気候変動アクション~身近なところから広げる取組みの輪~

 アジア・大洋州地域は、世界の中でも災害が最も多く、2021年には気象に起因する災害で5,700万人が被害を受けました。その影響はアフリカ地域の人々の4倍、あるいはヨーロッパや北アメリカ地域の人々の25倍とも言われます。また、アジア・大洋州地域の多くの都市は、災害の頻発する海岸沿いに位置しています。同地域の人口の半数以上である23億人が居住しているとされる都市部では、無計画な開発や急速な都市化も加わり、気候変動による災害リスクが増しています。

 国際赤十字は、「気候と環境の危機は、人類の未来を脅かす人道上の危機である」と警鐘を鳴らし、2021年5月、「人道団体のための気候・環境憲章」を採択しました。

 さらに、地域や学校における赤十字活動の担い手である若者たち、“ユースボランティア”(以下、「ユース」)の気候変動に対する活動を後押しする『ユースボランティアによる気候変動アクションに関する戦略』を策定しました。ユースたちは新しい考え方やアイデアを提案し、活動に取り入れ促進するという役割を期待されています。

 国際赤十字・赤新月社連盟は、この戦略に沿って、都市部での気候変動アクションのアイデアを実現させるプロジェクトを開始し、日本赤十字社も支援しています。今号では、同プロジェクトにおいてユースが立案し選出された3か国のユースの活動をご紹介します。

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  年々深刻化する気候変動の影響 (c) Matthew Carter_IFRC

学校で気候変動アクション!(ラオス赤十字社)

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 ゲームをしながら気候変動について学ぶユースたち(c)ラオス赤十字社

 ラオスの首都ビエンチャンは、メコン川の下流域に位置し、洪水や干ばつに頻繁に見舞われるなど、同国で最も気候変動の影響を受ける都市のひとつです。ラオス赤十字社のユースは、「ビエンチャンの学校では、防災について学ぶ一方で、気候変動や都市部のリスクを学ぶことはほとんどない」という問題意識を持っており、このような課題に特化したリスクを学んで災害に備えることが重要と考えました。そこで、ラオス赤十字社がすでに実施している学校防災研修プログラムに、気候変動に関するセッションを加えることを提案しました。まず、ユースボランティア自身が講師となって、同世代に知識を広めます。その後、生徒、教師、親、地域団体や住民などと一緒に、彼らの地域が抱える具体的な課題を話し合い、対応計画を作成しました。たとえば、気候変動の影響により増加すると言われる、蚊を媒介する感染症(デング熱やマラリア)の予防や、ごみのリサイクルなどに取り組みました。

ユースチームの立ち上げ(バングラデシュ赤新月社)

 バングラデシュには570もの都市が各地にあり、特に首都ダッカは、世界で最も人口密度の高い都市のひとつです。毎年、都市部では熱波や洪水などによる災害被害に見舞われています。今後ますます気候変動が進み、都心部への更なる人口集中により国内外への避難民が増加することや、衛生的な水の入手が困難となることを、若年層世代は懸念しています。そのような状況にありながらも、同国には気候やその影響について学ぶための教材があまりありません。そこで、バングラデシュ赤新月社のユースは、気候変動に関する教育と取り組みを促進するために、全国から公募で選ばれた20名のユースによる気候レジリエンスチームを立ち上げました。このチームのメンバーは今後、それぞれの居住地における気候リスクを分析し、その地域の実情に即した教育プログラムを作成し、コミュニティやユース対象の研修やイベントを実施していく予定です。

地域活動を担うボランティアの力(バヌアツ赤十字社)

 バヌアツの首都ポートビラは、世界で最もサイクロンなどの自然災害にさらされた都市のひとつに分類されます。

 そこで、バヌアツ赤十字社のユースたちは、ボランティアの知識向上に焦点をあてた活動を計画しました。まず、気候変動に関する研修を主導するユースリーダーを養成し、次に、彼らが自身の地域に戻り、知識の普及や啓発活動を行う、という仕組みを導入しました。日ごろから地域に根差した活動しているボランティアたちが、自身の住む地域のリスクや脆弱性を理解し、地域の気候変動対策と防災意識を促進することが、プロジェクトの持続性にもつながります。また、バヌアツ赤十字社は同国の気候変動庁と覚書を締結し、今後は政府からもこの活動へのサポートを受けることができるようになりました。

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30年前と現在の月ごとの気候を比較する研修参加者(c)バヌアツ赤十字社

小さな一歩を踏み出し、大きなインパクトを目指して

 将来にわたり、気候変動の影響を最も受けることになるのは若い世代ですが、彼らはその影響をただ受け身で待つわけではありません。今回ご紹介した3か国のユースたちのように、一人ひとりの行動は小さなものでも、その積み重ねが、大きな力を持つことを信じて、今から考え方や行動を変えるために声を上げ、周りを巻き込みながら活動を続けています。
 今回の取組みの中で、3か国共通の課題となったのが、新型コロナウイルス感染症のまん延でした。様々な制限により、計画していた活動を変更せざるを得ない状況が続きましたが、3か国のユースたちは、気候変動の問題は決して後回しにしてはいけないとして、その斬新な発想で柔軟にプロジェクトに取り組んでいます。「気候変動の影響に直面する今、地域が災害に対して備えるためには、現実的、具体的で、将来を見据えたユースたちのアイディア取り入れていくことが極めて重要です」と、あるユースは語ります。
 赤十字は今後も、若い世代の革新的なアイデアを取り入れながら、ユースたちとともに、気候変動という大きな地球課題への取組みを強化していきます。

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