アジア大洋州の国々に災害時にも安全な水を

日本赤十字社(以下、日赤)は、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)と協働で、2010年度より「アジア・大洋州給水・衛生災害対応キット整備事業」を実施しています。この事業は、災害時すぐに被災地に安全な水を供給したり、衛生的な環境を保つための資機材の整備といったハードの支援と、その資機材を実際に運用するための現地スタッフやボランティアの人材育成といったソフトの支援を軸に展開されています。予め各国赤十字社に資機材が整備されており、運用方法を熟知しているスタッフやボランティアがいることで、災害が起こった時には即座に資機材を活用し必要インフラである水を供給することが可能となります。実際に、2018年に起こったラオスのダム決壊事故において、ラオスとカンボジアで資機材が活用されました

カンボジア赤十字社「災害時給水・衛生リフレッシャー研修」視察

今回、日赤本社および愛知県支部、広島県支部の職員が本事業の成果を確認するため、今年度支援対象国であるカンボジアで、ボランティアを対象に実施された「災害時給水・衛生リフレッシャー研修」の視察及び関係者インタビューを行いました。

カンボジアのコンポントム州で3日間実施されたこの研修には、普段は農家として働いているコンポントム州の赤十字ボランティアが25名ほど参加しました。今回は「リフレッシャー研修」ということで、既に基礎研修を受けたことのある参加者が対象です。3日間の研修は、屋内での講義やグループワークと、屋外で実際にMANPACKという資機材(1時間あたり700リットルの浄水が可能)を組み立てるという内容で実施されました。

ポケットチャートで、自分自身の行動に投票する参加者

ポケットチャートで、自分自身の行動に投票する参加者

研修の中では、実際に村で衛生知識を伝えていく方法として、「ポケットチャート」という方法が紹介されました。行動を示す絵に対し、自分が普段どのような行動をしているかを匿名で投票できるような仕組みとなっており、村民一人ひとりが投票することで、村全体でどういう行動が多いかを把握することができます。参加者は意欲的に取り組んでおり、帰ったらすぐ村で実施したいと語っていました。また、実際にMANPACKを組み立て川の水を浄水するプロセスを学び、その水が生活用水として使用できる基準内であるかどうかのチェックを行いました。

水質検査キットを使って浄水後の水を確認
MANPACKを組み立てる研修参加者

(左)水質検査キットを使って浄水後の水を確認(右)MANPACKを組み立てる研修参加者

普段から「正しい行動を根付かせる」ことの重要性

研修の中で特に強調されていたことは、「人々に正しい行動を根付かせる」こと。正しい手洗いができていないことは、開発途上国における下痢の大きな原因の1つでもあります。村の衛生環境を向上させるためにボランティアが念頭に置くべきこととして、水質に気を配るだけではなく、人々が衛生的な行動がとれているかどうかが衛生環境を保つために重要になってきます。

村民に紙芝居でメッセージを伝えるボランティア

村民に紙芝居でメッセージを伝えるボランティア

本事業は災害時の給水衛生事業ではありますが、災害時に特化するだけではなく日頃の村における衛生啓発活動は大切です。日本のように、手を洗うことの重要性やトイレの正しい使い方の意識が平時で徹底されている国とは違い、カンボジアのように平時の行動について改善の余地がある国にとっては、衛生行動への意識を根付かせることが必要不可欠なのです。

絵を「よい」「悪い」に分けて行動を振り返る

絵を「よい」「悪い」に分けて行動を振り返る

研修の後、実際に各村でボランティアが村民に知識を普及する衛生セッションの様子も視察しました。村の参加者は、このようなセッションの場は知識を得るのにとても役に立っており、紙芝居や絵もわかりやすいので、村での行動が少しずつ変わっているという意見が出ました。実際、この地域は10年前まではとても下痢が多かったのですが、このセッションが実施されてからは、下痢の数が少なくなっているということです。

事業レビューを経て

今回の事業レビューを通じて、カンボジア内の対象地域において研修及び衛生教育セッションが計画通り(研修には331名が、村民を対象にした衛生教育セッションには3,219名が参加)進められており、カンボジア赤十字社の災害時給水衛生にかかるキャパシティが強化されていることが分かりました。

愛知県支部の安立陽一 社会活動推進二係長は、「災害時の衛生管理については、日本の避難所等においても重要な課題の一つであり、日本でも十分に活用できる研修内容だと思いました。また、研修の中で赤十字ボランティアが『日本では毎年のように災害が起きていて被災者も多くいるのに、どうして海外の支援をしてくれるのか』という意見が多く出たことがとても印象的でした。現地では、日本赤十字社からの支援を心から喜んでおり、こうした感謝の気持ちを日本赤十字社の支援者に伝えていくべきだと感じました」と感想を述べました。

また、広島県支部の長野忠義 振興係長は、「上下水道やごみ収集が無い、未舗装の道路などインフラの整備が十分ではない開発途上国では、災害時に特に地方で不衛生な状態となり、病気の蔓延による2 次的な被害のリスクが大きいことを学習し、衛生面での課題解決に向けた本事業は、すばらしい取り組みであると思いました。特に、今回視察したカンボジアでは、研修の参加者と講師双方とも真剣にディスカッションする場面が多々あり、本事業が同国で重要な位置づけとなっていることを理解しました。日赤からの支援が現地の衛生面の向上に繋がっていることを意義深く感じました」と語りました。

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