ネパール:震災とトイレの再建~復興支援の現場から~
「ネパールの山岳地帯で暮らす村人たちのトイレ」。皆さんは、どんなイメージを思い浮かべますか。日本赤十字社(日赤)は、2015年4月に発生したネパール大地震で被災した住民の生活再建を支援するため、ネパール赤十字社とともに復興支援に取り組んでいます。そこで、11月19日の「世界トイレの日」にちなみ、復興支援の一環として日赤が取り組むトイレの再建についてご紹介します。
いつでもどこでも必要な、安全な水と衛生的なトイレ
安全な水と衛生的なトイレの確保は、大災害の発生後、赤十字が真っ先に取り組む重要な人道支援活動のひとつです。2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」においても、貧困や飢餓の撲滅、万人のための健康・福祉や教育などとともに、「安全な水とトイレを世界中に」が17の目標のひとつに掲げられています。
ネパールでの取り組み
2011年、ネパール政府は「2017年末までに、屋外での排泄を完全になくす(Open DefecationFree:ODF)」という政策を発表しました。これを機に、全国各地でトイレの設置が着々と進んでいきます。自宅にトイレを持つ人口比率は、2000年には全人口のわずか30%だったものが、2011年に62%、2015年には82%まで伸び、全75郡中37郡でODFが宣言されました(ネパール都市開発省上下水道局調べ)。しかしながら2015年4月、死者8,856人、家屋の全半壊約89万戸という甚大な被害をもたらした大地震の影響により、被災した郡でのODFの取り組みは停滞。また、最も甚大な被害を受けた14郡では、約22万世帯のトイレが損壊してしまいました(同局調べ)。
復興支援の一環としてのトイレ再建
日赤はネパール赤十字社とともに、震災の被害が特に大きかった郡のひとつであるシンドパルチョーク郡において、住宅再建、トイレ再建、生計支援、診療所再建などの復興支援を続けています。
このうち、トイレ再建は、被災した村の1,300世帯を対象にしています。主な活動は、資材の支給、再建の指導、啓発の3つです。ネパール赤十字社は、日赤の支援のもと、便器、パイプ、トタン板などの資材を定期的に被災者に支給しています。しかし、山岳地帯にある被災地までこのような資材を運ぶのはけっして容易なことではありません。やっと手配できたトラックがガタガタ道を何時間もかけて運んだ挙句、わらで包まれた陶器製の便器がいくつか割れてしまうこともよくあります。
資材の配布後、ネパール赤十字社のフィールド職員は、日赤の職員とともに被災世帯を訪ね、トイレの再建作業を見て回ります。用を足しやすいように便器が適切な位置に取りつけられているか、屋根の高さは十分か、水がうまく流れるように土台と便器が水平になっているか、浄化槽の深さや石材の積み上げ方は正しいかなどを点検します。家主や大工は、赤十字職員の助言や指導を受けながら、1~2週間でトイレを完成させます。
ネパールでは、都市部や地方の立派な家では屋内トイレが一般的になっていますが、農村部では今でも住居から少し離れたところにトイレを建てる世帯が多く見られます。
クマヤ・タパさん(70)は、家族8人で新居に住み始めてから1年余りになります。震災前は、トイレは家から離れたところにあったそうですが、赤十字社職員の勧めもあり、家のすぐ隣にトイレを作りました。「私の家族は高齢者も多いので、こちらのほうがずっと楽です」と笑顔で答えてくれました。
すべての支援被災世帯のトイレ再建と、衛生的な暮らしを持続させるために
日赤が支援を始めたばかりの頃は、木の棒とビニールシートだけで作られた仮設トイレがあちらこちらに見られました。しかし、赤十字の啓発活動や技術指導の甲斐もあって、今ではそのようなトイレを探す方が難しくなりました。そんな村の様子を見ると、「ああ、復興が進んでいるなぁ」と実感します。
2018年10月末現在、支援対象1,300世帯のうち、581世帯がトイレの再建を完了し、328世帯が再建中となっています。雨期が終わり、山道も車が通れるようになって、残りの391世帯のトイレ資材の運搬も再開しました。現在の目標は、対象全世帯のトイレ再建を2019年3月末までに終わらせること。そして住民たちが完成したトイレをきちんと管理して、衛生的な暮らしを持続できるよう働きかけていくことです。
日赤の復興支援が、ネパールの人々のこれからの生活環境改善につながるよう、引き続きネパール赤十字社とともに被災者を支えていきます。