インドネシアと日本の防災を比較する~日本赤十字社の国内防災担当が見たインドネシアの取り組み~

日本赤十字社(以下、「日赤」)は、「NHK海外たすけあい」への皆様からのご寄付によって、インドネシアで巨大地震の可能性が指摘される地域において「学校と家庭を軸に、災害に強い地域づくりを進める」ことを目的に、本年12月までの約3年間の計画でインドネシア赤十字社と防災強化事業を実施しています。その活動が終盤を迎えるにあたり、事業の進捗確認に加え、日赤が持つ知見や技術を共有するため、10月上旬、日赤の中村秀徳防災業務課長(本社)が現地を訪問しました。本号では、日頃は日本国内での防災活動を担っている同氏から、インドネシアの学校や村落での防災活動の様子をご紹介し、日本とインドネシアの防災の共通点や違いを考察します。以下、中村からの現地レポートです。

「赤十字防災セミナー」の紹介

私は、平成29年度から日赤が全国展開している「防災教育事業」の担当として、日々、国内の防災・減災の普及に取り組んでいます。今回、地震や津波対策等の防災・減災に取り組んでいるインドネシアのケブメン県の村々を訪問し、日赤が国内で行う赤十字防災セミナーのカリキュラムの一つ「家具安全対策ゲーム」を紹介しつつ、家の中の安全確保の重要性を伝える役目を担いました。また、一部の村では、住民の家を訪問し、実際に、家具の配置や安全対策について確認するとともに、今後の適切な対策のアドバイスも行いました。

画像 日赤の防災セミナー「家具安全対策ゲーム」を紹介する防災業務課 中村(写真中央) ©日本赤十字社

屋内でのリスク管理はあまり重視されて来なかったことから、どの村の人々も、私の話を熱心に聞いてくださり、インドネシアの人々の災害、特に地震・津波に対する意識の高さを伺い知ることができました。日本でも、今後30年以内に高い確率で発生が危惧されている南海トラフ地震・首都直下地震等、地域住民の災害に対する関心は非常に高まっています。どちらの国も地震が多く、防災・減災の普及に力を入れている点は、非常に似ていると感じました。

学校で聴いた「地震の歌」

一方、インドネシア赤十字社が防災教育を支援している4つの小中学校を訪問して、「防災〇✕クイズ」を実施し、生徒たちの防災知識や行動を確認しました。具体的な内容としては「お家にいるときに地震が起きたら、すぐに外に逃げる? 海の近くで地震が起きたら、急いで車に乗って家に帰る?…」といったものです。どの生徒も真剣に取り組んでくれて、その姿からインドネシアにおいて、防災に対する基本的な知識が確実に浸透してきていることを実感しました。私たちからのクイズの後、生徒達がインドネシアの「地震の歌」防災ソングを披露してくれました。

「地震の歌」

(インドネシア語)
Kalau ada gempa, lindungi kepala
Kalau ada gempa, masuk kolom meja
Kalau ada gempa, jauhilah kaca
Kalau ada gempa, lari ke tempat terbuka

(日本語訳)
地震が起きたら、頭を守ろう
地震が起きたら、テーブルの下に入ろう
地震が起きたら、ガラスに近づかない
地震が起きたら、開けた場所に逃げよう

生徒たちは歌い終えると同時に、急ぎ足で教室の外に出て多くの人が集まれるスペースに避難します。この行動を見たとき、日本で行われている「避難訓練」を思い出しつつ、インドネシアでは「地震の歌」というツールを活用して、子どもたちへの防災教育が進められていることが分かりました。

画像 「地震の歌」を歌い、机の下に潜り込む子どもたち ©日本赤十字社

このように、子どもの頃から防災に関する良い意味での刷り込みが行われ、いざ災害が起こったときに、考えることなく体が動けることが大切です。また、子どもたちへの防災教育を通して、学校で得た知識や行動を家族に伝えることも副次的に期待できます。日本での防災教育の普及に共通する考え方、その実践を目の当りにすることができました。

「逃げない」という選択肢

さらに、訪問した事業地は、地震・津波の危険性が高い地域であることから、東日本大震災の被害状況や対応など、私たちの経験を共有しました。津波は「素早い避難」が命を守る鍵であるとお話ししたところ、ご自身の死生観あるいは宗教観により、地震災害を運命として受け入れて「あえて避難しない」選択をする方もおられると聞きました。

画像 ©日本赤十字社

私はインドネシア特有の態度かと思いましたが、帰国後、防災に関する各自治体の担当者が出席する研修会に参加した際、日本国内でも同様のケースがあることを初めて知りました。各自治体の担当者も頭を悩ませており、「老若男女問わず、率先避難の重要性を広めていかねば」と話し合いました。この「逃げない」という個々人の選択肢に、今後どのように向き合い、解決していくのか。災害により犠牲となる命を守るため、赤十字防災セミナーの更なる活用を改めて認識しました。

「SIBAT(シーバット)」の存在

インドネシアにはインドネシア赤十字社が育成している「SIBAT(シーバット)」と呼ばれる村落防災ボランティアが活動しています。様々な研修を受け、防災・減災への理解を深めて、経験を積みながら、村人たちに防災・減災に関する知識を普及し、村の防災計画の策定や避難経路の設定などに取り組んでいます。

写真の3人は、両脇に座るSIBATのメンバー2人が中央の方のお宅を訪問して、防災対策を説明している様子です。

画像 ©日本赤十字社

「もし、地震が起こった時に家にいたら、頭を守って安全な場所に逃げてください。私たちSIBATが避難してくださいと言う前に、できるだけ海から離れてください。そして、一回避難したら決して家に戻らないでください。防災バッグは用意していますか? 大きなバッグに、身の回りの必要なもの(常備薬・石鹸等)を入れてありますか? 食料は3日間分準備できていますか?…」と、災害時の避難と日頃の災害への備えの重要性について、チェックリストを確認しながら熱心かつ丁寧に説明していました。

どのようにして、このようにスムーズな説明ができるようになったのか尋ねると、他の村で活動する先輩SIBATの説明を聞きに行ったり、村のイベントでMCを務めて人前で話す練習をしたり、家の中で鏡の前に立って自らが説明する姿を確認したりと、自分の村の人たちを守るために一生懸命に勉強したとのことでした。インドネシアのボランティアの意識の高さと村の防災は自分達が支えているのだという気概を感じました。日本にも、それぞれの生活がある中で、各地域で日々活動してくださるボランティアの皆さんがおられます。災害時には、炊き出しや被災地での片づけ、泥かき等、そして、私たちが普及している赤十字防災セミナーも、多くのボランティアの方々の協力のもと成り立っています。そんなボランティアの皆さんが人知れず努力を重ね、自ら活動の準備をしていることを思い浮かべ、それぞれのフィールドで活躍できる場を提供し、活動しやすい環境を整えていくことが、我々職員の役目であると改めて感じました。

おわりに

日本とインドネシアは共に災害が起こりやすい環境に置かれ、それぞれの社会環境や文化に基づき、防災・減災の手段や方法の違いはありますが、取り組む基本的な姿勢は同じです。災害が起こった時に、ひとりでも多くの方の命を救うために必要なこととして、平時に、防災・減災に関する知識を普及し、避難が必要な時には率先避難者となる等、行動変容に繋げていくことが大切です。そこで、日赤では、関東大震災から100年目となった本年、赤十字防災セミナーの中に「家具安全対策ゲーム」「おうちのキケン」「ひなんじょ たいけん」という地震への備えに重点を置く3つの新たなカリキュラムを追加し、全国各地で実施しています。この機会にぜひ、多くの皆さまに体験していただきたく、ご参加をお待ちしています。

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