核兵器廃絶が、子どもたちの未来を守る
「今回のオバマ大統領の広島訪問が、核のない世界に向けての早急な行動を国際社会に迫る着火剤とならなければなりません。核兵器の禁止と廃絶だけが、子どもたちの未来を保障できるのです。」
今年5月のオバマ大統領の広島訪問を受け、国際赤十字・赤新月社連盟の近衞会長と赤十字国際委員会のマウラー総裁は共同で声明を発表しました。
核兵器廃絶の機運が高まる中で、赤十字の働きかけを中心とした世界の動向について報告します。
歴史的な訪問の一方で高まる脅威
広島・長崎への原爆投下から71年目を迎える今年、アメリカの現職大統領の歴史的な広島訪問は、世界の核兵器廃絶に向けた新たな一歩となりました。オバマ大統領は広島演説の中で、「8月6日の記憶を薄れさせてはならない」と訴え、広島についての歴史的な意味を問いかけるとともに、「核を保有する国々は、恐怖の論理にとらわれず、核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければならない」として核兵器と戦争の廃絶を呼びかけました。
一方で、世界にはいまだ1万5000発以上の核弾頭が存在しています。核廃絶を訴える世界的な運動の「グローバル・ゼロ」によれば、核保有国を巻き込んだ軍事上の事件は過去2年間に約320件にのぼり、故障や不測の事故による偶発的、または意図的な核爆発やサイバー攻撃による核爆発のリスクは冷戦時より高まり、世界に脅威をもたらしていると言われています。
核兵器禁止条約につながる動きとなるか
今年の2月と5月、核兵器を法的に禁止する議論の是非を巡って、スイスのジュネーブで国連核軍縮公開作業部会(以下、作業部会)が開催されました。
この作業部会の議論の根底には、核兵器の「非人道性」があります。核兵器がひとたび使用されれば、無差別に無数の市民が犠牲となり、被爆地の救護や人道支援活動も不可能となります。また、放射能の影響は次世代へも続き、国境を越える自然破壊や異常気象がもたらす影響は計り知れません。
核兵器の開発や実験、使用などの禁止と廃絶を定める核兵器禁止条約を作るべきだという声は、非核保有国の間で高まっています。一方で核保有国はこの会議への参加そのものを見送り、日本やドイツといった「核の傘」にある国々は安全保障の観点から廃絶ではなく段階的な削減を提案しています。
今月5日からは、今年3度目の作業部会が開かれ、秋の国連総会で報告される予定の最終文書が採択されることとなっています。最終文書の草案の中では、「多数の国々が2017年の国連総会で、核兵器の禁止に向けた法的措置についての交渉を開始することに対して支持を表明した」という文言が明記されており、今後の核兵器禁止条約をめぐる議論にもたらす影響が注目されます。
赤十字のアプローチ ~人道上の影響や高まる核爆発のリスクを訴える~
国際赤十字は、原爆投下直後から救護活動に取り組み、日本赤十字社の広島・長崎にある原爆病院は現在でも原爆症に苦しむ被爆者の方がたの治療にあたっています。また、国際赤十字は、第二次世界大戦後早い段階から国際社会に対し、核兵器の「非人道性」について訴えてきました。2011年の赤十字代表者会議では核兵器廃絶を謳う決議を採択し、続く2013年には同決議に基づく4カ年の行動計画を策定しています。
国連の作業部会が開催された今年5月には、作業部会の直前に赤十字のワークショップが開かれました。核兵器がもたらす人道上の影響に加え、不慮の事故やサイバー攻撃などによる核爆発のリスクが近年高まりつつある状況について議論を交え、各国の政府へリスク削減に向けた行動を通して核兵器廃絶への歩みを進めるよう呼びかけを行うことで一致しました。また、政府や議員、市民社会への働きかけを強め、核兵器廃絶に向けた交渉の枠組みを時間制限を設けて設定することの重要性を確認しました。
7月には、ワークショップでの議論を受け、同月にポーランドのワルシャワで開催されたNATOサミットに先立ち、各国赤十字社がNATO各国政府に対し、核兵器がはらむリスクを削減するための取り組みや軍事政策上の核兵器の役割を削減する取り組みを呼びかける意見書をまとめています。
最後に、広島を訪れたオバマ大統領も献花を行った原爆死没者慰霊碑に次の言葉が刻まれています。
「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」
この主語は誰を指すのでしょうか。使用されれば国境を越えて世界に破滅的な影響をもたらす核兵器は、世界の一市民として二度と使用されることがないよう訴えていく必要があります。赤十字は、国という枠組みを超えて支援を行う人道機関として、これからも核兵器の非人道性を訴え、核兵器廃絶を求め、声を上げ続けます。
赤十字の核兵器廃絶に向けた活動について、さらにお知りになりたい方はこちらをご覧ください。