アジア大洋州における災害対応能力の強化を目指して
日本赤十字社(以下、日赤)は、日々さまざまな国際活動を行っています。何故そのようなことができるのか?それは世界各国に赤十字の仲間がいるからです。彼らと共に歩むために日赤が大切にしていること、それは、日々のコミュニケーションと実際に現地へ赴くことです。オンラインで簡単につながれる時代だからこそ、積み重ねた会話と同じように、現地で実際に会って話をして、同じものを見て、課題を共有することが大事だと思っています。今回はバングラデシュに出張した岡山県支部岩間主事からの報告です。
アジア・大洋州給水・衛生災害対応キット整備事業
私は今年2月初旬、アジア・大洋州給水・衛生災害対応キット整備事業のモニタリングのために支部参加※の取り組みの一環として、日赤本社職員と共にバングラデシュを訪れました。日赤が国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)と協働し、2010年度より継続して行っている同事業は、災害が多発するアジア大洋州地域の各国赤十字社に対し、災害時における安全な水の確保や衛生環境の改善を目的とした資機材の整備等のハード面の支援と、その資機材を実際に運用するための現地スタッフやボランティアの人材育成の組み合わせで展開されています。
※同事業は複数の日赤支部の参画により支えられています。岩間主事はこの度第5ブロックの代表で現地へ出張しました(第5ブロックは鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知の支部にて構成されています)。
給水キットを稼働するマレーシア赤新月社
インドネシアの地域合同研修。緊急時の給水衛生について学ぶ
バングラデシュの若きボランティアたちが紡ぐ
今回私は、本事業の成果を確認するため、バングラデシュの首都ダッカとその北西部に位置するタンガイルを訪問し、ボランティア対象のワークショップの視察と関係者へのインタビューを行いました。この国は長年にわたり支援対象国となっており、災害時の安全な水の供給や衛生環境の向上に取り組んできました。2日間にわたるワークショップでは、国内各地のボランティアたちがグループワークを通して、これまでの活動の成果や問題を共有し、より良い実施体制を作るために議論を重ねました。日々の資機材メンテナンスから災害時の最前線での活動まで、全ての過程に携わる彼らだからこその意見も多く飛び交いました。例えば、浄水装置の組み立てから各家庭への浄水の配付までの工程を船の上で行うことから、さらに丈夫な船の必要性や、浄水装置の国内でのメンテナンスの課題、さらなるボランティアの増員の必要性等、現地で直接彼らから話を伺うことで初めて気付かされた視点も多くありました。
タンガイル支部のボランティアの皆さんと岩間主事
ワークショップの様子
このグループワークの最後に参加者全員で今後の活動の進め方について検討しました。受益者へのモニタリングの重要性や現場での資機材の補完、教育現場での衛生啓発活動の拡充など、彼らの現場経験に基づいた提案が数多く含まれました。このように全員が同じ方向を向いて協力し合う姿勢が、より効果的な活動の実現を後押ししていると感じました。彼らの熱意と主体性は、バングラデシュにおける災害対応能力のさらなる向上につながると確信しています。
また、タンガイルでは、バングラデシュ赤新月社タンガイル支部を訪問し、ボランティアから活動報告を受けた後、資機材倉庫を見学しました。そこで、携帯型浄水装置「MANPACK」の組み立てを実演してもらい、装置の仕組みを詳しく教えてもらうとともに、災害時の給水支援の流れについても確認しました。パーツが多く、複雑な構造に見えましたが、彼らは迷うことなく迅速に組み立てを行い、その対応能力の高さに非常に驚かされました。訪問の中で特に心を打たれたのは、ボランティアたちの姿勢でした。彼らの多くが学生で、勉学に励みながらボランティア活動を行っています。彼らは若いながらも、災害による被害の深刻さや人々の命を脅かすリスクを理解し、強い危機感を持っています。「バングラデシュは毎年のように洪水に見舞われる。地域の人々の命を守るために活動したい」と口々に話していました。彼らは単に支援を受ける立場ではなく、自らの手で地域を守るという強い意志を持っているのです。
MANPACKの組み立ての様子①
MANPACKの組み立ての様子②
災害時だけでなく、平時の活動が未来をつくる
バングラデシュでは、手洗いの重要性や正しいトイレの使い方などを教える衛生啓発活動や、月経衛生管理の普及活動に注力しています。災害時の対応にとどまらず、平時から学校やコミュニティで衛生教育を行い、地域の人々の意識改革にも取り組んでいます。しかし、文化的・宗教的な背景から衛生に対する認識が浸透しにくいという課題も残されています。ボランティアたちは、「セッションの回数をもっと増やし、根本的な意識改革を進めたい」と、それぞれが強い思いを語っていました。
今回の事業モニタリングを通して、インフラの整備が不十分な国にとって、本事業がいかに重要な役割を果たしているかを改めて実感しました。災害時における即時対応はもちろん、平時からの継続的な教育や啓発活動も地域社会の持続的な発展にとって不可欠です。現地の災害対応能力をいっそう強化し、地域社会の自立と持続的発展を支援するため、日本赤十字社は今後も引き続き協力していきます。
日本赤十字社からのお知らせ!
海外で大規模な災害や紛争等緊急事態が発生した際、日赤を含む国際赤十字の救援活動・復興支援活動を支援するための「海外救援金」。2024年の活動報告が完成しました!
多くの皆さまにご協力をいただき、心より感謝申し上げます。
※2024年に受け付けた海外救援金「ウクライナ人道危機救援金」・「台湾東部沖地震救援金」・「イスラエル・ガザ人道危機救援金」・「レバノン人道危機救援金」・「中東人道危機救援金」・「アフガニスタン人道危機救援金」・「バングラデシュ南部避難民救援金」