イラク: 日赤医師を派遣 ~イラク北部での医療救援活動報告~

2014年6月、イラク共和国の首都から北西約400キロにある同国第2の都市モスルをイスラム国(IS)が制圧、「国家の樹立」を宣言しました。それ以来、ISの支配下にあるモスルの奪還作戦が2016年10月、イラク軍により開始されました。

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モスルから避難する市民©IFRC

それ以降、大量の国内避難民が発生するとともに、戦闘による負傷者が急増しています。モスル市内又は、その周辺地域から避難をした人々は、合計約62万人(2017年5月10日現在、国連調べ)にも上り、この数は、鳥取県の人口(約57万人)を上回ります(2015年国勢調査調べ)。およそ48万人は現在も避難したままで、その大部分は、避難民キャンプや人道支援団体が設置した緊急テントでの生活を余儀なくされています(国連調べ)。

また、現在もモスル西地区のIS監視下で生活する約36万の人々は、食料および安全な水を確保できておらず、人道支援団体の保健部門は、夏の到来による気温の上昇に伴い安全でない飲み水に起因する病気の拡大リスクを懸念しています(国連調べ)。

赤十字の活動

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避難民キャンプ近くで食料を配布するイラク赤新月社職員©IFRC

このような状況に対し、赤十字は、2,500名以上の職員およびボランティアが協力し、モスル近郊の避難民キャンプ等において1日15,000食以上の温かい食事を提供するのに加え、救援物資の配布、医療活動、救急法の指導、こころのケア活動を実施しています。

その結果、2016年10月から2017年4月までにモスルからの避難民および脆弱な地域住民へ安全な水の提供(約11万人)、食料配給(約23万人)および保健ケア支援(約44万人)等をおこないました。また、国際赤十字は2016年10月以降、モスル近隣の病院を拠点とした医療支援を拡大しています。

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日本赤十字社から派遣された医師が働く西アルビル救急病院@ICRC

日本赤十字社(以下、「日赤」)は、同支援へ協力するため2017年2月からモスル近郊の街(アルビル)にある西アルビル救急病院へ医師4名(外科医1人、救急医1人、麻酔科医2人)を派遣しました。

彼らは、外科チームの一員として戦地から搬送されてくる負傷者等の治療にあたっています。モスルにおける戦闘の間、多数の傷病者がアルビルに搬入され、病院入口のコンクリートの土間に寝かせるしかない時もあり、その数は、多い時には1日約60人にものぼりました。

戦争でケガを負った人の写真を撮るということ

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渡瀨医師(右から二人目)と患者家族との写真  @ICRC

同病院へ派遣された渡瀨医師は、振り返ります。「私の派遣も終盤にさしかかった頃です。ある病室の診察に訪れた際、患者さんの承諾を得て傷口の写真を撮りました。すると、患者さんのご家族がこう私に訴えかけてきました。

『先生、もっと私達の写真をいっぱい撮ってください。そしてこの惨状を全世界に伝えてほしいのです。』

日頃、私達はこの仕事に携わる際、みだりに患者さんの写真を撮ったり、個人レベルで公開したりすることを固く禁じられています。一般的にも被害に遭った方たちを撮るのは、彼らの傷口に塩を塗るようなものだという考え方もあります。

しかし、この言葉を聞いた時、私ははっとしました。仕事上でこの惨状を知った私達には、もちろんその方と病院をはじめ赤十字組織の承諾の上でのことだけれども、自分たちが知ったことを、もっともっとしっかりと世界に伝える責務があるのではないかと。赤十字は、許される限り最大限に伝えていかなければならないのだとの思いを強くしました。」

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