ベトナム:災害から住民の命を守る
日本赤十字社は、ベトナム赤十字社(以下、ベトナム赤)と協力し、1997年からベトナム北部における災害対策事業に取り組んでいます。この事業は、高潮や洪水等の影響から沿岸部の人々の命を守るため、マングローブを植林することから始まりました。事業開始から20年を経た今日では、これまでに植林したマングローブ等の補植や保全、地域住民や行政職員を対象とした防災教育に重点が置かれています。
事業の財源は、例年12月にNHKと共同で実施する海外たすけあいキャンペーンや、本社及び各都道府県支部にお寄せいただいている活動資金です。日本の皆さまからのご支援は、どのようなかたちでベトナムの人々に届いているのでしょうか。現地での活動と人々の声を、昨年12月にベトナムを訪問した大阪府支部の中川俊彬係長から報告します。
植林の大切さ
今回、20年の歳月を経てすくすくと育ったマングローブ等を視察しましたが、タンホア省では倒れてしまったバンの木(※)に遭遇しました。ベトナム赤支部職員のハンさんに倒木の理由を尋ねてみると、2016年10月の台風による洪水の影響とのこと。ハンさんによれば、「木は倒れてしまったものの、そのおかげで地域の人々の命は守られた」のだそうです。(※この地域ではマングローブよりもバンの方が成長しやすいため、マングローブとバンの両方を植林しています。)
「海に面するこの地域に住むうえで大切なのは、台風への備えです。村の人々は、マングローブが防波堤になってくれていることを知っています」と植林の重要性を教えてくれたのは、クァンニン省に住む赤十字ボランティアのクエさん。「赤十字の支援で、広大な地域にマングローブが植林されており、非常に助かっています。気持ちを表現できないくらい、本当に感謝しています。支援してくれた人にありがとうと伝えてほしいです」と続けます。
支部職員やボランティアの話から、植林した木々が、実際に災害からベトナムの人々の命を守ることに貢献していることを知り、沿岸部における植林の大切さをひしひしと感じました。
植林の副次的効果
植林されたマングローブの根には、エビやカニなどの魚介類が生息することができ、生態系の保護、ひいては住民の生計向上にも役立っています。
またマングローブは、気候変動の影響緩和にも役立っており、2025年までに吸収される温室効果ガスは、少なくとも1,630万トンに上ると試算されています。これは、年間約42万5,000人のベトナム人が排出する温室効果ガスの量に値します。
地域に根差した事業のこれから
視察した防災研修では、若者からお年寄りまで、みな積極的に参加していました。参加者は沿岸部の住民であるため、幼い頃から防災への関心が高いそうです。必要な支援を、必要とされている地域に届けることの重要性を、改めて感じました。
また、研修を実施しているベトナム赤の支部職員は、長年の経験に基づいて自信をもって進行しており、この20年間で人材が育ってきていることを実感しました。
これからは、これまでに育成された人材が知識や技術の伝承を行い、マングローブの維持管理や防災教育を続けていくことが重要になってきます。そのため、ベトナム赤は行政機関等とマングローブの維持管理に係る資金や役割分担を取り決めるなど、活動を継続するための連携関係を、一歩一歩着実に構築しているところです。