レバノン:ふたつの「世界一」を抱える国
日本赤十字社(日赤)は2015年から中東地域への重点支援を始め、レバノンを支援対象国としています。その理由には、ふたつの「世界一」があります。
世界一、国民1人当たりの難民受入れ数が多い国
レバノンは人口1人当たりの難民受入れ数が最も多い国です[1]。2021年のデータ[2]によると、レバノンに暮らす5人に1人はパレスチナやシリア等からきた難民です。難民がこれだけ多い理由のひとつには、150万人ものシリア難民がレバノンに逃れてきているということがあります。2011年から始まったシリア内戦は既に10年を超えています。日赤は、過去7年間に渡ってレバノン赤十字社(レ赤)を通じ、レバノンへ逃れたシリア難民や難民を受け入れるレバノン人のコミュニティへの支援を行ってきました。その支援対象の一つが学校です。難民の子供たちも通う学校では、トイレや手洗い場の数が不足していることから、日赤の支援を通じて新しくこれらを設置してきました。
支援を受けた一つである、イベン・レチェット女子小学校を視察した日赤職員は、「以前は、トイレの数が少なく、トイレを我慢して学校に来ない児童までいたが、今ではそのようなことも無くなった。」「新しい手洗い場で手洗いの習慣を学んだ児童にとっては新型コロナ感染への予防対策にもなった。」「手洗い場の水が飲料水としても使えるので、近所の人たちも利用していて、下痢などの水が原因の病気にならなくなった。」という話を聞きました。
レバノン北部トリポリにあるイベン・レチェット女子小学校のトイレ(左上)と手洗い場(右上)。手洗い場にはUVライト(右上写真の青い機器)を設置。殺菌した水は飲料水としても使用出来ます。
手洗い場には手洗いの方法を掲示しています(左下)。学校を視察する日赤職員(右下)。
[1] https://www.unhcr.org/lb/wp-content/uploads/sites/16/2022/08/UNHCR-Lebanon-Operational-Fact-Sheet-Q2-July-2022.pdf
[2] https://www.unhcr.org/statistics/unhcrstats/618ae4694/mid-year-trends-2021.html
世界一、食料品のインフレ率が高い国
レバノンは2022年の3月から6月の間に食料価格が実質122%上昇し、食料品のインフレ率が世界一となりました[3]。二番目はアフリカのジンバブエですが、23%の上昇に留まっていて、レバノンのインフレ率が驚異的な数値となっています。この背景には深刻な経済危機があります。レバノンは2020年に債務不履行を宣言するほどの深刻な経済危機に陥っていて、難民のみならず、レバノン国民自体も苦しい生活を送っています。経済的事情のために医療サービスを受けられない人々を支援するために、レ赤は自社で抱える診療所の診察を現在は無料とし、多くの人々が受診できるようにしています。しかし、その診療所の多くが老朽化し、改修工事の必要性があります。日赤のレバノンにおける支援には、こうした診療所の改修工事もあります。
フォー診療所の改修前(左)と改修工事中(右)のトイレ。車椅子でもトイレが利用できるように、ドアやトイレ内を広げる予定です。
改修工事の対象となっているフォー診療所は一般外来、内科、小児科、婦人科の診察に加え、血液検査、心電図検査や薬の配付もしています。治療に必要な安全な水を貯めるタンクの欠如、手洗い場の不足、下水処理の不備、電気配線の不足などの問題を改修工事によって解決し、患者の受け入れが円滑になるよう支援しています。
ふたつの「世界一」で厳しい状況にあるレバノンについて、日赤は今後も支援を継続していきます。
[3] https://thedocs.worldbank.org/en/doc/40ebbf38f5a6b68bfc11e5273e1405d4-0090012022/original/Food-Security-Update-LXVII-July-29-2022.pdf