紛争の中医療を届ける-ナイジェリアに医師を派遣-
ギニア湾に面したアフリカの国、ナイジェリア。日本赤十字社は、2019年12月より赤十字国際委員会(以下、ICRC)が実施する医療支援に対して医療スタッフの派遣をスタートしました。現地で活動に従事している杉本卓哉医師(熊本赤十字病院)からのレポートです。
ナイジェリアってどんな国?
ナイジェリアは人口は1億9千万人(世界第7位)で、面積は日本の約2.5倍です。公用語は英語ですが他民族国家であり、現地語は約500言語存在するといわれています。宗教は北部ではイスラム教、南部ではキリスト教が主に信仰されています。国内総生産(GDP)はアフリカで第1位であり、アフリカ随一の大国ですが、残念ながら非常に困難な問題を抱えている国でもあります。問題の1つが様々な暴力行為が頻発していることです。
どのような場所で働いているの?
私の勤務するICRCの外科病院は、ナイジェリア北部に位置するボルノ州の州都マイドゥグリ(上図参照)にあります。人口は約200万人です。2014年には200名以上の女子生徒が誘拐されました。また子どもや女性を犠牲にした暴力行為も起こっていました。近年ではあまり報道されておりませんが、今でもマイドゥグリ郊外や近郊の街では襲撃が相次いでいます。襲撃によって多くの人が居住地を追われ、劣悪な環境で極めて厳しい生活を強いられています。
様々な団体による襲撃はマイドゥグリ市内では起きてはいませんが、私たちは市内でも非常に厳しい安全管理体制に従って行動しています。移動は車のみで、買い物も週に1度、時間やルートを変えながら行っています。
年末年始には朝晩冷え込みが強く、冬用の上着が必要なほどでした。ハマタンと呼ばれるサハラ砂漠方面(北方)からの気流で冷え込むようです。またハマタンによって砂埃がひどくなり、視界不良で飛行機が運航中止になることもありました。現在ではそれほどひどい冷え込みはなく、朝8~9時を過ぎると非常に暑くなります。
ナイジェリアにおけるICRCの活動って?
ICRCはナイジェリアの首都アブジャに代表部を、私の働くマイドゥグリに副代表部を設置して活動を行っていますが、副代表部としては世界最大規模のICRC職員を抱えています。特に「保護」の活動(国際人道法の普及活動、離散家族の再会支援、収容所訪問などの活動)の規模が大きく、重点活動となっています。
杉本医師はどんなことをしているの?
私が所属するMobile Surgical Team(MST、移動外科チーム)は保健部門に属しますが、市内の教育病院の一角を使用して活動しています。各国からの医療スタッフと、現地で採用された医療スタッフで構成されています。武器による外傷の他、交通外傷や手術が必要な風土病患者、合併症を有する患者を受け入れています。
銃器による傷病者に対しては、原則最低2回手術を行います。最初の手術では傷んだ組織を取り除くのみで傷は閉じません。数日後の2回目の手術で、傷が感染していなければ傷を閉じます。しかし感染徴候がある場合や再び何らかの対応が必要な場合には、3回目以降に傷を閉じることになります。単純に閉じることのできない大きな傷には、皮膚移植などで対応することもあります。現在は、病床数約40床の病院で、多数傷病者が発生した場合には病床数を増やして対応しています。手術室は2室あり、一日の手術数は10件前後です。週に一度外来を開いて退院患者の経過を確認しています。その他毎日2〜3件程度、他の医療施設、団体からの患者の紹介を受けています。
杉本医師からのメッセージ
私が最初に赤十字を知ったのは、小学校の国語の教科書でした。その内容はずっと記憶に残っていたのですが、医師になり、外科医として赤十字の医療活動に参加していることに運命のようなものを感じます。
患者を退院させるとき、海外では複雑な気分になります。患者が元気に退院してくれることはうれしいですが、一方で患者を襲撃や貧困などの問題が深刻な世界に返さねばならないことに申し訳なく思います。それでも、こうした活動を続けていくことで、多くの方々の関心を惹きつけ、彼らの生活環境にもよい影響を与えることも期待し、活動報告とさせていただきます。