世界の赤十字が集結:スイスで国際会議を開催
世界中の赤十字・赤新月社が昨年12月、スイス・ジュネーブで、190の赤十字社が集う国際赤十字・赤新月社連盟総会(以下、連盟総会)、赤十字・赤新月運動代表者会議に続き、赤十字関係者だけでなくジュネーブ条約締約国の政府代表団も参加する赤十字・赤新月国際会議(以下、国際会議)が開催されました。
世界中に広がる赤十字が、苦しんでいる人を救うという共通の目標に向かって、どのような活動をすべきなのか?世界から赤十字に求められていることは何なのか?赤十字の最高議決機関である国際会議において、さまざまな議論が交わされました。
人道支援の中心を担う赤十字ボランティア
一連の会議のスタートを切って連盟総会は12月4日、近衞忠輝連盟会長(日本赤十字社社長)が黙とうを呼び掛けることから始まりました。2015年も多くの赤十字ボランティアやスタッフが、人道支援の最中に命を落としたためです。紛争のさなかであっても、赤十字マークをつけて人道支援に従事している人びとは攻撃の対象にしてはいけません。これはジュネーブ条約(国際人道法)において厳格に定められたルールです。
会期中、紛争といった危険を伴う状況下でも保健医療活動は保護・尊重されるべきであること、ボランティアやスタッフの保護を強化することといった決議が採択され、赤十字・そして各国政府の取り組みの重要性が改めて確認されました。
また、イタリア赤十字社シチリア支部のボランティアには、命懸けで紛争から逃れてきた難民への献身的な支援を称えて、連盟創設者の名前を冠したヘンリー・ダビソン賞が授与されました。
この賞は、人道的活動に多大な貢献をした赤十字関係者に贈られるものです。赤い救護服に身を包んだ総勢約50人のボランティアが壇上に登ると会場から大きな拍手が寄せられました。
災害に強い地域づくり、対応能力の強化に向けて
続く国際会議では、災害に強い地域づくりのための『レジリエンスに向けた10億人の協働』キャンペーンの立ち上げを発表しました。レジリエンス(回復力)とは、災害などの予期せぬ惨事を予測し、被害を未然に防ぎ、適切に対応し逆境から回復するための一連のプロセスで、赤十字が重視している草の根の取り組みの一つです。
近衞会長も「世界の防災意識の底上げでレジリエンスが高まれば、多くの命が救われることになる」とキャンペーンの意義を強調。
赤十字はボランティアやスタッフ、組織の垣根を越えて活動を強化し、政府や地域、他団体などと連携しながら、一人でも多くの命を救うために、一致団結して地域のレジリエンス強化に向けた取り組みを続けていきます。
会場に設けられた日本赤十字社(以下、日赤)のブースでは、青少年赤十字が取り組む防災教育プログラム『まもるいのち ひろめるぼうさい』の教材の英訳版を紹介。防災教育の重要性を訴えました。
世界へ、日赤からのメッセ―ジ
日赤は会期中、原子力災害への対応や核兵器廃絶に向けたメッセージを発信し、サイドイベントを実施しました。
原子力災害については、福島と東京の学生3人が、2011年の福島第一原子力発電所事故について発表。事故と津波による被害が自分たちの生活に与えた影響や、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の結果を受けて、立場を超えて人と人とが対話をすることの重要性を語りました。3人の発表は各国の参加者から絶賛され、「ここ数年で聞いた発表の中で、最も率直かつ注目を浴びた、とても印象深いものだった」などの感想がありました
参加者には、復興への願いを込めて福島県から提供いただいた郷土玩具『起き上がり小法師 』を配布。
倒れても何度でも起き上がる姿が『レジリエンス・ドール』と人気を呼び、受け取った人からは「まさに赤十字の象徴ですね」といった声が寄せられました。
また日赤は核兵器廃絶に向けて、唯一の被爆国の赤十字社として、「原爆は使用された直後だけではなく、70年にわたり被爆者とその子孫までもを苦しめていること。このような兵器は二度と使用されるべきではないこと」を訴えました。
赤十字豆知識~赤十字・赤新月社数と国連加盟国数
連盟総会で南太平洋のツバル赤十字社が正式に承認され、世界の赤十字・赤新月社の数は190となりました。2015年12月現在の国連の加盟国数は193であり、そのほぼすべての国に赤十字・赤新月社が存在しています。
国連の加盟国と赤十字・赤新月社は必ずしも一致していません。例えばクック諸島やパレスチナは国連には加盟していませんが、国際赤十字から承認された赤十字・赤新月社があります。一方、ブータン、エリトリア、マーシャル諸島、ナウル、オマーンは国連に加盟していますが、これらの国には承認された赤十字はまだありません。