細菌

輸血用血液製剤に混入する原因

輸血による感染症のひとつに細菌感染があります。輸血用血液に細菌が混入する経路としては、採血時の不十分な消毒、皮膚毛嚢を貫いた採血、無症候の菌血症状態にある献血者からの採血、バッグの破損、融解時のポートの汚染などがあります。
冷蔵庫で保管する赤血球製剤や冷凍庫で保管する新鮮凍結血漿では細菌の増殖の危険性は低いですが、常温保存の血小板製剤では細菌が増殖し、時に重篤な症状が現れることがあります。

日本赤十字社が行っている対策

保管中に細菌が一定量以上まで増殖しないよう、血小板製剤および赤血球製剤の有効期限を諸外国より短く設定しています。
細菌の混入や輸血副作用・感染症を低減するため、日本赤十字社が製造販売する全ての製剤について、初流血除去と保存前白血球除去を行っています。
この他、下痢や歯科治療に関する問診の実施、採血部位の消毒の徹底、血小板製剤の供給前の外観確認を行っています。

輸血用血液との関連性が高いと考えられた細菌感染症例

以下の表は保存前白血球除去導入後に報告された症例の概要を示したものです。

使用製剤 検出された細菌 発現時間
(輸血開始後)
2006 PC*
Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 145分
2008 Ir-PC Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 60分
Ir-PC

Streptococcus dysgalactiae ssp. equisimilis
(G群溶血性レンサ球菌)

40分
2009 Ir-PC Serratia marcescens(セラチア) 10分
Ir-PC Streptococcus agalactiae(B群レンサ球菌) 80分
2011 Ir-PC-LR

Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis
(G群溶血性レンサ球菌)

60分
2012 Ir-PC-LR Streptococcus pyogenes(A群溶血性レンサ球菌) 165分
2013 Ir-PC-LR

Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis
(G群溶血性レンサ球菌)

150分
2015 Ir-PC-LR Escherichia coli(大腸菌) 25分
2015 Ir-PC-LR Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 不明
2016 Ir-PC-LR Citrobacter koseri 47分
2017 Ir-PC-LR Lactococcus garvieae 5時間
Ir-PC-LR* Escherichia coli(大腸菌) 20分
Ir-PC-HLA-LR Klebsiella pneumoniae 30分
2018 Ir-WPC-LR Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis
(G群溶血性レンサ球菌)

8時間30分

(投与終了後からの時間)

Ir-PC-LR Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 40分
Ir-PC-LR Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis
(G群溶血性レンサ球菌)
75分
Ir-PC-LR Escherichia coli(大腸菌) 75分
2019 Ir-PC-LR Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 翌日
Ir-PC-LR Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 150分
2020 Ir-PC-LR Enterococcus faecium 約4時間
Ir-PC-LR Escherichia coli(大腸菌) 15分
2022 Ir-PC-LR Morganella morganii

50分

Ir-PC-LR* Morganella morganii 翌日
Ir-PC-LR Streptococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 1時間
Ir-PC-LR Escherichia coli(大腸菌) 40分
2023 Ir-PC-HLA-LR* Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 2時間25分
Ir-PC-LR Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) 約5時間
Ir-PC-LR Streptococcus agalactiae 約2時間40分

*死亡症例

初流血除去および保存前白血球除去の導入後、細菌感染が特定された症例は、すべて血小板製剤の輸血によるものです。

2017年に発生した細菌感染による死亡例については輸血情報1712-156「血小板製剤による細菌感染にご注意ください」、2022年に発生した死亡例については輸血情報2212-178「血小板製剤の輸血による細菌感染が疑われた事例について」に掲載しています。

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細菌接種後の輸血用血液製剤の外観変化

以下の写真は、赤血球製剤にYersinia enterocoliticaを接種した後の色調変化(図1)と、血小板製剤に黄色ブドウ球菌を接種した後に凝固物が析出したもの(図2)です。

図1 Yersinia enterocoliticaの接種後の色調変化

図2 黄色ブドウ球菌の接種後の凝固物

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細菌感染症の診断

発熱・血圧低下または上昇などが認められた場合に細菌感染症を疑い、診断については、臨床症状からBaCon Studyの登録基準を基に判断します。

BaCon Study*の症例登録基準

  1. 次の症状の内、どれか1つ以上が輸血後4時間以内に起こった場合  
    • 発熱(39℃以上、2℃以上の上昇)
    • 悪寒
    • 頻脈
    • 収縮期血圧の変化(30mmHg以上の増加または減少)
      参考症状(必須ではないが、しばしば認められる症状):吐気・嘔吐、呼吸困難感、腰痛
  2. 患者血液と原因製剤の確保(同一の菌が検出された場合が確定診断例)

*:BaCon Study: Assessment of the Frequency of Blood Component Bacterial Contamination Associated with Transfusion Reaction。米国で1998年~2000年の3年間に実施された輸血を介した細菌感染に関する調査。

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医療機関での対応

◆輸血前には、製剤の色調が変化していないか、凝集物が発生していないかなど、外観を十分に観察して下さい。

◆輸血による細菌感染が疑われた場合には、直ちに輸血を中止して適切な処置をするとともに、使用された当該バッグを適切(衛生的かつ冷所)に保管し、赤十字血液センター医薬情報担当者までご連絡ください。また、原因究明のために、使用された当該バッグを提供していただくとともに、必要に応じて患者の臨床菌株を提供していただくことがありますので、血液培養試験陽性の場合は、保管をお願いします。

*:使用された当該バッグの保管
輸血セットのクランプを固く閉め、輸血部門に返却をお願いします。その後、点滴筒の上下をチューブシーラーでシール(チューブシーラーがない場合は鉗子等で確実に結紮)し、ビニール袋に入れて冷蔵保存してください。

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