コロナ禍でも止まることのない気候変動という人道危機
世界中が新型コロナウイルス感染症に立ち向かうようになって早1年以上。増減を繰り返す感染者数と出口の見えない不安が私たちを疲弊させ、ひとえに耐え忍ぶ状況が続いています。そんな中、世界に目を向けると、コロナに加えて、長く苦しい闘いを強いられている人々がいます。
アフガニスタンでは近年、気候変動に伴う気温上昇や気象の変化が、深刻な自然災害を引き起こしています。とりわけ国土の大部分に被害をもたらしているのが干ばつと洪水です。また、40年以上続く紛争によって、水や土地等の自然資源が十分に管理されていない一方で、国民の約7割が農業や家畜などの自然資源に依存する生活を送っており、人々の生活をより困難なものにしています。
食料支援を行うアフガニスタン赤ボランティア@ARCS
2020年10月に始まり現在も続いている干ばつは、近年最も深刻とされた2018年から2019年の干ばつに匹敵すると言われ、全国34州のうち16州に深刻な食糧危機を引き起こしています。この状況を受けて、国際赤十字・赤新月社連盟は2021年4月、約9億円の支援を要請する緊急アピールを発出。特に被害が深刻な10州の人々への食糧支援を中心に、緊急援助を開始し、日赤も500万円の資金援助を行いました。干ばつの一方で、今月(2021年5月)上旬には、集中豪雨が16州を襲い、洪水を誘発。61名の命が奪われ、約4,400世帯が影響を受けました。母屋や灌漑設備、農地に甚大な被害を及ぼし、現在も状況の調査と救護活動が続いています。
アフガニスタンで始まった植樹の活動
このような緊急支援の一方で、日本赤十字社(以下、「日赤」)は複数年にわたる開発援助事業も実施しています。アフガニスタンでは、気候変動に伴う自然災害の影響を強く受ける2州において、住民の災害対応能力を強化するための5ヵ年の事業を2020年7月から開始しました。対象地域は、今回の干ばつと洪水によって最も深刻な被害を受けているサマンガン州とヘラート州です。事業に携わるスタッフの養成や対象村落の選定を終え、2021年1月から、まずはサマンガン州の10村にて活動が始まりました。中でも、初めに取りかかったのが、植樹です。この活動は、地域の緑化を進めるとともに、成長した木々に成る実を市場に販売することで、生計支援につなげることを目指しています。農業省等の政府機関やその 他関連団体と協働して、干ばつに強い樹木の選定から始まりました。加えて肝心となるのが、支援の対象となる人々を選ぶことです。居住する村の外に仕事を持たない人、継続的に樹木の世話ができる人、母子家庭や障がいをもつ方がいる世帯等、アフガニスタン赤新月社(以下、「アフガニスタン赤」)の定める受益者基準を住民のリーダーたちと共有します。基準を受け取った住民たちは、基準に沿って受益者について話し合い、住民への聞き取りを通して自らが受益者リストを作成。これをアフガニスタンン赤が取り纏めました。住民自らが苗木を受け取る受益者を決定することで、公平性を確保し、また長期的な関与が求められる苗木の育成に対し、苗木を受け取る1人ひとりの責任感を醸成することが狙いです。
住民に活動説明をするアフガニスタン赤事業スタッフ@ARCS
満面の笑みで受け取った苗木を掲げる住民©ARCS
2021年3月、そうして選出された876世帯の住民に対して苗木の贈呈式が行われ、アーモンドやピスタチオ、リンゴ等約2万本が手渡されました。また、苗木の適切な管理を目指し、専門知識を持った機関で構成される「技術委員会」を発足。これまで苗木を育てた経験のない住民にも、定期的なモニタリングによるタイムリーな助言を行える仕組みづくりがなされています。
苗木は一人ひとりに手渡しで贈呈され、受けとった住民はサインをする@ARCS
植樹のレクチャーをする技術スタッフ@ARCS
緊急的な支援が求められる国でも長期的な支援を
アフガニスタンは、紛争、自然災害、食糧危機、貧困等、多くの差し迫った人道課題を抱えています。一方で、様々な要因が複雑に絡み合う問題に対し、包括的で長期的な視点に立った支援の必要性が叫ばれています。そのような中、5年間の本事業が成果を出すためには、現地で暮らす人々から活動に対する理解と参画を得ること、そして住民に寄り添い活動を主導するアフガニスタン赤の主体性を最大限に発揮することが不可欠です。繰り返し発生する干ばつや洪水のために緊急的な支援が頻繁に求められる場所において、できるだけ被害を最小限にとどめるためには、将来的な危機への予防策を住民たちが学び、自ら立ち向かう力を育むことが大切です。その地域のニーズを理解するアフガニスタン赤とともに、多くの課題を抱えながらも力強く生きる現地の人々の声に耳を傾けながら、日赤はこれからも支援を続けます。