【速報3】アフガニスタン人道危機 ~赤十字国際委員会 藪﨑拡子さんインタビュー(前編)~
2021年8月、アフガニスタンで急展開した政変は、全世界で衝撃と緊迫感をもって大々的に報じられました。その激動の最中、赤十字国際委員会(以下、ICRC)アフガニスタン南部カンダハール地域事務所で副代表を務め、2021年9月末に25ヶ月に及ぶミッションを終え帰国した藪﨑拡子さんに、当時と現在のアフガニスタンの状況について聞きました。
政変前後の現地カンダハールの様子
Q. まず、ICRCという組織について、少し説明をお願いします。
ICRCは、ジュネーブ諸条約および国際赤十字・赤新月運動の創設者です。武力紛争やその他暴力の伴う事態によって犠牲を強いられる人々の生命と尊厳を保護し、必要な援助を提供することを人道的使命として、ジュネーブ諸条約に加入している国々からの任意の拠出金によって活動しています。ICRCの一番の特長として、その公平・中立・独立した立場から全ての紛争当事者と対話関係にあることが挙げられます。
Q. 政変があった時の現地の様子を教えてください。
私が駐在していたカンダハールは、アフガニスタン南部に位置する同国第2の都市です。今年の2月頃からカンダハール周辺でも空爆が日常的に聞こえるようになり、だんだん市内へと近づいてくるのがわかりました。5月、外国軍が撤退し始めたことをきっかけに戦闘は激しさを増し、7月中旬にはカンダハールの3分の1がタリバンの管轄下に置かれました。そして8月中旬、残りの3分の2もタリバンの管轄下となり、そこから首都カブールが制圧されるまでに時間はかかりませんでした。
ICRCアフガニスタン カンダハール地域事務所 副代表(当時)藪﨑拡子さんⒸICRC
Q. 安全上の問題はなかったのでしょうか。
ICRCの事務所が銃撃戦によって揺れるくらい、戦闘が近づくこともありました。私は約100人の現地職員と働いていましたが、戦闘が近づいたときには、シェルター(有事にはしばらく避難できるよう食料などが備蓄された、壁が分厚くより頑丈で安全な部屋)へ職員を移動させ、防犯カメラが映し出す外の戦況を、ただじっと見入っていました。
8月中旬のある日、再び銃撃の音が激しくなり、職員とともにシェルターの防犯カメラから外を見ていると、戦車が事務所の周りを取り囲み、激しい銃撃戦が始まりました。すると10-15分程で銃撃戦は収まり、当時の政府軍の戦車が基地へ引き揚げていきました。どうしたのだろうと思った矢先、タリバン軍が一気に市内の中心に向けて行進していきました。その後ろをついていく自転車に乗った男性や子供たちの姿も映りました。その一部始終をカメラ越しに見届け、戦闘が終わったこと、そして、タリバンがカンダハールを制圧したことを実感しました。その時のアフガニスタン人の同僚たちの、現実をにわかに受け入れることができないような表情は、今でも忘れることはできません。
Q. 現地の人たちのタリバン政権への捉え方はどのようでしょうか。
地域や人によって捉え方は異なります。カンダハールでは、1990年代後半の前タリバン政権の厳しさを知っており不安に思う人もいれば、紛争が落ち着きタリバン政権によって統制がとれることを期待する人もいます。
ⒸICRC
Q. タリバンが政権を掌握したことによって、赤十字の活動が制限されることはなかったのでしょうか。
ありませんでした。ICRCはいかなる団体、組織にくみすることなく、中立的な立場を守り、独立性を保っています。全ての紛争当事者といかなる時も対話が出来ることを強みとしていて、対話を通じて私たちの活動を受け入れてもらい、人道支援のためのアクセスが守られるのです。タリバンも例外ではなく、彼らともこれまでもずっと対話を続けてきましたし、どの勢力が政権を握ろうとも、人道ニーズのあるところでICRCは変わらず活動を続けてきています。
私も業務上、ほとんど毎日彼らとも話をしていました。対話関係にあるうちの一組織という印象でしかありません。ICRCの職員は皆、同じであると思います。
日本や世界でなされている報道が、必ずしも現地の全体像を映しているとは限りません。例えば、現政権になったことで急に女性の権利が抑圧されたというような報道を目にすることがあります。確かに地域や場面によっては過度な制限を強いられることもあるかもしれません。しかし政権の性質に関わらず、アフガニスタンは長い間保守的な文化を持っているという背景もあります。むしろそのような報道が、政変後も以前と変わらず働く女性たちの不安をあおってしまう事実があるということも、私の経験を通じて伝えておきたいと思います。
Q. 女性の権利のお話が出ましたが、男性のエスコートがなければ女性は外を出歩けないという報道を見かけたことがあります。
確かに、アフガニスタンの外からみると女性の行動が制限されているという見方もあるかもしれません。一方で、現地の女性に話を聞いてみると、家族である男性と一緒に出歩くと守られている安心感があるといった意見や、男性側の意見として、身内の女性が外を歩くときには一緒に付き添い彼女の安全を守ることは当然だという声があることもまた事実です。私はそのような現地の習慣や考え方も大切にしたいと思います。
(インタビュー後編は次号へ続く。)
日本赤十字社では、ICRC、アフガニスタン赤新月社、国際赤十字・赤新月社連盟の緊急人道活動を支援するため、アフガニスタン人道危機救援金の受付を行なっています。海外救援金へのご協力を、どうぞよろしくお願いいたします。