「静かな大災害」に襲われたアフリカに思いを馳せて

 日本から遥か遠くに、子どもの6人に1人が孤児となっている国があります(18歳未満人口比)。この国では、1990年代を通して、神奈川県ほどだった人口(約1千万人)に対して年間10万人のHIV新規感染者が発生しました。2022年現在、HIV/AIDSの猛威は過去に比べると抑えられつつありますが、それでも働き盛りの人々の12人に1人がHIV感染者となっています。HIVに感染し、適切な治療を受けられずAIDSを発症し、多くの人々が命を落とした結果、幼い子どもたちが、親を亡くし、将来を夢見る代わりに、その日に食べる食べ物を心配する暮らしをしています。洪水や地震などの自然災害や、爆撃、地雷が使われるような目に見える紛争ではないものの、HIV/AIDSは、この国の未来を脅かす「静かな大災害」です。

 その国は、アフリカ南部に位置するマラウィです。日本から12,000キロ離れた、この小国の主産業はタバコを主とする農業です。肉体労働の農作業で支えられる経済は、働き盛りの世代がいてこそ成り立ちますが、HIV/AIDSにより、働き手世代が激減し、身体を酷使することが難しい高齢者と、幼い孫世代が取り残されています。これほど深刻な事態であるにも関わらず、「静かな大災害」であることに加えて、日本との距離が遠く、マラウィの人々の立場になって想像し、共感することが難しいことは否めません。

 日本赤十字社は、遥か彼方の地で、静かな災害に苦しむ人々が今直面する問題を解決し、また将来の貧困の連鎖を断ち切るため、日本の皆さんに気持ちを寄せていただけるような仕組みを作りたい、と考えました。そこで、日本で新しいいのちが誕生することをきっかけに、アフリカの幼いいのちにも目を向けていただき、生まれてくる赤ちゃんとのそのご家族に優しい世界を作っていくことを目指す「産休サンキュープロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトは、マラウィだけではなく、東アフリカ地域と南部アフリカ地域の子どもたちとそのご家族を救う取り組みで、このテーマにご賛同いただいた企業の皆さまをはじめ、個人の皆様からもご支援をいただいています。また、アフリカへの支援に加えて、日本における産休・育休の取得を促進し、日本で生まれた赤ちゃんとそのご家族にとっても、健やかで温かい家族の時間を増やすことを目指しています。

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ウィルソンさん、エズィリナさんとお孫さんたち。自宅のヤギ小屋の前で日赤ルワンダ現地代表部首席代表吉田要員と。(c)マラウィ赤十字社

■厳しい現実に立ち向かうご家族と子どもたち

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ウィルソンさんとエズィリナさん。自宅のタバコ葉干し小屋の前で。(c)日本赤十字社

 マラウィのヌチシ郡では、働き手世代の3人に1人がAIDSで命を失ったと言われています。マラウィ赤十字社は、「産休サンキュープロジェクト」を通じた日本からの支援により、AIDSで孤児となった子どもたちを世話する世帯に対してヤギを支給しているほか、HIV感染者・AIDS患者とその家族に対する心理ケアや、生活が困窮して学校に行けなくなった子どもたちへ奨学金を提供しています。

 4年前に息子夫婦を失い、4人の孫を育てることになったウィルソンさんとエズィリナさん夫婦は、赤十字からヤギの提供を受けました。当初1頭だったヤギから産まれた子ヤギは、同じ境遇にある隣人に分けたり、生計の足しに売ったりしましたが、今では6頭に増えました。ウィルソンさんは、「孫たちは皆、小学校に通っており、お金がかかる時期ですが、ヤギから得られる収入でやりくりできています。なんとしてでも孫全員に高校まで行って、良い暮らしをして欲しい」と話しています。

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奨学生のジェレ君。17歳で高校3年生。AIDSで父親を亡くしました。去年、学校に職業紹介に来た銀行員に憧れ、公認会計士になることが夢です。(c)日本赤十字社

■聞こえない声を聴き、手を差し伸べるために

 「産休サンキュープロジェクト」は、日本赤十字社が企業や個人の皆さまと共に取り組み、気持ちを結集して支援につなげる、パートナーシップ事業です。マラウィ赤十字社は、家畜の配付や奨学金の提供だけに留まらず、様々な支援方法を通じて、人々の生活に寄り添い、いのちと健康、尊厳が守られたより良い人生を送れるように、尽力しています。また日赤は、世界192の国に広がる赤十字ネットワークを活かして、遠くにいて姿は見えない、支援を必要としている人々の“聞こえない声”を日本に届け、現地で真に必要とされる活動を支援します。

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コミュニティ・ボランティアの女性たち。村の子どもたちを救うため、自分も小さな子どもを抱えながら、週に2回のボランティア活動をしてくれている。(c)日本赤十字社

 これからも、日本とアフリカの新しいいのちを守り、そのご家族に寄り添い、より良い世界を作っていくために、この取り組みに賛同いただけるパートナー企業・個人の皆さまのご参加を心よりお待ちしております。

★産休サンキュープロジェクトについて詳しく知りたい方はこちら★

企業の皆さまはこちら:日赤のホームページ

個人の皆さまはこちら:ヤフー募金のページ

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