対面型で病院ERU(テント型野外病院)研修を初開催
2022年の冬が近づいた頃、熊本阿蘇のふもとで日本赤十字社(以下、「日赤」)が主催した保健医療ERU(Emergency Response Unit:緊急対応ユニット)研修が開催されました。新型コロナウイルス感染症の影響が残る中、3年ぶりの対面型研修であったことに加えて、これまでの診療所機能から病院としての機能を加えた内容となる初めての研修でした。国際救援の体制強化に資することができましたので、今回のニュースではそもそもERUとはどのようなものか、そしてこの研修の内容についてご紹介します。
■そもそもERUとは?
Emergency Response Unitの略称で、日本語では緊急対応ユニットと称しています。訓練された専門家と資機材をセットにしてあらかじめ整備しておき、海外での大規模災害時等に出動し、困難な状況下でも迅速な救援活動を自立して行うもので、国際赤十字の緊急救援を支えるツールのひとつとなっています。給水や通信、ロジスティクスなど多種多様なERUがある中で、病院ERU(病院型緊急対応ユニット※野外病院)は保健医療分野でのERUの1つ。日赤は、2001年から診療所規模のERU(診療所ERU)を国際救援の現場に派遣し、海外の被災地等で保健医療サービスを提供する活動を通じて保健医療分野におけるERUの知見と経験を培ってきました。2019年にはアジアの赤十字社としては初めて海外に輸送して被災地等での展開が可能な病院ERUの導入を決定。3年の整備期間を経て、2021年に資機材などの必要な整備を完了しています。
■オンラインの強みも活かした研修
今回の研修には、日赤からは23名、外部団体から1名、海外の姉妹社(※1)から6名の合計30名が参加者として研修に参加しました。講師・運営側では31名(国際赤十字赤新月社連盟(以下、連盟)およびカナダ赤十字社から1名ずつ講師参加含む)が研修を担い、診療所ERU研修のときと比べて講師の人数も倍以上となりました。国際赤十字・赤新月社連盟やカナダ赤十字社の協力を得たこと、新たな資機材も加わったこともあり、最新の知見を得られる機会となりました。また、日赤の講師陣にとっても研鑽の場となったことから、研修機会を参加者と講師、双方にとって学びの機会となる総合的な研修としていくことが今後は期待されています。
初めての取り組みとなった今回の研修は大きく分けて3段階で進みました。一つはe-ラーニングを通じた事前学習、二つ目はリアルタイム配信のオンラインウェビナー、そして三つ目は対面型での集合研修です。
オンライン研修では、基礎知識部分の土台づくりができたことに加え、オンライン研修でもグループワークを組み込んだことで、いざ対面型の集合研修で集まってみると、自然と参加者間のコミュニケーションが取られ、派遣や病院運営を想定したシミュレーションに入っていく段階でもスムーズなチームビルディングが図られていたことは特に印象的でした。
ERU研修に海外から講師を招く理由は、実際に日赤がERUを出動する際に、他国の要員がチームの一員として入り、一緒に支え合ってチームでの活動をするケースが多いからです。現在病院ERUを保有している赤十字社は世界に5つ(日赤含むドイツ、フィンランド、ノルウェー、カナダ)しかありません。そのため、このような研修機会に呼びかけ合い、相互に高め合う取り組みが大切になっています。こうした取り組みを通じて、大規模な災害が起きた際には協力し合い、被災者の立場に寄り添って活動できるよう、研修のときからお互いに切磋琢磨しています。
これまでとは異なる要素の一つとして、コロナ対策を考慮しての研修開催という側面もありました。対面型研修は5日間の研修のため、体調不良者が出た際の対応としてのガイドラインを作成し、何かあった際にスムーズに取り掛かれるように備えたほか、食事のときは黙食、手指消毒なども励行されました。コロナ禍での研修に難しさを感じつつも、感染によって体調を崩す人もなく、無事に研修を終えることができました。
社会的にもwithコロナからpostコロナに向けての動きが強まる中、日赤内においてもこれまで以上の体制強化を目指し、引き続き大規模災害時等の出動に備えていきます。
■国際要員を目指す方へ
日赤では「国際要員ウェブサイト」を通じて、国際要員の体験談、派遣先での活動についての帰国報告会や勉強会などのイベント情報を随時更新しています。ERUに関する分野以外にもほかの分野での多岐にわたる活動に従事する国際要員の声についても掲載しておりますので、これから国際要員を目指す方、日赤の国際活動に関心のある方、ぜひ国際要員ウェブサイトを訪れてみてください。
- ※1 各国赤十字社・赤新月社
- 日赤の病院ERUをバーチャルで体験!病院ERUウェブサイトでは病院ERUに関する情報を網羅的にご紹介しているほか、バーチャルツアー機能で各設備のテント内の様子を360度画像で自由にご覧いただけます。ぜひこの機会にご体感ください。