バングラデシュ:みんなで支え、みんなでつなぐ~「マジ」の橋渡しで地元コミュニティを強くする~
日本赤十字社(以下、日赤)がバングラデシュ避難民を支援するコックスバザール県の避難民キャンプの現状、そこに暮らす避難民の生活、支援の手を差し伸べているバングラデシュ赤新月社(以下、バ赤)と日赤の活動を2019年1月に開催した「マジ会議」を通じてお届けします。
※国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。
マジ会議とは
キャンプはバングラデシュ国軍がその管理を担っており、「マジ」は国軍から選ばれた男性の、いわば住民代表のことです。「マジ」のもともとの意味は「船頭」だといわれています。ひとりが100世帯ほどを管轄し、担当地区の状況把握やもめごとの解決、配給の調整など、国軍や支援機関と各世帯の仲介役を任います。うまく舵取りをしてひとびとを安全に運ぶ船頭のイメージがしっくりきます。
日赤が支援するバ赤のヘルスセンターでは、ヘルスセンター近辺地区のマジたちを集めて月1度の定例会議を行っています。この会議を通じ、同地区の健康に関わる問題点や改善点を共有し、彼らの合意を得ながら共に対応していくことを目指しています。この場で話し合われたことを、各マジが管轄する地区の住民に伝え、住民からの声をわたしたちにフィードバックしてくれます。こうして、相互のコミュニケーションを深めながら、地区全体の健康増進につなげていくきっかけのひとつとしています。
1月のマジ会議議題:災害対策、感染症流行、母子保健活動
●災害対策
キャンプ地は、もともと広大な森林保護区であった場所を切り開いて急速に拡大してきたことから地盤がゆるく、4月~10月にかけての雨季を迎えると、容易に土砂崩れや冠水が起こります。また、キャンプが位置する地域は5月頃にサイクロンが通過する場所でもあります。ヘルスセンターでは、来るべき雨季を目前に、ヘルスセンターが建つ高台の地滑りを防ぐための補強工事(※1)や、医療支援を始めて1年以上たったセンターの建て替え工事の実施など、急ピッチで進んでいます。マジ会議では、「区画整理によって住まいを移すことになり、普段使用していた水道やトイレが使えなくなったりしている。水道やトイレを新たに設置してくれないか。」といった要望が挙がりました。それに対して、日赤としてできることを伝え、そうでないことは関連する他団体へ紹介するなど、問題解決に向けて話し合いました。
(※1)「Site Maintenance Engineering Project(IOM/UNHCR/WFPが拠出)」による工事
●感染症流行と対策
避難民キャンプ地は常に人が密集しており、かつ上下水道が不十分で衛生状態が保ちにくく、感染症が容易に拡大する状態にあります。昨年の今頃は、ジフテリアが流行し、日赤を含め各団体が協力して、患者発見、隔離、治療、予防投薬、ワクチン接種などの対応に追われました。現在、ジフテリアは散見する程度に終息していますが、昨年末からは水痘(みずぼうそう)が流行しています。
感染症の管理には、伝播経路の遮断が必要です。また重篤な状態にならないよう早期に対応することも大切です。そのためには、正しい知識と行動についての啓発活動が重要で、地元コミュニティから受け入れられ、相談しやすい身近なボランティアの存在が鍵になります。
日赤は、中期支援の柱として、地域住民に正しいメッセージを届ける地元のコミュニティへルスボランティアの育成も行っています。コミュニティボランティアの活動もまた、マジの理解と協力のもとで円滑に行うことができるため、マジとのつながりを強化していくのも、大事な活動の一部です。
●母子保健活動のニーズ
キャンプ内では文化的な背景を理由に、女性の教育や社会参加の機会が男性よりも制限されています。そのような中、妊娠期間中や産後(周産期)の健診を受けることなく、自宅で出産する女性も多く、できるだけ安全に妊娠、出産、子育てができるような支援が必要です。
へルスセンターでは、母子保健の外来を通して周産期の女性と子どもをケアしています。また、配偶者である男性に対しても啓発活動を行うことで、さらなるリプロダクティブヘルス/ライツ(※2)の増進も目指しています。今回のマジ会議では、バ赤の助産師が日赤要員の指導を受けながら、「周産期の5つの危険な兆候」について講義を行いました。マジからは、「そのような症状があるときは、自宅で様子をみるのではなく近くの施設に連れていくように、周りに声をかけておく」と前向きな反応がありました。
(※2)「性と生殖に関する健康」と訳され、女性が生涯にわたって身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを指し、このリプロダクティブ・ヘルスを享受する権利をリプロダクティブ・ライツといいます。
先行きが見えない厳しい状況が長期化するなか、避難民の人々は自分の置かれた環境に向き合い、強く支え合って暮らしています。避難民の方々ができるだけ安全で健康な生活を送れるよう、引き続き、バングラデシュ南部避難民救援金へのご支援をお願い申し上げます。