2023年度を振り返って ~総括編 第2号 開発協力~

地球規模での気候変動が進行する中、自然災害や感染症などの被害が深刻化しています。これらの脅威に備えるため、「地域社会や住民が危機に対応し、自らの力で立ち上がる能力(レジリエンス)を高める」ことが不可欠です。

そのため、日本赤十字社(以下、日赤)の開発協力事業では、世界で最も自然災害の影響を受けるアジア・大洋州地域や、医療分野のニーズが高いアフリカ地域を重点支援地域に選定し、現地の赤十字社の行う防災・減災活動、気候変動適応や疾病予防に関わる活動を支援しています。

また、日赤は2022年に「人道団体のための気候・環境憲章」に署名し、2023年には気候変動対策基本方針を打ち出すなど、国内外での取り組みを加速させています。

特集1 ネパール防災強化事業

2015年4月25日、ネパールではマグニチュード7.8の大地震が発生し、建物の倒壊や雪崩等により、死者は約9,000人、被災者は約560万人と、国民の約5人に1人が被災しました。日赤は、発災後直ちに医師・看護師等を被災地に派遣し、巡回診療やこころのケアなどの救援活動を行い、その後、ネパール赤十字社(以下、ネパール赤)と協力して住宅や診療所の再建、被災者の生計支援などの復興支援活動に取り組んできました。

この大地震をきっかけに、同国内では今後の災害への備えを強化することが求められ、2021年1月からネパール赤とともにコミュニティ主体の防災強化事業を開始しました。同事業では、へき地の村々に日本の消防団とよく似た「地域自主防災組織」14団を結成。この防災組織のメンバーを中心に、村人たちが話し合って災害リスクマップを作成し、救急法講習の開催や堤防や排水溝の整備を行うなど、2023年度までに地域住民が主体となった防災・減災対策に取り組みました。

画像 災害リスクマップを作成する村人たちⓒ日本赤十字社

日赤に寄せられた20億円以上のネパール地震救援金をもとに実施した、約9年間に及ぶ一連の災害支援活動は、2024年3月に終了を迎え、その成果は「災害に負けない地域社会づくり」という形で、これからもネパールの人びとに受け継がれていきます。

画像 救援から復興までの 歩みを報告書に編纂

特集2 大洋州気候変動対策事業

大洋州地域は、点在する無数の島々をつなぐ物流や通信のアクセスも限られるなか、地震や津波、サイクロン、干ばつなどの災害リスクにさらされ、南の楽園のイメージとは裏腹に災害の発生確率と対応能力としては世界で最も自然災害に脆弱な地域の1つです。

近年は特に海面上昇・海岸侵食・海洋の酸性化が進行し、サイクロンや干ばつが頻発・激甚化するなど気候変動の影響が深刻に。漁業や農業などの人びとの生計手段も打撃を受けています。

気候変動の影響の最前線にある人びとの現在と未来を守るため、2023年4月から大洋州地域11カ国を対象に3カ年の気候変動対策事業を開始しました。本事業では地域住民が持つ力に着目し、特に未来を担う若い世代の力とアイディアを活かしながら気候変動の脅威に屈しない持続可能な社会づくりを後押しします。

画像 バヌアツ赤十字サント島支部ユースボランティア(排水溝の清掃活動)©日本赤十字社

2023年度は気候変動に関する知識や適応・緩和に向けたアクションへの理解を深める「ユースのための気候変動研修(Y-Adapt)」を各地で実施するため、ファシリテーター研修を開催。養成したファシリテーターは各国でユースボランティアを対象にY-Adapt研修を行ない、研修を受けたユースは自分たちの地域で出来る気候変動の適応策を計画。洪水や家屋浸水の被害を軽減するための排水溝の整備や、海洋ゴミによる衛生・健康被害を軽減するための沿岸清掃活動、干ばつによる水不足に対処するための取水施設の設置など、ユース主導の気候変動アクションが始まっています(現地駐在員からのリポートはこちら)。

ルワンダ気候変動等レジリエンス強化事業

ルワンダは1990年代の内戦が終結して以降、急速な経済発展を遂げた一方、人口の8割が暮らす農村部では、貧困、安全な水やトイレの不足、感染症、そして気候変動の影響による自然災害など複合的な社会課題に直面しています。

2019年からルワンダ南部のギサガラ郡において実施するレジリエンス強化事業では、ルワンダ赤十字社が伝統的に取り入れてきた「モデルビレッジアプローチ」手法を用い、住民が主体となって災害や貧困など地域のさまざまな課題に取り組みます。現在、同地域のニーズに応じて、水・衛生環境改善、環境・緑化対策、生計支援、持続性強化の4分野で活動を実施しています。

事業開始5年目の2023年度は、地域最大の課題である安全な水の供給を目指し、コミュニティまで水を引く給水工事が進められました(現地駐在員からのリポートはこちら)。

画像 水源で水を汲む村びと©日本赤十字社

水源からコミュニティまでのパイプ敷設や給水場の整備、集水タンクのポンプ設置など、全工程の9割が終わり、コミュニティに水が届くまで、あとわずかです。子どもたちが水汲みから解放され、学校へ行く時間ができ、女性が経済活動など自由に使える時間が増えることで、人びとの生活の質の改善が期待されます。

アフガニスタン気候変動対応事業

アフガニスタンは、1970年代から続く紛争や内紛によって経済や社会インフラが壊滅的な被害を受け、2021年に起きた政変の影響と新型コロナウイルス感染症のまん延も重なり、人びとはかつてないほど深刻な人道危機に直面しています。長引く干ばつは、国民の8割が生計を依存する農業の土地と家畜を奪い、人びとの生活を困窮させ、故郷を離れることを余儀なくさせています。

アフガニスタンでは、生計支援、防災・減災を二本柱とする5カ年の事業を行っており、2023年度は、コロナ禍で着々と準備が進められてきた生計支援の活動が本格始動した年でした。職業訓練や、換金作物の植林による緑化活動を行い、訓練を受けた人びとが事業を行うための少額融資をスタートさせました(現地出張職員による報告記事はこちら)。

画像 職業訓練を受ける地域住民©日本赤十字社

2023年10月には事業地の1つであるヘラート州で大規模な地震が発生し、1,480人もの死者が発生し、多くの建物が崩落するなどの壊滅的な被害を受けました。そのような中で、本事業で結成された自主防災組織が被害状況調査や応急手当を行う等、最前線で活動しました。2024年3月現在も、復興の過渡期にある事業地では、国際赤十字の支援が継続されています(2023年アフガニスタン地震救援)。

インドネシア防災強化事業

インドネシアは災害多発国ですが、堤防や津波タワーなど防災インフラの整備が追い付いていません。日赤は特に巨大地震の可能性が指摘されるジャワ島南部で災害に強い地域づくりを目指し、学校と村落をベースにしたコミュニティ防災事業を2020年に開始。昨年12月をもって終了しました。

村落では、インドネシア赤十字社が育成に取り組む村落防災ボランティア(Community Based Action Team)を同事業地でも新たに組織。地域住民が自ら災害に備え、いざという時に自分自身や家族のいのちを守れるように、2023年度は水難救助訓練や災害時早期警報訓練などの各種研修、普及啓発のための家庭訪問などの活動に取り組みました。事業地では、洪水や地滑り、火山噴火など災害に度々見舞われていますが、養成されたボランティアが村の頼りになる存在として、身につけた知見や整備した資機材を活用しながら災害に対応しています。

20240307-c1269e31edcad5ad3de32517b0707d6f8ab822a1.JPG防災授業の教材を手作りする先生©日本赤十字社

20240307-c815d72b993de6a2d3bf0283a8202a767b2466c2.JPG手作りの教材を使った防災授業©日本赤十字社

また、学校では、防災授業の実施を目指し、学校関係者とともに準備を進めました。元々の教育カリキュラムには組み込まれていない防災授業をどのように実施するか関係者でミーティングを重ね、2023年度は「防災教育指導要領」の策定を完了し、学校の先生がたに配布しました。さらに、本要領に沿って先生がスムーズに防災授業を実施できるよう、指導員研修を開催しました。今では研修を受けた先生がたによって生徒の興味を引きだす工夫がされた防災授業が実施され、子どもたちは災害のメカニズムや安全な場所・危険な場所への理解を深め、適切な避難行動を身につけていっています(現地出張職員の報告記事はこちら)。

企業等とのパートナーシップ

2015年に採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて、政府や国際機関、民間企業、市民団体などの連携が重要です。日赤の開発協力事業では、さまざまな企業・団体がもつ強みと世界各地の人道ニーズを繋いで来ました。

アフリカ地域の感染症対策やエイズ孤児等を支援する「産休サンキュープロジェクト」では、住友商事株式会社やSCSK株式会社を始めとする企業のご賛同をえて、2013年から継続して活動を実施してきました。

画像 産休サンキュープロジェクト モニタリング実施の様子©日本赤十字社

株式会社ティムコからは、ルワンダへのご支援とあわせてジャケット79着をご寄贈いただき、ルワンダ赤十字社のボランティアの活動を支えています。

株式会社オンワード樫山からは、「オンワード・グリーン・キャンペーン」として、毎年、お客様から回収した衣料をリサイクルした毛布をいただいています。2023年度は、ラオス北部山岳地帯で貧困に苦しむ子供達や家族などに4,000枚を寄贈。毛布は寝具のほか、床マットやガウンの代わりとしても用いられ、人びとの健康を守っています(現地出張職員による報告記事はこちら)。

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