ヨルダン地域住民参加型保健 (CBHFA) 事業5周年
2011年、シリアでは、前年より始まったアラブの春の影響を受けて、市民が政治改革を訴える民主化運動が始まりました。その運動は次第に武器を用いた闘争へと発展し、民間人を含む多くの死者と国内外への避難民を生み出しました。国外避難民となった人々は、ヨルダンや他の中東諸国、ヨーロッパへと避難しました。
今回は、ヨルダンに保健要員として派遣されている熊本赤十字病院の安部 香織 看護師の報告をご紹介します。
CBHFA事業とは?
ヨルダン赤新月社(以下、「ヨルダン赤」)は、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、「連盟」)の支援を受け、2014年から地域住民参加型保健(Community-Based Health and First Aid: CBHFA)事業を展開しています。CBHFAとは、対象地域でボランティアを育成し、家庭訪問や健康キャンペーンを通して、住民に健康情報や疾病予防についての知識の普及を行う活動です。シリア危機以降急増したシリア難民と、シリア難民を受け入れることで影響を受けているヨルダンの地元住民を対象に、地域の健康増進を目的として行われています。
本事業は日本赤十字社(以下、「日赤」)をはじめ、さまざまな支援団体の協力の下、2つの行政区から始まり、現在8つの行政区にまで対象を拡大し、研修を受けた地域ボランティアによる健康教育はこの5年間で約20万人の住民に届けられました。
5周年記念イベント
本年7月には、事業開始から5周年を記念して、事業の中で重要な役割を果たしてきたボランティアの貢献と功績を称えるための式典と、大規模な健康増進キャンペーンが2日間に渡って開催されました。
1日目の式典では、8つの行政区すべてのボランティアと関係者が一同に会しました。ヨルダン赤代表と連盟代表の挨拶の後、それぞれの行政区のボランティア代表者が、日頃の成功体験やボランティアになったことによる自身の変化等を参加者の前で発表しました。その後、ボランティアひとりひとりに表彰状と記念品が手渡され、ボランティアの方々はそれをとても誇らしそうに受け取っていました。式の終了後にはどこからともなく伝統音楽が流れてくると、参加者は手を取り合って楽しそうに踊りだしました。
2日目は、地域住民約500名を対象とした健康増進キャンペーンを実施。公園を貸し切り、テントを建て、救急法、生活習慣病、健康的な食生活、衛生指導をテーマにボランティアたちが健康教育を行いました。皆慣れた様子で担当のブースで堂々とセッションを行い、住民たちも順々にブースを回って積極的に参加しました。子ども向けのプレイスペースでは、フラフープやボールを使って遊んだり、体操やダンスをしたりして楽しくレクリエーションが行われました。子どもたちの輝く笑顔とボランティアの優しく生き生きとした姿がとても印象的でした。事業開始当初より支援を続けてくれている支援団体も招待され、感謝の意が伝えられると共にボランティアの活動の様子や住民の姿を見てもらいました。
本事業の立ち上げに当たっては日本政府からも支援を受けており、今回も在ヨルダン日本国大使館の柳特命全権大使にご参加頂きました。手洗い方法や救急法を伝えているボランティアの姿を通して、今日まで続いている事業の様子をご覧になりました。
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CBHFAの有効性と可能性
日赤は2015年より本事業に職員を継続的に派遣しています。私(安部)もその一人であり、この事業に関わってからはわずか3か月程度ですが、このように堂々と健康増進イベントを行うボランティアや、彼ら彼女らを支えるヨルダン赤スタッフの姿に心打たれています。私は過去にフィリピンで保健事業の管理を経験したことがありますが、事業開始直後の派遣だったためボランティアが実際に活動する様子はあまり見られませんでした。その為なおさら、このように立派に地域で活動している彼ら彼女らを見て嬉しく思いました。加えて、積極的にイベントに参加する住民の様子を目の当たりにして、この活動が地域に確実に受け入れられていることが実感でき、本事業の有効性と今後の可能性を感じることができました。
シリア危機発生から8年以上が経過しましたが、現在でも約66万人のシリア難民がヨルダンで生活しており、帰国したのはわずか2万人程度で、まだまだ将来を楽観視できない状況です。今後もヨルダン赤はじめ連盟や日赤、他の姉妹赤十字社はシリア難民とヨルダン国民のために活動を続けていきます。
※日本赤十字社では、中東人道危機救援金を募集しています。ご寄付いただいた救援金は、中東地域での難民支援など赤十字の活動に活用されます。皆様の温かいご支援をお願いいたします。
http://www.jrc.or.jp/contribute/help/cat751/