赤十字運動の未来を担う子どもたちを育てる~南部アフリカ赤十字社の取り組み~

 日本赤十字社(以下、「日赤」)は、12月1日から「NHK海外たすけあいキャンペーン」を実施しています。今回は、皆さまからいただいたご寄付で実施している事業の一つ、「南部アフリカ地域保健・教育支援事業」について、11月に現地を訪れた本社職員からご報告します。

■女性と子どもの健康を脅かすHIV・エイズ感染症

 皆さんは、エスワティニ王国、ザンビア共和国という国名を耳にしたとき、地図上でその場所を思い浮かべることはできますか?アフリカということは知っていても、具体的な場所はわからないかもしれません。エスワティニ王国とザンビア共和国はともに南部アフリカにあります。世界の中で、もっともHIV・エイズ感染症の蔓延している地域です。

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 こうした状況を受けて日赤は、2003年から国際赤十字・赤新月社連盟(以下、「連盟」)を通して南部アフリカのエイズ孤児やHIV陽性者の支援を実施しています。

■子どもたちをつなぎ、権利と心を守る「ティーンクラブ」: エスワティニ王国赤十字社、シレレクリニックの取り組み

 エスワティニ赤十字社が政府から委託を受けて運営する3つのクリニックのひとつ、シレレクリニックでは、エイズ孤児やHIV陽性者など、社会的に弱い立場におかれたこれらの人びとへの物的・心理的支援を行なっています。
 エスワティニの首都ムババーネから車で約4時間走ったところに、シレレクリニックはあります。クリニックの「ティーンクラブ」には、毎月1回、18歳以下のエイズ孤児やHIV陽性者が集まってきます。ここでは、クラブのメンバー同志がお互いの感染状態を知っているので、差別や偏見を心配せず、信頼して、ともに笑い、遊び、日頃通っている学校では話せない悩みを共有したりできます。
 メンバーの1人の男子学生は18歳、クラブの最年長として、年下のメンバーを思いやり、サポートしています。「19歳になるとクラブを『卒業』しなければいけないけれど、その後もクラブのメンバーを支えていきたい」と話してくれました。

画像 ティーンクラブのメンバーら ©日赤

「新型コロナ感染症が拡大する前は、スポーツ大会や、他のクラブの仲間と交流プログラムを行なって、とても楽しかった」(クラブ・メンバー)

「また交流会をやりたいし、みんなでサッカーをしたい」(クラブ・メンバー)

「ティーンクラブに行ってきた日は、子どもの表情が違う。その日にあった楽しかった出来事を生き生きと話してくれる。ティーンクラブのお陰です。日本の支援に心から感謝します」(保護者の女性)

 メンバーの子どもたちや保護者が話す様子から、シレレクリニックのスタッフやボランティアとの間に確かな信頼関係が築かれ、子どもたちが身体的にも、心理的にも、守られていることが感じられました。
 またシレレクリニックのボランティアたちは、定期的にHIV感染者の家庭訪問を行い、抗レトロウイルス薬による治療をきちっと守れているか、副作用はないかを確認し、何か困ったことがないかを聞き、心理的支援を行っています。

画像 シレレクリニックのボランティアの家庭訪問を受ける受益者男性 ©日赤

■子どもから子どもへ伝える「ピア・エデュケーター」: ザンビア赤十字社カピリ・ムポシ支部の取り組み

 カピリ・ムポシ市は、ザンビアの首都ルサカから車で約5時間のところに位置する人口4万人の地方都市です。ザンビア赤十字社カピリ・ムポシ支部は、ここで、エイズ孤児、HIV陽性者などの貧困世帯を支援する取り組みを始めました。地方政府と協力して選んだ5つの学校で、貧困世帯の子どもへの物的支援や、学校クラブをとおしたHIV・エイズ予防などの啓発活動を行なっています。支援を受けた子どものなかには、カピリ・ムポシ支部から研修を受けて「ピア・エデュケーター[1]」として活動する子どももいます。

[1] 同世代の仲間と一緒にエイズや命の大切さを考える研修を受けた人のことをさします。カピリ・ムポシ支部では、エイズ孤児や学生のボランティアをピア・エデュケーターとして研修しています。

 「わたしは、人のために何かすることが好きなので、研修を受けてピア・エデュケーターになることができて、とてもうれしい。もっとクラブを活発にして、みんなのためになりたい」「高校を卒業したら、進学したい。だから、進学資金の支援を受けられるように、がんばって勉強している」と、ピア・エデュケーターの研修を受けた女子学生は、目を輝かせて語ってくれました。

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ピア・エデュケーターの女子学生 ©日赤

■未来へ繋ぐ、赤十字ボランティア

 エスワティニとザンビアで出会ったエイズ孤児、HIV陽性者の子どもたちは、困難な状況にありながら、お互い支え合って、精一杯生きています。自分が救われたように、仲間を助けてあげたい、支え合いたい、と語った子どもたちの笑顔がとても印象に残っています。そして、こうした子どもたちを支えているのが、両国赤十字社のボランティアの力です。人手不足や資金不足を乗り越えるために、様々な垣根を超えて、政府や他の援助機関と協力して、どんな状況にあっても、活動を続けるボランティアの皆さんのエネルギーを、日本から支えていきたいと思います。

画像 ザンビア赤十字社カピリ・ムポシ支部のメンバーとボランティア ©日赤

 日本赤十字社は2023年12月1日から25日まで、「NHK海外たすけあい」キャンペーンを実施しています。「NHK海外たすけあい」を通じて皆様からお寄せいただくご寄付は、今回ご紹介したエイズ孤児への支援のほか、世界各地で紛争、災害、病気などで支援を必要とする人びとに届けられます。皆様のご協力をよろしくお願いいたします。「NHK海外たすけあい」特設サイトでは、日本赤十字社の国際活動についてより詳しくご紹介しています。

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