ネパール:地域住民による地域住民のための防災事業
日本赤十字社(以下、日赤)は、ネパール赤十字社(以下、ネパール赤)とともに、ネパール西部3県の災害対応能力の向上を目指す「コミュニティ防災強化事業(以下、本事業)」を実施しています。2021年1月に開始した本事業は、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の再拡大を受けて、予定していた防災活動の実施を見合わせ、マスクや消毒液等の配布やワクチン接種会場でのサポート等、コロナへの対応を優先してきました。そして、コロナの影響が落ち着いた2022年12月、ようやく防災活動を開始しました。
■最初の活動、自主防災組織の結成
初めに取り掛かったのが「地域自主防災組織」の結成です。「地域自主防災組織」は日本の消防団とよく似た組織で、地域に暮らす任意の住民から構成され、地域行政と協働しながら平時の防災活動や有事の初動対応等を行う重要な役目を担います。
2022年12月15日、事業対象地の一つであるピュータン県ピュータン市第5地区では、オリエンテーションが行われました。地域住民の誰もが参加できるこのオリエンテーションは、地域唯一の高校を会場に開催され、教室に入りきらないほどの人々が自主的に参加しました。ネパール赤のスタッフからの事業の目的や活動、そして、自主防災組織の意義と役割に関する説明に熱心に耳を傾け、「町から遠く離れた山岳地の村では、災害時に外部からの迅速な援助が望めない。自分たちで協力し、対応する力と仕組みを育むこのプロジェクトは非常に重要だ」「組織の結成も大事だが、それを村の皆で存続していくことが大事だ」といったいくつもの意見や質問が飛び交い、参加者の高い関心が伺えました。
各世帯から集まった人々ⓒ日本赤十字社
事業説明をするネパール赤事業スタッフ。椅子に座り切れない参加者もⓒ日本赤十字社
その後、住居の立地、ボランティア活動経験の有無、住民からの推薦、本人の意志等を基準に「地域自主防災組織」のメンバーについて参加者間で話し合い、地域行政からの1人を含む計11人がこの地区の「自主防災組織」メンバーとして選ばれました。
委員長に選ばれたチョトゥさん(写真右端)は、「ネパール赤十字社のことは災害で真っ先に駆けつける存在として知っていた。災害時、誰かを助けたいときに、個人よりも組織で活動する方がたくさんの人の力になれると思うのでメンバーに立候補した。委員長に選ばれて嬉しい」と語りました。
自主防災組織のメンバーⓒ日本赤十字社
■災害時、私たちを守れるのは私たち自身
一方、ピュータン県ナウバヒニ市第3地区では、すでに自主防災組織が結成され、次の活動「Vulnerability and Capacity Assessment(VCA)」に取り掛かっています。VCAは、住民参加型ワークショップの形式で、地域における災害リスクや自分たちがすでに持っている災害対応能力を議論、特定し、可視化する活動です。
200人を超える地域住民が開催場所となった区役所前広場に集まり、活動がスタート。過去の土砂崩れの被害状況や外部からの支援状況、各世帯の雨季と乾季の時期の水と衛生状況、過去に地域で流行した感染症、野生動物による被害、落雷に至るまで、災害に関する様々な議論が行われました。
以前土砂崩れの発生した実際の山を見ながら地図に書き込む参加者ⓒ日本赤十字社
完成した災害リスクマップⓒ日本赤十字社
活発な議論を引き出す自主防災組織メンバーⓒ日本赤十字社
ここで、ネパール赤の事業スタッフとともに中心となってこの活動を進めるのは、先に地域の人々によって選ばれた自主防災組織のメンバーです。自主防災組織のメンバーの一人である、ジャルピさんは語ります。「私の役目は、地域の人々が主体的に議論する中で、自分たちの地域の災害に関心を持ち、自分たちの力で備えようとするムードをつくること。災害時、最初に私たちを守ることができるのは私たち自身なのです」
本事業では引き続き、自主防災組織の取り組みを支援するとともに、今後は、VCAを通して明らかになった災害情報をもとに、防災計画の策定や防災資材の配備等を進めていきます。
自主防災組織のメンバー、ジャルピさんⓒ日本赤十字社