の危機が迫る大洋州

画像 救援物資をボートに積み込むトンガ赤十字社の職員とボランティア(C) Malau Media/IFRC

 大洋州に浮かぶ島々は、サイクロンや地震、津波、火山噴火、干ばつなどのあらゆる災害リスクにさらされており、世界で最も災害に対して脆弱な地域と言われています。加えて、近年は、気候変動の影響により、サイクロンや大雨などの災害の頻発や被害の深刻化、また、海面上昇とそれによる海岸浸食の悪化、海洋酸性化による海の生物への影響など、そこに暮らす人びとの生活に直接的な影響を及ぼしています。それは、災害発生時の短期的な影響だけでなく、自然環境や生態系が破壊されることによって生じる食べるものや生計手段への影響、健康状態の悪化、そして引き起こされる貧困など、長期的な問題にも発展しています。加えて、新型コロナウイルス感染症のまん延や、それに伴う渡航・行動制限が、さらなる状況の悪化をもたらせました。
 日本赤十字社は、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)を通じて、1987年から大洋州地域にある11の赤十字社の災害対応能力の強化や、赤十字の地域活動の中心となるボランティアの育成を支援しています。今回は、災害リスクが高まる大洋州において、日赤の支援による2021年中の同地域での活動実績をご紹介します。

■防災・減災から対応まで -地域に根ざした赤十字の力を発揮

 新型コロナウイルス感染症のまん延を経験した大洋州の島々の国は、今後、災害発生時に外国からの支援が現地に入れない場合を想定し、連盟のサポートのもと、地域内11の全ての赤十字社は、自分たちの力で迅速で適切な災害対応ができるよう災害時のシナリオと対応計画の策定を行いました。また、ツバルとパラオでは、災害時の早期警戒早期行動(Early Warning Early Action)を目指して、対象地域の世帯・個人が災害発生時にどのような行動を選択するのかを把握する聞き取り調査を実施しました。一方、バヌアツでは2021年10月のヤスール火山噴火の際に、被災者が安全な飲料水を確保できるよう、322個の水濾過装置を配布し、マーシャル諸島では2021年12月の大潮により被災した世帯に救援物資を提供しました。さらに、パラオでは2021年12月のサイクロン・ライの発生時に、政府機関と協働して3,000を越える世帯に被災状況のアセスメントを実施し、12州に避難所を設置。1,000人を越える被災者に救援物資を配布するなど、それぞれの赤十字社が現地のニーズに即して活動しました。
 平時からの備えとして、大規模災害を想定した対応計画の策定、関係機関との協働関係の構築、物資の備蓄はもちろん、実際に災害が発生した際の救援チームの派遣や避難所の運営など、活動範囲は多岐にわたります。多くの島から成る大洋州の島国において迅速に展開することは決して簡単なことではありませんが、支援が届きにくい場所にも根付く地元赤十字の支部やボランティアの存在が、こうした活動を可能にしています。

■各社の活動をリードする若者たち

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学校の生徒向けに防災や保健の知識を普及するユースボランティア (C) サモア赤十字社

 大洋州地域の人口年齢は若く、防災・減災をはじめとする赤十字の活動をリードするのは主に若者たち(ユースボランティア)です。日本赤十字社は、サモア、トンガ、バヌアツ、ソロモン、クック諸島、キリバス、ツバルの赤十字社のユースの活動も支援しました。ユースの活動計画の策定や学校内の赤十字クラブの設置、また812日の「国際ユースデー」のイベントの開催やソーシャルメディアキャンペーンを通じて、合計7,400人の学生や児童に、感染症予防、防災、気候変動などに関する知識や応急手当の方法を普及しました。また、彼らの安全な活動が確保されるよう、11社のユースボランティア1,674人の保険加入も促進しました。彼らは同世代の友人や低学年の子ども達に対して、あるいは家庭内や地域内において、学んだ知識を共有し、一人一人の力を高める “行動変容の担い手”として各島国の隅々で活躍しています。

■大洋州における気候変動対策事業を始めます

 2022年1月15日、トンガの首都ヌクアロファの北約65kmに位置する海底火山で、大規模な噴火が発生しました。この噴火によって被災された方々を支援するため、日本赤十字社は「トンガ大洋州噴火津波救援金」を募り、2億6,5011,130円ものご寄付をお寄せいただきました。このご寄付から、日本赤十字社は連盟を通じてトンガ赤十字社の救援活動に8,000万円の支援を実施しました。さらに、大洋州地域全域の災害リスクが高まる中、この救援金の一部を財源に、トンガを含む地域全体の将来の災害に備えるため、2023年4月より3年間の気候変動対策事業を実施する準備を進めています。この事業を通じて、災害対応能力強化、防災知識普及、ユースを含めた赤十字ボランティアの育成などの活動を継続・強化することを計画しています。大洋州の島々に暮らす人びとが、気候変動やあらゆる災害、感染症などに立ち向かえるよう、日本赤十字社はこれからも同地域での支援を続けていきます。

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キリバスに集いマングローブを植樹した大洋州のユースボランティアたち(C)IFRC

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