【速報4】アフガニスタン人道危機 ~赤十字国際委員会 藪﨑拡子さんインタビュー(後編)~
2021年8月、アフガニスタンで急展開した政変は、全世界で衝撃と緊迫感をもって大々的に報じられました。今号では、前号に引き続き、赤十字国際委員会(以下、ICRC)アフガニスタン南部カンダハール地域事務所副代表を務め、2021年9月末に25ヶ月に及ぶミッションを終えて帰国した藪﨑拡子さんから、アフガニスタンの人道危機と支援の現状についてお伝えします。
アフガニスタンで今、必要なこと
Q. ICRCによる現地での活動を教えてください。
ICRCカンダハール地域事務所では、いくつもの活動を展開しています。まず、隣接するミルワイズ病院をはじめ医療施設に対し、医療器材や医薬品の提供、スタッフの育成を支援しています。また、収容所を訪問し、拘束されている人々の尊厳に配慮がなされているかを調査したり、紛争当事者に対して国際人道法の遵守を求め、その教育とトレーニングを行うこともICRCが行うユニークで重要な活動です。加えて、紛争時に特に注力した活動として、紛争によって負傷した人々を、民間人、旧政府軍、タリバンの分け隔てなく医療施設へ搬送したり、ご遺体を家族のもとに届けたりしました。
戦闘で負傷し、ミルワイズ病院に搬送された患者ⒸICRC
Q. 紛争が一段落した今、アフガニスタンが必要としている支援は何でしょうか。
紛争が少し落ち着いたように見えても、人道課題が解決したわけではありません。アフガニスタンの人々の命をつなぐために、今、いかなる支援も惜しんではなりません。今回の紛争前からすでに、その日を生き抜くことで精一杯という生活を送っていた人たちは、家や家財道具を戦闘で失い、あるいは住み慣れた家を離れて避難民となり、生活に必要な全てを失いました。そうした人々も、食べて、生きていかなければいけません。
紛争は世間から注目されやすいですが、アフガニスタンが今直面している問題は、それだけではありません。今年に入りアフガニスタンの各地を、この20年間で最も深刻な干ばつが襲いました。国民の8割が従事するといわれる農業や家畜が被害を受け、人々は唯一の生計手段を失っています。
そして、アフガニスタンも、新型コロナウイルス感染症の脅威に直面しています。
厳しい冬に備え、被拘束者に毛布、靴下、衛生用品等を届ける(首都カブール市内の刑務所)ⒸICRC
首都カブールをはじめ、アフガニスタンはまもなく寒さの厳しい冬を迎えます。紛争と政変によって途絶えていた空路や陸路の物流経路が徐々に回復しているとはいえ、まだ十分とはいえません。雪が降れば、再び物流が滞ります。冬に向けての燃料や、食べ物、防寒着などが手に入らなければ、どうやって冬を乗り越えのか、非常に心配です。
そして、何よりも現金が不足しています。現政権に移行して以来、各国や国連からアフガニスタンに対する金融制裁が課されました。それに伴い国内の現金が不足し、銀行から十分に資金を引き出せない状況が続いています。
Q. 医療への支援は足りているのでしょうか。
義肢を制作する技術師(ヘルマンド州、ICRC整形外科病院)ⒸICRC
医療施設は全般的に、物資や人材にこと欠いています。ただ、ICRCが支援する医療施設に限って言えば、あらゆる事態を想定し、医療資材を事前に確保していたので、現在のところ医療サービスが滞っていることはありません。今後より多くの医療ニーズに応えるため、医療スタッフを倍増させて医療体制の強化を図っているところです。
また、国内での衝突が一時落ち着いたことで、これまで立ち入ることのできなかった地域にも支援を広げられるという希望も持っています。
Q. 日本から私たちができることはあるのでしょうか。
まず、現在日本赤十字社が窓口となって「アフガニスタン人道危機救援金」への寄付をお願いしています。繰り返しになりますが、アフガニスタンの人々は今、あらゆる支援を必要としているのです。私たちは、医療、食料、生計支援、水と衛生など、多岐にわたる支援を展開していかなければなりません。寄付したお金がタリバン政権に渡るのではないか?本当に必要な人びとに支援が届くのか?といった声をいただくこともありますが、赤十字への寄付は、現地の政府や他団体を一切介さず、赤十字が現地のニーズに沿って実施する人道支援のみに充てられます。
また、「アフガニスタンを忘れない」ことも、私たちができる重要なことです。今、アフガニスタンは世界から注目されています。しかし残念なことに、今後数か月、あるいは数年経つと、今回の政変前のようにまた忘れられてしまうでしょう。アフガニスタンの人々は、国際社会に再び忘れ去られることを本当に恐れています。タリバン政権になったことで金融制裁が課されていますが、それによって人々はますます苦しい立場に追い込まれます。本当に支援を必要としている人々は、政治的な駆け引きとは全く関係のないところで、ただ生きていかなければならないのです。そういった人々が、今も苦しみの中にいるということを知り、ぜひ忘れないでほしいのです。
アフガニスタンは、約40年もの間ずっと紛争が続いていた国です。彼らはこれから国を安定させていく必要があります。タリバンには今後、アフガニスタン政府としてインフラを整備し、教育環境を整え、国を作っていく責務があります。アフガニスタンという国の行く先と、タリバンが行う全ての行動に、私たち国際社会が長く注目していくことが、そこに暮らす人々のためになるのです。
カンダハール州ミルワイズ病院ⒸICRC
厳しい冬を迎えるアフガニスタン -国際支援が急務
日本赤十字社では、ICRC、アフガニスタン赤新月社、国際赤十字・赤新月社連盟の緊急人道活動を支援するため、アフガニスタン人道危機救援金の受付を行なっています。
アフガニスタンの人びとが今、必要とする支援を届けるため、海外救援金へのご協力を、どうぞよろしくお願いいたします。