パプアニューギニア: 気候変動への草の根の取り組み~現地からの報告
パプアニューギニア独立国は、オーストラリアの北、インドネシアの東に位置し、グリーンランドに次いで世界で2番目に大きいニューギニア島の東半分と600の島々で構成されています。赤道のすぐ南に位置する常夏の国で、人口約 1000 万人の国民の間では 800 を超える言語が使用されており、1000を超える部族で構成されています。国民の4割近くが貧困ライン(一日2.15米ドルで、これ以下は日々の生活に極度に困窮するとされる)以下で生活しており、ジェンダー不平等指数は166か国中151位(UNDP, Human Development Reports 2022)という状況下で暮らしています。2024年 5 月には大規模な地滑りが発生しましたが、他にも地震、噴火、洪水、干ばつ、海面上昇といった自然災害や気候変動の深刻な影響を受けています。
同国では、パプアニューギニア赤十字社(以下、パプアニューギニア赤)と国際赤十字・赤新月社連盟パプアニューギニア国事務所(以下、IFRC PNG)が同じ敷地内にオフィスを構え、パプアニューギニア赤には約30人、IFRC PNGには6人の職員が在籍し、協力して人道支援の取り組みを展開しています。
IFRC PNG事務所で同僚と ©Maki Igarashi
今回の記事では、2024年11月から2025年2月まで事業管理要員としてIFRC PNGに派遣された、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院の太田主事から、現地の様子や赤十字の活動についてご報告します。
予期せぬことが起こる土地
パプアニューギニアは別名「Land of the Unexpected(予期せぬことが起こる土地)」と呼ばれています。以前は鳥類の種の多様性を象徴する言葉でしたが、現在では政治的混乱、社会経済の不安定、ぜい弱な公衆衛生、そして耐性菌がまん延する環境の下で、日々予期せぬことが起こることを意味するようになっています。
現地は治安が悪く、多くの建物が頑丈な柵とガードマンによって警備されています。私も、住居と事務所の往復、食料の買い出しでは運転手さんが送り迎えをしてくださり、自由に外を歩くことができませんでした。
一方で、窓から見える海や山の景色は非常にきれいで豊かな自然に囲まれていることがわかります。特に、自宅から見えるサンゴ海の青の濃淡、夕焼けは毎日見ていても飽きません。
自宅から撮影した夕日
地滑りのその後
救援物資を運ぶ 赤十字ボランティア ©パプアニューギニア赤
冒頭でふれた2024年5月にエンガ州で発生した地すべりでは、多くの住民が生き埋めになり、一瞬にして家族や住居を失いました。パプアニューギニア赤は、IFRCの災害救援緊急資金(DREF)を用いて6か月間の救援活動を展開し、地元政府や他の支援機関と調整しながら衛生キットの配付や心理社会的支援(MHPSS)などの活動を実施しました。
この事業の終わりに向けて、振り返りのワークショップを発災地に近いウェスタン・ハイランズ州支部(参加者数15名)とパプアニューギニア赤本社(参加者6名)で2回行いました。パプアニューギニア赤は12の支部を職員3人と約850人のボランティアで運営しており、発災直後からほとんどの活動がボランティアの力で展開されていました。ワークショップでは、発災直後の初動対応から具体的な活動内容まで、何が良かったのか、改善できる点は何かについて関係者全員で洗い出しました。
DREFワークショップにおけるディスカッション © IFRC
その結果、こころのケアの手法を使ってアセスメントを実施したことが、良かった点の一つとして挙げられました。一方で、地元の部族間衝突が続く中、安全を確保しながら被災地へアクセスすることの難しさが課題として挙げられました。さらに、6か月間の活動を振り返ることで、本社や支部の役割や行動指針を再確認する良い機会となりました。
未来の災害に備え、今回の学びを生かした活動を展開できるような組織基盤を培っていきます。
地域主導の気候変動対策を広めるために
日本赤十字社は、IFRC PNGを通じてパプアニューギニア赤の「地域主導型気候変動対策とジェンダーおよび包摂(Locally Led Climate Action & PGI)」事業を支援しています。この事業は、女性のエンパワーメントや青少年の参画に焦点をあてながら、気候変動の影響を受けるコミュニティの新しいスキルや知識の習得を推進し、気候変動や災害のリスク軽減など適応策や緩和策に取り組んでいくことを目指しています。
1月下旬、東ニューブリテン州の州都ココポから船で1時間、6つの島々で構成されるデュークオブヨーク諸島の内、人口約700人のムオリム島を訪問しました。1周20分程度で回ることができるこの小さな島では、毎月2~3人の赤ちゃんが生まれています。
この地域は気候変動による海面上昇の影響を受けて少しずつ島が縮小しており、高潮による浸水被害や衛生環境の悪化により、コレラをはじめとする水系感染症のリスクが高まっています。さらに、気候変動の影響で蚊の生息域が拡大しマラリアの感染リスクも増大しています。
地域住民へのヒアリング © パプアニューギニア赤
赤十字はこの島で地域住民を対象に、地域に根差した健康改善と救急法(CBHFA: Community Based Health and First Aidの略)の手法を使って活動を行っています。CBHFA とは、ボランティアを通じて地域住民に健康情報や救急法の普及を行う赤十字のアプローチです。12月、37人の住民を対象に救急法講習と母子保健に関する講習を開催しました。
開催後、講習の知識が生かされた出来事がありました。6人の子の母親でもあるエリザベス・ハンゼルさんは、海で溺れていた1歳6か月の子どもに適切な心肺蘇生(CPR)を実施しました。子どもの命は助かり、順調に回復するまでに至りました。
「今までは子どもが溺れるたびに最寄りの診療機関に船で搬送していました。しかし、搬送には45分~2時間程かかるため、搬送途中に命を落とすこともありました。救急法講習を受けたことで、私の経験も踏まえて周囲の母親にも応急手当の知識と技術を学ぶ重要性を伝え、学びを生かすことができるようになりました。本当に助かっていて、パプアニューギニア赤と日本赤十字社に感謝しています。この先も復習を兼ねた講習が実施されるとありがたいです」と熱く語ってくれました。その表情には、経験に裏打ちされた自信が垣間見えました。
エリザベスさん(左)と ©パプアニューギニア赤
今後も地域住民の方がたが気候変動に対するさまざまな取り組みを実践し、気候変動に強いコミュニティが形成されるように赤十字は支援を続けます。