アフガニスタン地震:長引く複合的人道危機の中での女性の活躍、日赤からは国際赤十字保健医療コーディネーターを派遣
アフガニスタンは3年連続の深刻な干ばつ、経済崩壊、数十年来の紛争、女性や子どもを取り巻く保護や避難民の移動など、絶え間なく続く複合的な人道危機に直面しており、国の人口の3分の2にあたる2,880万人が緊急の人道支援を必要としているとも言われています (OCHA)。
このような状況の中、2023年10月7日にアフガニスタン西部ヘラート州でマグニチュード6.3の地震が発生しました。その後も同クラスの余震が相次ぎ、1,480人の死者が発生しました(2023年11月時点)。アフガニスタン赤新月社(アフガニスタン赤)は発災当初から救援活動に携わり、冬の厳しい寒さが本格化する中、現在も被災者の生活を支えています。
家を失った被災者にアフガニスタン赤新月社から簡易テントが配付された©IFRC
日本赤十字社(日赤)は発災直後に「2023年アフガニスタン地震救援金」を募集し、国際赤十字・赤新月社連盟(連盟)に対して2,000万円の資金援助を実施しました(2023年12月末現在)。また、資金援助に加え、連盟アフガニスタン代表部が現地でアフガニスタン赤と共に進めている地震対応の活動を支えるため、連盟の保健医療コーディネーターとして、日本赤十字社医療センター 国際医療救援部副部長 苫米地 則子 看護師を2023年12月から現地に派遣しました。
ヘラート地震 保健医療コーディネーターとしての活動
ヘラート地震に対する緊急救援の保健医療コーディネーターとして、アフガニスタンのカブールに派遣されている苫米地看護師から以下のとおり近況が届きました。
「私自身、これまで2003年、2009年と2回のアフガニスタンでの活動経験があります。アフガニスタンという国における歴史的背景、宗教、習慣など基礎知識をふまえつつ、最近の情報を調べながら、オンラインでのブリーフィングを経て現地に派遣されました。緊急対応が求められる中でも、治安状況等が理由で被災地へなかなか出向くことはできず、現在もカブールから被災地で活動をしている現地職員と遠隔でコミュニケーションをとりながら活動を続けています。
カブールの連盟代表部の保健部門には、私を入れて男性4名、女性3名のスタッフが働いています。大きな活動としては基礎保健サービスの提供、予防接種、地域保健活動です。特に予防接種については、アフガニスタンはポリオ根絶を目指す数少ない国の1つになっており、ニーズの高い地域で活動の拡大が計画されるなど、重点活動の1つとなっています。
連盟アフガニスタン代表部保健部門のスタッフ©IFRC
私は特に地震対応の緊急的な活動を中心に、幅広くアフガニスタン赤の保健医療活動を支援しています。アフガニスタン赤はノルウェー赤、デンマーク赤や連盟の支援で全土に巡回診療チーム(Mobile Health Team:MHT)を持っており、地域ごとに特に必要とされる支援を提供しています。ポリオワクチンの普及や教育を担当するMHTもあれば、栄養状態のスクリーニングも含めて行うMHTもあるのですが、地震の被災地域におけるMHTは基礎的医療の提供がメインです。サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)の研修を受けたこころのケア担当者も常駐し、被災者の中でも特に支援が必要と言われている女性、子ども、高齢者、障がいを持つ人びとなどを中心とした、こころと身体の健康を保つための支援が継続されています。」
赤十字職員として働くアフガニスタン女性の活躍~アディバさん~
その中でも、特にアフガニスタン赤や連盟の女性職員がパワフルに活躍する様子を目の当たりにしているという苫米地看護師。2021年の政変以降、アフガニスタンでは女性の教育や就業の権利が制限されていますが、赤十字では女性職員も人道支援に携わっています。
連盟アフガニスタン代表部で苫米地看護師と共に保健医療活動に携わっているアディバさんもその一人。地域保健・水衛生支援担当課長代理として、アフガニスタン赤が行う活動の事業管理を担っています。
国際・国内のNGOや保健省で勤務していたというアディバさんは政変後職を失い、赤十字の仲間となりました。3人のお子さんを抱えながら、一家の大黒柱として両親や親戚も含む大家族の生活を支えています。
連盟アフガニスタン代表部保健部門で働くアディバさん©IFRC
日々仕事に励み現在の課長代理のポジションに昇格したアディバさんですが、仕事に加えてオンラインで修士の授業を受講し自己研鑽にも励んでいます。現在の国の制度では、女性は直接施設に赴いて高等教育を受けることができないためオンラインで授業を受けているのですが、電力供給が不安定で限定的であるアフガニスタンにおいて、オンライン授業を受けることも容易なことではありません。彼女はオンライン授業を受講するため、月収入の半分以上を費やしてソーラーパネルを購入してPC・インターネット環境を整え、授業を受講しています。
アディバさんと苫米地看護師©IFRC
なぜそこまでして勉強に励むのか。苫米地看護師が聞くと、アディバさんはこう答えました。「教育の機会を得ることは大切で自分のゴールの1つと考えています。かつては私の家族も女性が教育の機会を得ることを望んでおらず、大学で学ぶことさえも周囲の反対が強かったのですが、何とかここまで来ました。子育てをしながら修士号を取得するのでオンラインでの受講にはなりますが、私には女性のリーダーになり、国民のみならず世界の人びとのより良い健康に寄与していきたいという夢があるので、その夢の実現に向けて頑張ります。」
困難な状況の中、自分の夢を語るアディバさんの高い志と、その実現に向けて努力する姿は、多くの女性に勇気を与えます。
女性、子ども、特に支援を必要とする人びとに届く支援を
2021年8月の政変で、アフガニスタン赤も体制の見直しを求められました。ほぼ0からの再スタートという困難さに直面している中、長引く複合的人道危機や今回のヘラートでの地震、そしてこの状況に加え、パキスタン、イランの周辺国へ避難していたアフガニスタン国民への帰還指示が発出され、多くの人びとがアフガニスタンへもどるという避難民移動が発生し、アフガニスタン赤や連盟の資源を最大限駆使した被災者・避難者の対応が求められています。
しかし、そのような中でも、女性職員の積極的な雇用を進めつつ、特に支援を必要とする女性、子ども、高齢者、障がいを持つ人びとを中心に置いた支援といった、赤十字の基本原則に基づいた支援は続けられています。
日赤は長引くアフガニスタン人道危機に加えて、アフガニスタンの気候変動や防災に対する支援といった、様々な形での支援を行ってきました。これからも、アフガニスタンでの赤十字の活動を支えていきます。