輸血後GVHD
輸血後GVHD(Post-transfusion graft-versus-host disease)は、輸血用血液製剤中の供血者リンパ球が生着し、患者の体組織を攻撃、傷害することによって起きる病態です(下図)。輸血後1~2週間で発熱・紅斑が出現し、肝障害・下痢・下血等の症状を伴うとともに、骨髄無形成・汎血球減少症、多臓器不全を呈して、ほとんどの症例で輸血から1カ月以内に致死的経過をたどります。
(日本輸血・細胞治療学会 輸血療法委員会 輸血副作用対応ガイド(ver.1.0)より)
かつては、免疫不全の患者にのみ発症すると考えられていましたが、今では、HLA一方向適合等によりそれ以外の患者でも発症することが明らかになっています。HLA一方向適合とは、患者が供血者を認識する方向ではHLAが適合して拒絶しないが、供血者が患者を認識する方向では不適合であるHLAの組み合わせです。例えば、供血者がHLAホモ接合体(a/a)で、しかも患者がその一つを共有するヘテロ接合体(a/b)の場合、輸血によるGVHDが発症しやすいと考えられます。つまり、患者 (a/b)にとっては、供血者リンパ球(a/a)は、自分が持っているのと同じHLA(a)しか持っていないので非自己と認識されず、拒絶されることなく体内に生着します。一方供血者リンパ球(a/a)にとっては、自己にないHLA(b)を持っている患者(a/b)は非自己と認識され、攻撃の対象となります。日本人ではこの組み合わせは数百例に1例、親子間の輸血では約50例に1例とさらに高い確率になります。
有効な治療法はないので、輸血用血液に放射線照射をして予防することが重要です。日本では、血漿製剤を除くほぼすべての輸血用血液で放射線照射が実施され、対策が取られています。しかし、2007年に予防対策が不十分のために発症した症例の存在が確認され、不断の対策が必要なことから、2010年に日本輸血・細胞治療学会から「放射線照射ガイドラインV」が発行されています。