ICRCレジス・サビオ駐日代表が広島を訪問

 広島と長崎に原爆が投下され未曾有の惨禍をもたらしてから76年経った現在、核兵器の使用が人類、環境、そして地球全体に与える深刻な影響は明確であり疑いの余地はありません。
 核兵器の脅威が存在し続け、悪化の一途を辿る一方、本年1月22日、世界中の核被害者の悲願であった核兵器禁止条約が発効しました。同条約は、核兵器の使用や実験が人道上与える壊滅的な被害などを盛り込んだ、国際人道法上初の法律文書であり、その発効は、広島と長崎の惨劇を目の当たりにした赤十字(ICRC)の宿願でした。
 核兵器のいかなる使用も、人道的、倫理的、法的に許容できないというメッセージを世界に発信し、核兵器のない世界の実現に向けた機運を高めることを目的として、今年、ICRC駐日代表部は、2度の広島訪問を果たしました。
 今回の広島訪問では、核兵器廃絶に取り組む様々な人々、特に次代を担う若者たちが行動していくことの重要性を再認識しました。

次世代を担う若者たちとの交流

 8月6日(金)、ICRC(赤十字国際委員会)レジス・サビオ駐日代表(以下「サビオ代表」)とICRC駐日代表部 政治・政策顧問(兼通訳) 榛澤氏が、令和3年広島平和記念式典へ参列のため、広島を訪れました。
 平和を希求する若者たちとの交流を希望していたサビオ代表は、広島平和記念資料館が実施する「次世代と描く原爆の絵」事業に平成19年度から取り組んでいる広島市立基町高等学校創造表現コースの生徒たち、広島で活動する外国人ガイドで国や世代を超えて平和を訴えているメアリー・ポピオさんと交流を深めました。

被爆者の記憶や思いに寄り添う高校生「次世代と描く原爆の絵」

 広島市立基町高等学校で行われているこの取り組みは、被爆者が高齢化する中、被爆の実相を絵画として後世に残すこと、そして、絵の制作を通して、高校生が被爆者の思いを受け継ぎ、平和の尊さについて考えることを目的としています。
 生徒たちが制作した一つひとつの絵画を鑑賞し、被爆者の思いを受け継ぎ、何度も打ち合わせを行った制作過程の話を聞いたサビオ代表は、「被爆者の証言をもとに描いた高校生の作品は、とても力強く私たちに訴えかけてきました。もっと沢山の方々にみなさんの作品を見て頂きたいです。」との感想を生徒たちに伝えました。

IMG_13972.jpg
生徒一人ひとりから説明を受けるサビオ代表

IMG_14652.jpg
原爆の絵を描いた生徒たちに感想を述べるサビオ代表

広島で平和活動するアメリカ人女性

画像

 メアリーさんとの交流では、サビオ代表は、赤十字が行っている人道支援や、世界のさまざまな問題に若者が取り組むにあたっての役割や課題について詳しく説明しました。
 メアリーさんは「実際に戦争文化の結末をその目で見てこられた方からお聞きする平和についてのお話しは、私たちにとってとても興味深かったです。世界が抱える問題に向き合い、解決していくために、平和のための活動を長く続けていきたいと気持ちを新たにしました。」と感想を述べていました。

被爆遺構の見学

 また、サビオ代表は、広島陸軍病院原爆慰霊碑への参拝と市内のサッカースタジアム建設予定地で見つかった旧陸軍施設(中国軍管区輜重(しちょう)兵補充隊)の被爆遺構を見学しました。
 広島陸軍病院には、日本赤十字社広島支部病院救護看護婦生徒養成部を卒業した19名の看護婦が派遣されていましたが、8月6日の原爆投下により原爆死し、その御霊が合祀されています。
 その後、本川小学校平和資料館を見学しました。本川国民学校(現 本川小学校)は、当時、広島市内の公立小学校としては初の鉄筋コンクリート造3階建ての校舎で、爆心地に最も近い学校(約410m)として大きな被害を受けました。

IMG_20210806_1256412.jpg
旧広島陸軍病院の被爆当時の説明を受ける
サビオ代表(中央)と榛澤氏

IMG_20210806_1337122.jpg
旧中国軍管区輜重兵補充隊の被爆遺構を見学

IMG_15642.jpg
本川小学校平和資料館を見学するサビオ代表

旧広島陸軍被服支廠の見学と被爆者との対話

 9月6日(月)、再び広島を訪れたサビオ代表は、被爆者の切明千枝子さんと市内最大級の被爆建物である旧広島陸軍被服支廠を見学しました。
 被服支廠に切明さんの母親が務めていたことや、敷地内の保育園に通い幼少期を過ごしたこと、被爆前に被服支廠内の工場で働き、被爆直後は被服支廠の目の前で野宿した経験がある切明さんは、今年91歳となった今、いつも「今日が最後」と思って、証言活動に臨まれています。
 また、切明さんは被爆後、脱毛や下血など放射線の急性症状を患い、切明さんの証言では「母親がマルセル・ジュノー博士の所へ薬をもらいに行った」そうです。
 切明さんは、「二度と戦争なんかはしてはいけない。戦争して勝った負けたと言っても、勝った方だってたくさんの命が失われているんです。」と訴えていました。
 サビオ代表も「今日、切明さんのお話を聞いて、とても感動しました。ICRCの代表として、私は切明さんの証言をできる限り世界に伝えていきたいと思っています。」と感想を述べました。

IMG_25072.jpg
旧陸軍被服支廠を見学するサビオ代表(左)と被爆者の切明さん(右)

IMG_27342.jpg
当時の様子をサビオ代表に説明する切明さん

ICRCレジス・サビオ駐日代表のコメント

画像

I am so moved from what I heard today from Kiriake-san. I think everybody who had chance to be here today and listened to her would have understood why nuclear weapons should disappear from our world. Kiriake-san was here and her mother was working in this factory on the day of a-bombing, She was miraculously saved by a wall while she was a few kilometers from here. She saw the level of destruction. She saw the level of suffering during these days and the entire world should remember that. This is the strongest statement we can have on the reason why nuclear weapons should not exist anymore. And they cannot be compatible, in my view, with International Humanitarian Law. We know that now TPNW has entered into force, this is a victory for humanity. As a representative of the ICRC, I really want to carry forward the voice of Kiriake-san because I think these voices are the one that will make difference. When this happened, my colleague Dr. Junod was also here in Hiroshima and saw by himself the level of destruction and the level of suffering – all what Kiriake-san described to me just during our discussion today. And immediately he had one reaction. It was that we had to do everything possible for nuclear weapons to be banned. And today when I was listening to her voice, I could only think the same. I think everybody, every human being on the planet thinks the same. Thank you very much, Kiriake-san, arigato gozaimasu. It is such an honour for me to listen to you and be sure that I will carry your testimony as globally as I can. I am so much impressed by how much courage you had and how much you did in order to have leaders of this world listen to your voice and take the right decision.

 サビオ代表は、原子爆弾の脅威を目の当たりにした当時の駐日代表であったマルセル・ジュノー博士に尊敬の念を抱き、ジュノー博士と同じように「核兵器が禁止されるために、可能な限りのことをしなければならない」という思いから、毎年広島・長崎を訪れた際には、被爆者の証言を聴いたり、被爆遺構を見学するなどを行っています。

写真(左)泉水支部事務局長、(中央)ICRCレジス・サビオ駐日代表、(右)ICRC駐日代表部 政治・政策顧問 榛澤氏