H.E.L.P. in Tokyo 2021のオンライン開催が決定

人道支援を担うリーダーの育成

日本赤十字看護大学、赤十字国際委員会(ICRC)、日本赤十字社の3者が共同企画し開催するH.E.L.P. (Health Emergencies in Large Populations) in Tokyoが、2021年11月15日(月)~11月26日(金)にオンラインで開催することが決定しました。
H.E.L.P.と呼ばれる同コースは、1986年、世界保健機関(WHO)、ジュネーブ大学の協力のもと、ICRCによって開発されました。自然災害や紛争などの被災地でおこなう人道援助に必要とされる知識、倫理的行動規範を学び、問題解決のための知見や判断力の修得を目指す研修プログラムとなっており、現在はICRCと各国の学術機関、WHO、赤十字・赤新月社が連携し、アメリカ、イラン、インド、キューバ、スイス、ベナン、レバノン、日本の、世界8か国で開催されています。これまでに世界160か国から5000名近くが同コースを修了し、各国の人道支援の現場で活躍しており、現在の新型コロナウイルス感染症に対しても最前線での対応にあたっています。
日本では、2003年から計8回開催されアジア諸国からの参加者を中心に世界各国の人道支援に携わる医療関係者や救援活動従事者が同コースを修了しましたが、今回は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、初めてオンラインで開催することとなりました。新型コロナウイルスの世界的なまん延や、紛争や災害によって大規模な人口移動が発生する事案が増加している現在、集団や過密人口ならではの健康リスクへの対応を理解し、困難な状況下において必要な判断ができるようになることは、まさに今の時代に必要とされています。

(H.E.L.P. in Tokyo 2021の詳細及び応募はこちら。)

世界中の人道支援の最前線から~研修参加者の声~

20210810-beee1b1d0f09e8522bd8f56b48de6c6f5cd1ea61.JPG

日本赤十字看護大学 国際・災害看護学領域 助教 冨澤真紀さん

20189月に開催されたH.E.L.P.コース参加者)

2010年より、助産師として日赤医療センターに勤務。2016年のフィリピン保健医療支援事業での活動を始め、レバノンに逃れているシリア難民の支援事業のためICRCの産科プロジェクトに派遣。20191月にはミャンマーから逃れてきた人々を支援するためにバングラデシュのコックスバザールにおいて活動。現在は日赤看護大学にて、国際・災害看護学の学部生の授業に携わっています。

H.E.L.P.コースに参加しようと思った理由は何ですか?

災害急性期の保健を提供する人材として看護技術だけにとらわれない幅広い保健の知識を身につけたかったからです。H.E.L.P.に参加する前は国際救援の活動としていくつかのプロジェクトに関わる機会がありましたが、個別を対象にした看護の知識・技術だけでは不足を感じ、公衆衛生の知識が必須であることを強く実感しました。また、世界中の人道支援の最前線での活動経験が豊富なインストラクターや各国から参加する多職種の方々と話し合いながら学ぶスタイルも魅力的でした。

世界各国から集まった参加者とともに©JRCS→

HELP2018_2.jpg

H.E.L.P.コースで印象に残っていることはありますか?

水・衛生のことや緊急人道支援における情報管理、リプロダクティブ・ヘルスにおけるMISP(Minimum Initial Service Package:人道支援における必要最低限度の初期サービス)についてなど普段の病院業務ではあまり関わらないところも学ぶことができて非常に興味深かったです。また、良かれと思ってこちらが提供する医療援助、例えば医療衛生物品の配布も、人間の基本的欲求が充足されていない状況では優先順位が下がり、生活に必要なものを手に入れるために売られてしまったりすることもあるという事例が印象的で、インストラクターの豊富な経験から学び考えさせられることも多かったです。

実際に派遣された現場で印象に残っていることはありますか?

バングラデシュのコックスバザールで活動しているとき、避難民の男性が、「妻の出産が停滞しているから診てほしい」とやってきました。実際にお宅に伺うと、骨盤位(逆子)で自宅での安全な分娩が難しいことが判断されました。母と子の安全のためには分娩ケアを提供している医療施設に行く必要があることを伝え、紹介状を渡して受診をしてもらいました。後日、その男性は、生まれた赤ちゃんを連れて日赤のクリニックにやってきました。妻と子は元気にしていることを報告され、育児に関する心配事などを相談されていきました。避難民の方々は、もともといた国において不当に扱われてきたという背景から、医療従事者に対しても不信感があり、医療のない生活に順応している方達でした。そのような方々が日赤のクリニックを訪ねてくれるということは、赤十字の人道医療支援が安全なものという認識がなされた証かと思います。日赤の長期的な関わりが認められた気持ちになった事例でした。

H.E.L.P.コースで学んだことは実際の現場でどのように活かされましたか?

私が派遣されたのは急性期を過ぎてだいぶ経った頃でしたが、まだまだ避難民の生活や保健状態がいいとは言えませんでした。母子保健に関わる人材として、H.E.L.P.で学んだMISPを参考に、限られた資源で必要最低限の医療保健の安全を担保するためには何を優先するべきか、不足するところは他団体とどう連携をとっていくかなど考え、行動することができたと思います。

tomizawa.png

このニュースのPDF版はこちら(580KB)