お知らせ:危機に立つ紛争下での医療支援
「紛争の犠牲者」との言葉からどのような被害を想像しますか?戦闘の最前線で死亡する兵士、爆撃により瓦礫の下敷きとなって命を落とす一般市民。昨今の紛争により命を奪われたり、困難な立場に立っている人々の様子が浮かんでくるかもしれません。
しかし人々が命を落とすのは直接的な攻撃によるものだけではありません。間接的にも、そして長期的にも人々の命と生活を脅かす事態を生み出すことになるのが、医療支援そのものへの攻撃です。
紛争地の医療従事者や病院等への攻撃や嫌がらせが止まりません。今、紛争地の医療支援が危機に立たされています。
やまない、医療施設や医療従事者への攻撃
世界保健機関(WHO)の報告によれば、2016年の 1年間で、世界中で医療施設や医療従事者に対する攻撃が302件ありました。うち207件は医療施設を、52件は医療従事者を、40件は救急車等の傷病人の搬送、3件は傷病者をターゲットにしたものでした。
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被害は紛争によって負傷した人を治療できない、ということだけにとどまりません。紛争が終結した後も、その地域全体の医療に深刻な影響を与えます。本来であれば簡単な治療で治せるケガや、薬さえあれば助かる病気の人が助からなかったり、妊産婦に安全なお産や適切な産後ケアを提供できなかったり、子どもの予防接種が受けられないなど、医療施設が攻撃を受けることによるダメージは多岐にわたり、はかり知れません。
紛争だから、仕方がない?
そもそも、紛争は非常事態なのだから、「何でもあり」なのでしょうか。病院が攻撃されることや、医療従事者が殺害されることは、「仕方がない」ことなのでしょうか?
赤十字国際委員会(ICRC)が2016年に世界16カ国で実施した、紛争に関する様々な課題についての人々の考え方や課題についてのグローバルな調査によれば、「病院や救急車、医療従事者を攻撃することは、悪いことですか、それとも紛争の一部であって仕方がないと考えますか?」という質問に対し、実に13%が「仕方がない」と回答しています。
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しかし、たとえ戦時下であっても、病院や医療従事者が攻撃されることは「仕方がない」ことではありません。これは紛争のルールを定めた国際人道法(ジュネーブ諸条約)で明確に禁止されています。各国政府、武力グループ、一般市民が、紛争下にあるなしにかかわらず、しっかりとこのルールを認識することが必要です。
知っていますか?赤十字マークの本当の意味
国際人道法では、特に傷病者保護のために活動する施設・要員・機材は赤十字マークをつけて保護し、攻撃を禁止しています。日本赤十字社のロゴマークにも使用されている「赤十字マーク」。これは戦時下で保護されるべきものを守るものであり、平時においても誰でも使っていいマークではありません。
日本でも、日本赤十字社以外の病院や薬局、救急箱、またイラスト等で赤十字マークを使用することは禁じられています。万が一の有事の際に、赤十字マークの意味が正しく理解され尊重されるよう、日頃から赤十字マークが正しく使用されることが重要です。
Health Care in Danger(ヘルスケア・イン・デンジャー)
上述のICRCのグローバル調査では、「医療従事者は、味方の傷病者だけを治療すべき」と回答した人が全体の4分の1に上りました。
赤十字思想の根底にあるものは、創始者であるアンリ―・デュナンの「傷ついた兵士はもはや兵士ではない。人間である」という信念です。赤十字マークを身に着けたスタッフには、敵味方なく傷病者を助けなくてはならない、という使命があります。
そこで国際赤十字では、一人でも多くの苦しんでいる人々を救うため、紛争地での医療支援への攻撃がやまない現状を憂慮し、Health Care in Danger(ヘルスケア・イン・デンジャー)と題した啓発キャンペーンを世界で展開しています。病院や医療従事者への攻撃が一日も早くやむよう、こうしたキャンペーンを通じて多くの人々に現状を訴ていきます。
▶キャンペーンについての詳細はこちら(英文ほか)