紛争地で活動する医療従事者を守れ
今日も世界中で続く紛争や暴力。戦後最大の人道危機と言われるシリアの紛争では、これまでに25万人以上が亡くなりました。犠牲となった人々には、負傷者を助けようとして命を落とした医者や看護師、救急隊員、救急車の運転手なども含まれています。
中には、単に戦闘の巻き添えになっただけでなく、意図的に医療従事者や病院が攻撃されることもあります。このような行為は決して許されるものではありません。赤十字ではこうした状況に警鐘をならし、紛争下であっても医療従事者が安全に活動できるよう、国際社会に呼びかけています。
止まらない医療支援への攻撃
医療従事者や医療施設が攻撃されるとどうなってしまうのでしょうか。
医療従事者の尊い命が失われてしまうだけでなく、本来なら医療従事者によって救助されたはずの多くの人びとを救うことができなくなります。また救急車が攻撃され使用不能になってしまえば、多くの負傷者を迅速に医療施設へ搬送することができなくなります。
実際に、紛争中に亡くなる民間人、そして兵士の中には、医療従事者や医療施設、救急車などが攻撃されてしまったために、本来受けられるべき治療を受けることができずに亡くなるケースも多々あります。
また医療従事者がいなくなってしまったり、病院が機能しなくなったりすることで、戦闘による負傷者の治療だけでなく、慢性疾患の治療や周産期ケア、ワクチン接種なども滞り、結果として地域医療にも深刻な影響を与えます。
紛争下でも守るべきルールがある
例え紛争下であっても、守るべきルールがあります。国際的な条約であるジュネーブ条約(国際人道法)です。国際人道法では、医療従事者や医療施設、医療用車両への攻撃を禁止しています。また、任務を遂行する医療従事者への嫌がらせや脅迫、処罰も禁止されています。
例えば、敵対する人物を治療したことで医療従事者を脅迫したり、反政府勢力の人物を治療したことで処罰したり、検問所などで必要以上に長く救急車を止めるなどの行為を行ってはいけません。
紛争下での保護のマーク
保護すべき医療従事者や医療施設を示すのが、赤十字マークです。赤十字マークを付けている医療従事者や医療施設を攻撃してはいけません。またこうした人びとの救護活動を阻害するような行為も禁止されています。
一方、赤十字マークを付けて活動する医療従事者には、負傷した戦闘員や市民に対し、分け隔てなく治療を行うことが求められます。国籍、人種、宗教的信念、階級、政治的見解、性別、敵味方の区別なく、医療的なニーズのみが優先されるのです。また、赤十字マークを付けた救急車を武器の輸送など本来の目的以外に使うといった、赤十字マークの誤った使用は許されません。
世界的な取り組みを目指して
昨年12月には世界的な人道問題を話し合う赤十字・赤新月国際会議が各国の赤十字社および政府の参加のもとに開催され、医療従事者や医療施設が適切な保護を受けられるよう、各国が自国の赤十字と協力してさらに取り組みを強化することが確認されました。
また今年5月の国連安全保障理事会でも、医療従事者や病院への攻撃は戦争犯罪であると強調し、国際社会に対して国際人道法の遵守を促す決議が採択されました。
赤十字では、一般市民だけでなく紛争に関わるあらゆる当事者、そして医療従事者に対して、医療従事者と医療施設が紛争下であっても適切な保護が受けられるよう、国際人道法の知識の普及を進めていきます。