トルコ・シリア地震:震災から4カ月、被災地のいま(シリア)
トルコ・シリア地震は、6月6日で発災から4カ月を迎えました。
被災地において必要とされる支援の内容は刻々と変化していきますが、支援を求める声はなくなりません。現在、テントやコンテナ等の仮設住宅で生活を送る方はトルコ国内で278万人(4月5日時点)、シリア国内でシリア赤新月社(赤新月社はイスラム圏の赤十字社に使用されます。以下、「シリア赤」)が支援している避難所だけで4,482人に上ります(5月16日時点)。シリアでは10年以上続く紛争の影響もあり医薬品や燃料の不足が常態化しています。また、トルコでは今後夏を迎えるにあたり気温が45℃に上ることも予想され、テントなどで生活する方々への早急な対応が求められています。被災地の中でも、それぞれの国や地域、コミュニティによってニーズは異なるので、それらを的確に把握して活動に反映させる努力は欠かせません。
今回、国際緊急救援チーム(ERU)の一員としてシリア赤巡回診療チームを増強するべく、シリアの北部ラタキアで約3か月間に及ぶ活動を終えたばかりの日本赤十字社医療センター小林映子薬剤師から、現在の被災地の様子や、今求められていること、薬剤師としての活動への思いなどを聞きました。
■シリア ラタキアの今
小林薬剤師、活動地の医薬品倉庫にてERUメンバーと©日本赤十字社
私が主に活動していたラタキアはだいぶ落ち着いてきて、倒壊した建物の撤去や避難所などでの衛生管理も行き届くようになってきています。ただ、食べ物などの物資もかなり集まっていて、活気が戻ってきていると同時に、他地域からも避難してきた被災者が急増してあふれており、職や生活基盤を整えることが厳しい状況となっています。
一方で、必要な人への医薬品や医療消耗品の供給は依然として足りていません。これはシリアで10年以上続く武力紛争やそれに伴う経済状況の悪化が大きく影響していて、震災以前から課題でした。シリア赤が行っている巡回診療に来てくれた被災者の方に対して、薬の在庫が無いために何もお渡しできない場面を目にすることもありました。よって、今は、特に慢性的な疾患を抱える方々への治療薬の継続的な提供が課題です。
■現地スタッフの思いをのせた巡回診療チームの活動
現地の若手薬剤師と医薬品のストックを確認する小林薬剤師©日本赤十字社
新規現地スタッフの研修の様子 ©日本赤十字社
シリア赤は、支援活動の拡大や対応能力強化のために現地スタッフの新規雇用を行いました。私の仕事の一つには彼らとの協働と指導も含まれていますが、それには現地スタッフがこの先起こりうる緊急事態にも適切に対応できるような備えの部分も含まれています。
シリア赤の一員として活動しているスタッフには、紛争や震災時には救急搬送や救急車対応で活躍した経験を持つ人もおり、被災者だけでなくこういったスタッフへの心のケアも大切であると感じました。また、彼らからは、雇用の不安定さなど様々な問題への先の見えない不安と同時に、シリア赤の一員として人々のために役立ちたいという強い気持ちを感じました。「シリア赤のベストを着ることを誇りに思う」と瞳を輝かせている現地スタッフが印象に残っています。
私は薬剤師であると同時に、今回の派遣では「メディカルロジスティシャン(メドログ:医療物流管理者)」という役割で、医薬品や医療消耗品の適切な調達と供給管理を行いました。ラタキアの倉庫には十分なスペースがなく、今は私が滞在するホテル内の会議室を医薬品の一時保管に充てているような状況です。温度管理が必要な医薬品もある中で、電力供給に不安があるなどのハードルを抱えながら、医療職に限らず現地スタッフとの共通理解を深め、チーム全体で適切な管理体制ができるように指導しました。
その中で気を付けたのは、まず現地のスタッフとの信頼関係を構築することです。シリア赤のスタッフは、震災以前から巡回診療などの医療支援活動を自分たちで行っていて、さらに震災直後から休みなく懸命に活動してきた人たちです。海外からやってきた自分たちの支援を押し付けるのではなく、彼らと意見をすり合わせ、協働することを大切にしようと思いながら活動してきました。
■支援の展望 現地スタッフへ手渡していくもの
災害対応経験の多い日本の薬剤師とは異なり、こちらでは、薬剤師は倉庫の管理などに回ることが多く、巡回診療活動に帯同して直接患者さんとやりとりする機会がないことが、少し残念に思いました。でも、医薬品が不足して同じ薬を続けてお渡しすることができない時こそ、患者さんとコミュニケーションをとることで不安を軽減し、より良いケアにつながるように活動できると考えています。
そういう思いや実体験を通して学んできたことを、小さな種を蒔くようにして、現地の若い薬剤師たちにも伝えていきたいと思います。
ダマスカスのシリア赤本社前にて、保健医療コーディネーターの高原看護副部長(左)と小林薬剤師(中央)、後任の榊本薬剤師(右)©日本赤十字社
小林薬剤師の後任として、日本赤十字社和歌山医療センターの榊本亜澄香薬剤師がシリアに派遣されました。同じく現地スタッフと協働しながら、巡回診療チームの活動を軌道に乗せていく予定です。
■救援金へのご支援ありがとうございました
2023年2月9日から募集しておりました「2023年 トルコ・シリア地震救援金」の受付は、2023年5月31日をもって終了いたしました。
皆様からたくさんの温かいご支援をいただき、本当にありがとうございました。
お寄せいただきました救援金は、赤十字の救援活動のほか、中長期的な復興支援にも役立ててまいります。
皆様から寄せられた救援金の活動の様子はこちらをご覧ください。