シリア:複合的な人道危機を生きる人びと
昨年2月の地震発生から1年、そして「アラブの春」のうねりを受けたシリア国内の紛争ぼっ発から13年が経過した今年、シリア国内で人道支援を必要とする人は過去最高の1,670万人に到達しました(OCHA)。シリアでは、東京都の人口1,410万人を遥かに超える数の人が、あらゆる資源や機会から切り離された過酷な生活を余儀なくされています。
今号では、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)のシリア事務所での1年間の活動を終えた職員の活動を振り返るとともに、シリア赤新月社(以下、シリア赤)のX(旧Twitter)に投稿された動画や画像を引用しながらシリアの現在をお伝えします。
建物を瓦礫にしたのは、紛争か、震災か
トルコ・シリア地震の発生を受けて、日本赤十字社(以下、日赤)は連盟の保健医療コーディネーターとして姫路赤十字病院の髙原看護副部長をシリアに派遣。シリア赤の保健分野における事業展開・管理をサポートし、また、姉妹赤十字社や国連機関など国際赤十字内外の協働を促進する橋渡しの役割も果たしました。
社内で実施された帰国報告会では、「崩れかかった建物があってもその被害の原因が紛争なのか震災なのかも分からず、度重なる苦労を想像し落ち込むような気持ちになることもあった。しかし、こちらが話しかけるとキラキラした目で学校の話を聞かせてくれる子どもが希望を感じさせてくれた」といった話がありました。
シリアでは、震災の発生を受けて一時的に多くの援助や関心が寄せられた一方、長期的には資金援助の先細り傾向が懸念されています。そのため、地震直後の膨大なニーズに応えると同時に、避難生活の長期化、医療へのアクセスの困難さ、就労機会の喪失といった長期的な困難を抱える人々に支援を届け続ける必要があります。髙原看護副部長はこの1年間を通して、シリア赤が行う活動の優先順位を見直すなど、広い視野を持った支援活動の実施を支え、2024年4月に帰国しました。
髙原看護副部長が被災地の視察で訪れたアレッポ県、紛争前はカフェなどの並ぶにぎやかな通りだったという場所。父親を乗せた車いすを押す少年は、キラキラした目で学校の話をしてくれた。©Martin von Krogh,Swedish Red Cross
以下の短い動画では、地震の発生直後から現場に立ち続けるシリア赤の活動をご覧いただけます(制作:シリア赤、訳:日赤)。
複雑化、長期化する人道危機
シリア赤は3月、シリアでの人道危機に対する関心と援助の必要性を改めて呼びかけ、以下のような画像をXに投稿しました(以下、「」内は日赤による訳)。
「シリア:顧みられない危機
経済力の低下、資金難、そして繰り返される災害などの危機により、人びとやコミュニティにとって復興はいまだに手が届かない。」
シリアの物価は上昇を続け、ひよこ豆やじゃがいものような主要な食材の価格は昨年比で200%以上値上がりしています。また、国連機関などでも資金難による活動縮小が決定されています。例えば、WFPは月ごとの食料支援対象人数をこれまでの300万人から100万人に削減。またWHOはシリア北西部でのより高度な医療を紹介するサービスを提供し、年間約8,000~1万人が利用していましたが、その紹介サービスも停止されました(OCHA)。さらに、地震の後にも洪水や山火事など自然災害が相次いでいます。
「シリア:顧みられない危機
医療施設のうち、40%が部分的または全体的に破壊された状態にあり、1,530万人が保健医療を受けるための手段を持ち合わせていない。」
物価の上昇は医薬品の価格でも見られ、過去2年間で200%の値上げとなっています。シリア赤はへき地などに医療を届けるための巡回診療を実施しており、この活動を日赤も支援しています。
「シリア:顧みられない危機
度重なる危機を生き延びるために、児童労働や児童婚、所有する土地の売却、病院の受診を諦めるなど、不本意な方法での対処を強いられている。」
国際赤十字は、啓発活動や女性世帯主や障害のある人向けの生計支援など、最も支援を必要とする人たちのための支援を行っています。
日赤では、2012年より実施してきたシリアへの支援を継続し、災害等への対応能力強化など長期的な視点に立ち支援を届けてまいります。「中東人道危機救援金」はシリアを含む中東全体の人道危機に対する継続的な救援活動に役立てられます。皆様の温かいご支援をよろしくお願いいたします。
「13年に及ぶ人道危機、シリア赤新月社は、
困っている人びとに手を差し伸べることを決してやめない。」