ネパール:より安全な輸血医療の確立をめざして
2015年4月25日にネパールでマグニチュード7.8の大地震が発生しました。日本赤十字社(以下、日赤という)をはじめ各国赤十字社は、ネパール赤十字社や国際赤十字・赤新月社連盟と協力しながら復興支援事業を続けています。 復興支援事業の一つとして、日赤は同国においてより安全に輸血が行われることを目指し、ネパール赤十字社の血液事業の強化支援を行っています。
ヘモビジランス・システムの構築へ
ネパールも日本と同じように赤十字社が血液事業を行っています。国内にはネパール赤十字社が運営する105か所の血液センターがあり、各施設で採血、血液型・感染症等の検査、輸血用血液製剤の製造などを行っています。
輸血の安全性を向上させるため、首都カトマンズにあるネパール赤十字社中央血液センターでは、昨年からヘモビジランス・システムを導入しました。ヘモビジランス(Haemovigilance:血液安全監視)とは、血液製剤について、献血から輸血に至る全過程に関連するすべての有害事象を監視し、その原因を分析評価することにより適切な対応策を示し、患者さんがより安全で効果的な輸血を受けられるようにする仕組みのことです(世界と日本のヘモビジランスに関する詳細はこちら)。その構築にあたって、まずはカトマンズにある4か所の病院から、輸血による副作用の報告を集めることを始めました。
血液センターと病院をつなぐ架け橋になる人材を
ヘモビジランス・システムを構築するには、その意義や目的を病院に理解してもらい、協力を得ることが重要です。そのため、日赤では医薬情報担当者(Medical Representative:以下、MRという)が血液センターと病院をつなぐ架け橋となり、血液センターの代表として病院を訪問し、医師や看護師などを中心に、輸血用血液製剤の品質・有効性・安全性等に関する情報の収集及び提供に努めています。 ネパール赤十字社においても、このような人材が必要となります。そのため日赤は、ネパール赤十字社血液センターの検査部門よりパワン・グプタさんとラジェンドゥラ・ラヤさんの2名を招聘し、7月31日~8月10日の2週間、MR研修を実施しました。この研修では、MRや血液事業の担当者がマンツーマンで講義を行うだけでなく、MRが実際に病院を訪問する場に同行し、医療関係者と情報を交換する様子を実際に見て学ぶことで、理解を深めてもらいました。また、帰国後すぐにMR活動をはじめられるように、病院で配付するパンフレットの作成や、医師や看護師に輸血用血液製剤の適切な取り扱い方を説明するためのロールプレイングを実施するなど、実践的な研修を行いました。
できる活動から一歩一歩着実に
本研修を担当した日赤職員の田中さんから、「血液センターの顏として、研修で学ばれたことを活かして、責任を持ってMR活動に励んでください。ネパールでMR活動とヘモビジランスの考え方が根付き、輸血医療の安全性が向上されることを祈っています。お二人のことを心から応援しています」と声をかけられると、グプタさんは、「MR活動はネパール赤十字社にとって新しい取り組みで、私たちにとっては大きなチャレンジですが、できる活動から一歩一歩着実に進めていき、血液センターの顏として活躍できるように励みます」と力強く応えました。
帰国から2週間後、グプタさんから、「カトマンズの血液センターや政府機関とミーティングを開き、MR研修で学んだことを情報共有し、ヘモビジランス・システム導入に関する協議を行いました」との連絡が届きました。 今後2人は、病院関係者との情報共有はもちろんのこと、病院へ配付する輸血情報のリーフレットやガイドブックの作成にも積極的に取り組む予定です。ネパールで初となる2人のMRとしての活動が一歩一歩着実に進み、輸血医療の安全性が向上されることを目指して、日赤は支援を続けていきます。