人々を救いたい。それだけを願って~ジュネーブ諸条約70周年~

戦時中出来る限り多くの人の苦しみを軽減するにはどうすればいいのか?と、もがき悩みながら考えた一人の男性がいました。彼が発案したルールがのちに1949年のジュネーブ諸条約へとつながりました。今年はジュネーブ条約が誕生して70周年を迎えます。時を超えて、戦時中に生まれたルールが今、私達に語りかけることとは何でしょうか。

「人道」との出会い

赤十字、ジュネーブ条約の成り立ち

赤十字、ジュネーブ条約の成り立ち

スイス人ビジネスマン、アンリー・デュナンが北イタリアのソルフェリーノの戦いの戦場に偶然遭遇。近隣の村カスティリオーネで村人と共に負傷者の救護活動に従事しました。敵味方の区別なく傷病者を看護する村人の姿が胸に焼き付いたデュナンは、それから3年後の1862年、この時の体験を一冊の本にまとめました。それが、「ソルフェリーノの思い出」です。この本の中で、彼は、平和な時から戦時の救護団体を創設しておくこと、そしてその安全な活動を国際的に保証する条約の締結を提案しました。前者は今日の赤十字・赤新月社に、後者はジュネーブ条約となり国際人道法を構成するものへと結実しました。

ジュネーブ条約って何だろう?

戦争ではすべてが許されるのか。戦闘員は市民を攻撃してもよいのでしょうか。戦闘員は負傷した後も「敵」であり治療も受けられないのでしょうか。答えはすべて「否」です。戦争にもルールがあるのです。ジュネーブ条約は、戦闘に参加しない人々(一般市民、衛生部隊、宗教指導者、人道支援者)や、もはや戦闘に直接参加することができない人々(傷病兵、捕虜)を保護する条約で、1949年8月12日に誕生しました。第一次世界大戦中、戦争の死者・負傷者はほぼすべて戦闘員でしたが、第二次世界大戦では犠牲者は、戦闘員と一般市民の割合がほぼ同等になりました。こういった状況を鑑み、赤十字国際委員会(ICRC)は一般市民もジュネーブ条約の恩恵を受けることが出来るよう積極的に働きかけを行い、これまであった三つの条約に加えて、一般市民を守ることに重きをおいた四つ目の条約が誕生しました。

第一条約:陸上のの戦闘員の傷病者の保護

第二条約:海上における戦闘員の傷病者及び難破船戦闘員の保護

第三条約:捕虜の保護

第四条約:文民の保護(一般市民及び戦争に参加していない人々の保護)

ますます重要になる国際人道法

隣国レバノンに逃れたシリア難民の子どもたち。シリアでの武力衝突は9年目に突入©IFRC

隣国レバノンに逃れたシリア難民の子どもたち。シリアでの武力衝突は9年目に突入©IFRC

このジュネーブ諸条約や地雷や生物兵器に関する条約等、紛争時に適用される国際的なルールを総称して国際人道法と言います。 誰もいない砂漠で行われていた第一次世界大戦以前の戦争と異なり、現在の戦争は「市街地」で行われるといいます。2017年に赤十字国際委員会が発行した報告書「I Saw My City Die ~死にゆく私の街」では、シリアとイラク、イエメンの中東3カ国における現代の市街戦による民間人への影響について考察しています。イラクとシリアの4つの行政区で行われた市街戦により、2017年3月~2018年7月までの17カ月間で約6,485人の民間人が犠牲になりました。民間人を対象に攻撃を行うことは国際人道法に違反しています。軍人だけでなく一般市民が戦闘員になることもあり、平和な国もいつ紛争に巻き込まれるかわかりません。形を変え世界でいまもなお無くならない紛争による人々の不必要な苦痛を軽減するため、国際人道法のさらなる理解、普及が求められています。

国際人道法普及セミナーを開催

各国の政府、世界の赤十字・赤新月社と同様に、日本赤十字社にも国際人道法の普及に積極的に取り組む義務があります。日本赤十字社では全国の支部や施設で開催するイベントや講習会等を通じて国際人道法の理解促進に取り組んでいます。2019年2月26日~27日にかけて全国から日本赤十字社の職員が集まり、普及の意義やその伝え方、現代の紛争の特徴等を学びました。各地で実施している普及の現状や「国際人道法と聞くだけで難しく捉えられてしまう」「日本人にとって世界で起こっている出来事が身近でないため、伝えるのに苦労する」といった課題意識を共有するとともに、活動計画を作成しました。今後、セミナーを受けた参加者は各自施設に戻り、活動計画に基づき一年を通して各地での国際人道法普及に取り組んでいきます。

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