フィリピン:地域の力を生かした保健支援

日本赤十字社(以下、日赤)はフィリピン赤十字社と協力し、住民の保健医療サービスへのアクセスを改善するため、保健医療支援事業に取り組んでいます。

日赤から第24次要員として派遣された山田愛美職員(名古屋第二赤十字病院)と冨澤真紀助産師(日本赤十字社医療センター)から事業地での様子を報告します。

住民自らの手で健康を守るために

事業地では、さまざまな理由から、地域住民が十分な保健医療サービスを受けるのが困難な状況があります。疾病を予防することは重要ですが、水衛生の問題や知識不足のため、防げたはずの感染症にかかる住民が多いのが特徴です。

このような保健医療に関連するぜい弱性を軽減することを目標に、地域保健ボランティアの育成、給水設備の整備や手洗いなどの衛生教育、保健医療サービスの拡充を3つの柱として行っています。

地域のボランティアによる健康教育

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家庭訪問をするボランティア

山田職員が活動するオーロラ州ディラサグ郡は、フィリピン北部の沿岸部に位置します。台風の進路となることも多く、台風や大雨などの災害時には川が増水して孤立する地域があります。外部からの支援がすぐに届かないこともあり、住民自身が災害や疾病から自らを守ることが大切です。

ディラサグ郡では2011年から事業を開始しました。地域保健ボランティアの活動は5年以上続いており、ようやく赤十字の存在や活動が地域に受け入れられてきています。しかしながら、住民のほとんどが従事する農業や漁業の繁忙期や、毎年の台風被害により活動が予定通り進まないこともしばしばです。

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ボランティアによる衛生環境についての講座

そのような中で、ボランティアはさまざまな工夫をしながら住民への健康教育を進めています。一度に多くの住民に伝えられるよう、行政が地域住民を集める機会を利用して健康教育を行うとともに、参加できなかった住民には個別に家庭訪問をしてパンフレットを見せながら説明します。

衛生環境についての講座では、お母さんたちが子どもを抱えながら参加し、熱心にノートを取ってボランティアの説明に耳を傾けていました。家庭訪問でパンフレットを受け取ったおばあさんは「これなら後から読めるし、家族にも説明してあげられる」と嬉しそうに話してくれました。

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ボランティアとともに活動のため山道を歩いて行く様子

冨澤助産師が活動するヌエヴァヴィスカヤ州カヤパ郡は、フィリピン北部の山岳地帯に位置します。舗装された道路はほとんどなく、車両では通行ができない地域も多くあるため、簡単に病院に行って医療を受けることは難しく、病気になれば何時間も担いでもらって山を下りることになります。また、土砂崩れの多発地帯でもあり、台風や大雨で道路が寸断されることもたびたびあります。このような地域では、自分で病気から身を守る、つまり「疾病予防」が非常に重要です。

2014年から同州で始まったこの事業は、地域住民である保健ボランティアが研修を受けて育成され、彼ら自身が健康教育を進める段階にあります。はじめは人前で話すことさえ難しいと感じていたボランティアたちが、徐々に活動に慣れ、地域住民だからこそ知りうる「誰に」「どのように」メッセージを伝えていくのが効果的かを話し合いながらすすめられるようになってきました。農業や家庭との両立が難しいという課題もありますが、ボランティアが「自分たちが地域を守っている」という誇りをもって取り組み始めていることに非常に心強さを感じます。

地域に根差した活動で住民の行動変容を

・オーロラ州

ボランティア自身も生活のために活動が継続できなくなることもあり、順調なことばかりではありません。それでも、当初から活動に携わっているベテランのボランティアが新しいボランティアにノウハウを伝えながら活動を継続しています。

このような地道な努力により、活動が地域に定着してきています。「隣の村でも健康教育をしてほしい」との行政からの依頼で出向くこともあり、赤十字の事業地以外でもボランティアが活躍しています。この事業による支援には限りがありますが、事業終了後もボランティアが活動を続けていける環境を整えていくことが鍵となります。

・ヌエヴァ・ヴィスカヤ州

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ボランティアによる健康教育に熱心に耳を傾ける住民

地域住民への活動が本格的になってきたのが今年の5月。現在は徐々に保健ボランティアの存在が地域で認識されるようになってきました。村長さんからも「住民が保健について学ぶことができるのは素晴らしい」と、村の集会で健康教育ができるように声をかけてもらえるようになりました。保健の分野は結果が出るまでに長い時間を要しますが、このような関係作りが住民の行動変容の助けとなっていくことを期待しています。

今後も引き続き地域保健ボランティアによる健康教育を継続するほか、2018年3月までに各村の小学校の給水・衛生設備の設置や改修、救急法のトレーニングや地域への災害対応資機材の整備などを予定しています。

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