溶血性副作用
溶血性副作用
溶血性副作用(Hemolytic transfusion reactions:HTR)は、主に免疫学的な原因により発生し、発症時間により急性溶血性副作用と遅発性溶血性副作用に分類されます(表1参照)。輸血に関連した溶血は免疫学的原因以外にも、細菌感染症や加圧等の物理的要因によっても起こることがあります。
溶血性副作用は、主に輸血された赤血球の膜が破壊されて起こります。溶血して赤血球の内容物が放出され、補体活性の上昇などにより連鎖的に溶血が進み、死に至ることもあります。
多くの場合、患者が持っている抗体と輸血された赤血球膜上の抗原が反応することによって溶血反応が起きます。代表的なものはABO血液型の型違い輸血(O型の患者にA型の赤血球を輸血した場合など)やRh(D)陰性で抗Dを持っている人にRh(D)陽性の赤血球を輸血した場合などですが、それ以外の血液型でも起こることがあります。
表1:溶血性副作用の発症時間による分類
(日本輸血・細胞治療学会 輸血療法委員会 輸血副作用対応ガイド(ver.1.0)より一部改変)
急性溶血性副作用
急性溶血性副作用(Acute hemolytic transfusion reactions:AHTR)の大部分は、ABO不適合輸血(輸血された赤血球と患者血漿中の抗体(抗Aまたは抗B)との反応)により起こりますが、まれにLewis血液型等でも同様の反応が認められます。また、ABO不適合輸血は高力価の赤血球抗体を含む血漿製剤の投与でも起きる可能性があります。輸血用血液の細菌汚染や加圧・過温等物理的な要因等、免疫学的な原因によらない溶血も考慮する必要があります。
赤血球上の抗原にIgM型の抗体が結合することにより補体を活性化させ血管内溶血を起こすと、それに続いてサイトカインの過剰産生、血圧低下、腎不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)等の症状が出現します。
ABOメジャーミスマッチ(表2参照)輸血の場合、患者の生命を脅かす副作用が発生する可能性があり、重篤な症状を認めた場合は、集中治療室において適切な治療を遅れなく行う必要があります。さらに、このような輸血過誤が将来再び発生することがないように、ABO不適合輸血の原因を究明し、対策を講じなければなりません。
表2:赤血球製剤のABO 不適合輸血 Major ABO mismatch of red blood cells
(日本輸血・細胞治療学会 輸血療法委員会 輸血副作用対応ガイド(ver.1.0)より)
遅発性溶血性副作用
遅発性溶血性副作用(Delayed hemolytic transfusion reactions:DHTR)のほとんどは二度目以降の輸血により感作(輸血された赤血球の膜上の抗原に対して免疫反応が起こること)され増加したIgG 同種抗体が原因であり、初回輸血によるものは極めてまれです。通常、1回かそれ以上の輸血または妊娠等で感作を受けた受血者によっては、赤血球抗原に対する抗体を産生しますが、時間が経つと抗体価が低下し輸血前の検査で検出できなくなることがあります。その状態で対応する抗原を持つ赤血球を輸血すると、その抗原の刺激により輸血後24時間から数週間で速やかに抗体価が上昇し、また、抗体が結合した輸血赤血球の血管外破壊が起こります。一般的に多く見られる臨床徴候はヘモグロビン濃度の低下と発熱で、その他徴候として、黄疸や血色素尿が観察されます。まれに血管内溶血が起こることもあり、重症例では腎不全を起こして死亡する症例も報告されています。
不規則抗体検査や交差適合試験で抗体が検出できなくても、輸血された赤血球に対する二次免疫応答により溶血反応を起こすことがあるため、DHTR を未然に防止するのは難しいとされています。日本では、抗Jka、抗Jkb、抗C、抗c、抗E、抗eが原因の多くを占めています。