シリア:「到達困難地域」で赤十字が支援できるわけ
依然として暴力行為が続くシリアでは、幾度にもわたる避難を余儀なくされる人びとが多くいる一方で、紛争当事者によって閉じ込められ逃げることができない人もいます。このような地域に住む人びとに赤十字・赤新月※はどのように支援を届けているのでしょうか。
※赤新月はイスラム圏における赤十字の意
「到達困難地域」「包囲地域」とは
「到達困難地域」とは複数の検問所や紛争当事者との交渉を要することなどから人道支援を行うために定期的に行けない場所と国連によって定義されています。到達困難地域の中には「包囲地域」という、武装勢力に囲まれている場所があります。包囲地域には人道支援を定期的に届けられないことに加え、市民や傷病者もこの地域から出られるとは限りません。2016年6月現在、シリアでは18の包囲地域に住む約59万人を含む、540万人以上が到達困難地域に住んでいます。文字通りこれらの地域に近付くことは難しく、届けられる支援も限られています。
支援を届けるのが難しいわけ
武装集団や広範囲に設置された地雷などは支援物資の輸送を危険にします。そのため、これらの地域に人道支援を届けるには、包囲を戦術として使っている紛争当事者から許可を得ることが必要です。このような状況で、包囲された街に住む市民のニーズを把握し、適切な支援を届けることは大変困難です。国連の安全保障理事会による呼びかけにもかかわらず、国際人道法に違反するかたちで今もなお紛争当事者は包囲を続けています。
物資と希望を届ける赤十字
2016年1月11日には、何カ月も包囲されていたマダヤ、フア、ケフラヤの街に物資を届けることができましたが、実現までは長い道のりでした。まず、反政府勢力が支配するマダヤに援助が届くようにするには、政府軍が支配するフアとケフラヤにも援助が届くようにするという条件の下、紛争当事者と交渉するのには何カ月もかかりました。また、それぞれの街で物資配布を同時に行うことが求められました。途中で、物資を運んでいる一台のトラックがぬかるみにはまってしまった際は抜け出すまで、他の街に向かっていた全てのトラックも動くことが許されませんでした。トラックが街に到着してからは、SNSで写真を共有しながら全ての街が同じ物資を同じタイミングで配る必要がありました。このような方法を受け入れない限り支援を待っている人のもとへ行くことができませんでした。
食料や赤ちゃんが飲むミルク、子どものための栄養補助品、毛布、生理用品、医療機材などの救援物資をマダヤに届けた職員によると、特に子どもや女性、高齢者はお腹を空かせた様子で、栄養失調の人も見受けられたとのことでした。水に香辛料を加えた食事とも言えないようなものを食べている子どももいて、真っ先に「食べ物を持ってきてくれた?」と聞かれたそうです。
4月にはそれまで1年以上支援を届けることができなかったデリゾールに、2500人の1カ月分の食糧に相当する20トンの豆類や米などを国連が空から投下しました。赤十字は投下された食糧を回収し、支援を必要としている市民に優先的に配布しました。空中投下は高度な飛行技術や高額な費用を要し、更には市民の怪我の危険などの理由により最終手段とされています。また、単に物を届けることだけが物資の配布ではありません。外の世界との接触は、包囲された街に住む人びとの希望につながります。トラックで支援を届けた職員も、実際に市民と会い、話し、触れ合うことは物を渡すことと同様に大切だと語っています。空中投下はあくまでも短期的な解決策であり、全ての紛争当事者に包囲を解除するよう赤十字は呼びかけ続けています。
赤十字の活動を支える「中立」「独立」「公平」
このような活動を可能にしているのは赤十字の七原則です。紛争当事者のどちらか一方に味方しているように思われないよう細心の注意を払っています。ほんのわずかな誤解が、活動するボランティアたちの命や赤十字の存在までをも危険な状況へと陥れてしまう可能性があるのです。赤十字は「中立」で「独立」した組織であり、「公平」な立場を貫いているからこそ、他の組織が撤退しても現場に留まり支援と希望を届けられることができます。実際、2015年に赤十字が配布した物資の60%以上が到達困難地域に届けられました。そして、「公平」な組織である赤十字は国際人道法の中でもその使命を果たすことが保障されています。
「可能な範囲で交渉を加速させることで、人びとの命を救うことができます。そして、私たちが支援を提供できるよう、街に戻らせてください」とマダヤで活動した職員は紛争当事者と国際社会に訴えます。今年に入り、包囲地域へのアクセスが改善され、赤十字はこれまで以上に支援を拡大しています。引き続きみなさまの温かいご支援をお願い致します。