大洋州の小さな諸島で起きた大噴火・津波災害から一年 〜トンガ王国での赤十字の支援~
南大洋州の島国トンガ王国で起こった海底火山噴火から一年。国際支援のアクセスが困難な島国で約8万4,700人が被災しました。現在トルコ・シリアの地震に対する必死の救援活動が行われていますが、緊急救援の先には、人々の生活を取り戻すための復興支援があります。トンガ王国ではまさに復興に向けた取り組みが継続されています。今号では日本からも想いのこもった支援が届けられたトンガ王国での赤十字活動のこれまでとこれからについてご報告します。
日赤の国際活動を支える海外救援金の活動報告「きもちのしるし2022」はこちらをご覧ください
当時の被災状況
2022年1月15日(土)、トンガ王国の首都ヌクアロファの北約65kmに位置する海底火山「フンガトンガ・フンガハアパイ火山」で大規模な噴火が起こり、噴火によって引き起こされた津波、降灰により、国民の8割以上が被災しました(トンガ政府報告)。とくに被害が大きかったのは首都のあるトンガタプ本島の西側の海沿いの地域、海底火山の北東に位置するハアパイ諸島、そしてエウア島の西海岸沿いの一部です。発災直後は深刻な被害を受けた島々から比較的安全な島へ船で避難した人びとを含め、約3,000人が住まいを追われました。
津波は沿岸部の建物やインフラを破壊し、集落が丸ごと飲み込まれた地域もありました。家屋や道路、滑走路に分厚く降り積もった灰は食料や飲み水を運ぶ海外からの航空機の離着陸を阻み、海底の通信ケーブルが破壊され、数週間通信手段が失われたこともありました。またちょうどこの頃、国内での新型コロナウイルス感染症の一例目が確認され、間も無く感染症が爆発的に広がり、ウイルスから人びとを守るための移動制限によって被災した島々への支援はさらに困難となっていったのです。
©Tonga Red Cross Society
©Leki Lao for Tonga Red Cross/IFRC
地元の赤十字社の活躍
島国特有の環境や世界的な感染症のまん延など、様々な困難を抱える状況下でも支援活動を継続できるのは地元に赤十字社があるからです。トンガ赤十字社は職員数15名(トンガ赤十字社が運営する養護学校の職員を含む)の小さな社ですが、島々に広がる約100名の赤十字ボランティアと発災当初から様々な活動を展開しました。発災翌日の1月16日から、トンガタプの西海岸に地域に、予め倉庫に備蓄していた物資(家屋を補修する備品や、防水シート、調理用器具、毛布、歯磨き粉や石鹸、太陽光発電の安全灯など)を配付しました。物資配付の機会に合わせてこころのケアも実施しました。蓋つきのポリバケツを用いて約1万人に安全な水を配付し、避難の途中で離ればなれになってしまった家族のために、衛星電話で安否確認サービスを行い163世帯を支援しました。トンガ赤十字社が運営する学校は新型コロナ感染症のまん延を受けて閉鎖されていましたが、救援物資を管理する保管倉庫として活用され、学校に通っていた生徒達とその家族には水や食料、生活用品が支給されました。(右写真:救援物資の配付と会話を通じたこころのケアの実践©TRCS)
被災者の声を聞き、人びとの尊厳を守る
トンガ赤十字社は様々な調査を段階的に行いました。政府と合同で行った発災直後の現場調査に加えて、特別な支援が必要な人(PLWD)に焦点を当てた調査も行いました。全世帯の約80%が農作物を育てて生計を立てていたこともあり、降灰や海水等による農作物の被害は甚大で、漁船を含む約200隻のボートの損壊も大きな影響を及ぼしていました。トンガ赤十字社はこれを受けて国際赤十字や政府と協力して作付け用の種や農業用具に加えて、農地へ安全な水を引く支援を行いました。また、夜間に安全面で不安を感じる女性や子供の声を受けて、277個のソーラーランタンがトイレや手洗い場に設置されました。調査の設問の中での「復興を阻む最大の問題はなんですか」という問いに対して、PLWDを含む大多数の人が十分なお金がないことを挙げたことを受け、政府の住宅建設費一部支給やPLWDのための新しい住宅改修にかかる費用を負担、必要なものを人々が自由に選択できる現金給付プログラム(741名に日本円で2万円〜3万円程度を支給)も実施しました。また、首都のあるトンガタプ島から110kmほど北東に位置するノムカ島にある人々の生活や家畜の水源である小さなモロウ湖で行われたのはCash for work pilot programという社会復帰プログラムです。清掃や地域での活動を行う対価として村人に現金を給付するものです。ゴミ捨て場は作業現場から1kmの場所を地域の住民達と共に選定し、作業現場から出たゴミは穴を掘って埋め、堆肥化可能なゴミは場所を取らないように穴の外にまとめて積み上げました。津波の影響で堆積した瓦礫や汚染された水が徐々に浄化され、再び利用できるようになりました。
復興に向けて
トンガ赤十字社は現金給付以外にも、復興を見据えた工夫を施しました。例えば、大型の農具や苗木は管理者を村のリーダーに預けます。村の各家庭が利用して、リーダーに返却することで持続可能性を確保しています。また、医療へのアクセスが限られている離島や遠距離にある島では、応急手当てや一次救命処置の知識・技術はとても重要です。講師になれる人材を育てるべく多くの研修を実施しました。生活の糧を失い、将来への不安を抱える人が多くいることから、こころのケアが実践できるボランティアを育成する研修や、家庭用浄水フィルターの設置とメンテナンスに関する研修は国際赤十字の専門員を現地に呼んで実施されました。浄水フィルターは津波で被害を受けた家庭に限らず、多くの住民が共同で使えるように学校や教会に設置されました。
さらに、将来の災害に備えて救護倉庫の在庫調査を行い、シェルターキット、キッチンセット、衛生キット、毛布、ソーラーランプ、蚊帳、水容器などが補充され、倉庫の屋根や床の補修も行われました。また、本社と支部の連携にかかる手順の確認や整備、緊急対応センターの整備も行われています。
(右写真:浄水フィルターの使い方について指導を受けるトンガ赤十字社の職員とボランティア©IFRC)
これからも、島の人びとと共に
比較的若く経験も少ない職員が多かったトンガ赤十字社で唯一過去の災害対応経験を持つシオネ事務総長は、国際赤十字のネットワークを駆使してフィジーやオーストラリア、ニュージーランド、マレーシア等の赤十字・赤新月社事務所と連絡を取りながら活動を指揮し、職員とボランティアを鼓舞し、牽引し続けました。「災害は王国中の人びとの存在やその命について考えさせる出来事でした。特に今回壊滅的な被害に遭った小さな島々に暮らす人びとのことです。私たちは強くなる努力を続け、弱い立場の人びとの支えにならなくてはなリません。これから先、人びとの生活再建に向けた長い道のりに寄り添い続けることを心に決めています。」トンガ赤十字社のボランティアと地域の住民はモロウ湖の周辺に地元の果物の苗を植えました。砂地や雨風にも強いこの苗は、地域の食料確保と自立を促し環境を改善し、モロウ湖を美しく守る人びとの決意が表れています。(左写真:モロウ湖の周辺に植えられた果物の苗©IFRC)