2024年度の国際活動を振り返って ~総括編 第2号 人びとに寄り添う中長期の支援~

2024年度も世界各地で紛争や災害が多発しています。日本赤十字社(以下、日赤)は、緊急時の医療救援活動などに取り組む一方で、平時より、人びとがさまざまな人道危機から自らの健康や安全を守り、脅威に立ち向かう力をつけるための中長期的な支援を行ってきました。こうした活動は、現地の赤十字・赤新月社のボランティアが主体となって実施します。世界情勢が混迷し、気候変動の影響が深刻化する中にあって、開発協力事業の役割はさらに高まっています。

画像 気候変動の影響による大寒波が、遊牧民の生活を脅かしている © モンゴル赤十字社

特集1:モンゴル保健支援事業

モンゴルは日本の4倍の国土面積に対して、人口は日本の2.5%(323万人)にとどまり、世界で最も人口密度が低い国です。また、近年加速する気候変動の深刻な影響を受けており、特にモンゴルのへき地に住む人びとや遊牧民の家族は、農業や家畜等の生計手段が脅威にさらされ、いのちと健康が脅かされています。

2023年の冬には、気象災害「ゾド」と呼ばれる大寒波が発生、国全体の家畜の14%にあたる810万頭が死亡、家畜を生活のよりどころとしている24.6万人の人びとが影響を受けています(2024年11月時点、モンゴル当局発表)。また、ゾドの影響で、教育や医療等の公共サービスへのアクセスが途絶えてしまうため、地域の中でたすけあい、危機を乗り越える取り組みが求められます。

モンゴル赤十字社(以下、モンゴル赤)はモンゴル全土に活動拠点の支部を持ち、災害時のみでなく、平時から人びとの健康増進に取り組んでいます。繰り返されるゾドの危機に対応するため、ボランティアの育成をはじめとした緊急対応能力の強化に注力しているところです。このような状況をふまえ、日赤は2024年4月から新たに3か年のモンゴル保健支援事業を開始し、モンゴル赤と共に歩みはじめました。

本事業では、救急法講習の普及強化とこころのケアの体制づくりを進めることで、厳しい環境にあっても、人びとの心身の健康が守られるための支援を実施します。2024年度は、延べ7名の日赤職員を派遣し、日赤の経験から得た技術やノウハウを共有しています。具体的には、ゾドの緊急対応救急法講習への技術支援、こころのケアの体制づくりに貢献しました。

2025年4月からは、第2次事業年度に突入します。今後は、救急法講習の指導員やこころのケアの要員を養成し、必要な資機材を整備するなど、持続的な保健サービスを実施するための支援を継続します。

20250307-ee8b681bf89bcbdb2d7eaa52ed797244bca30b01.jpg救急法大会にて手当をするモンゴル赤職員 © モンゴル赤十字社

特集2:ルワンダ気候変動等レジリエンス強化事業

東アフリカに位置するルワンダでは、農村部の貧困、安全な水やトイレの不足、感染症、気候変動による自然災害など、複合的な課題に直面しています。日赤はルワンダ赤十字社と共に、「レジリエンス強化事業」を実施し、首都キガリから遠く離れたギサガラ郡において、赤十字ボランティアを中心に保健、水と衛生、生計向上、教育、環境保全など、多方面にわたる支援を展開してきました。

2024年4月には、村に念願の給水設備が完成し、約4,600人に安全な水が供給されるようになりました。これにより、女性や子どもの水くみの重労働が大幅に軽減され、給水所は地元住民によって大切に管理されています。また、家庭菜園の導入や貯蓄グループの活動を通じて、貧困に苦しむ子どもの栄養改善や就学機会の拡大も実現しました。

20250307-edae6fdc379fa3fd005ea4c514c91f55ecab2a77.jpg村に完成した給水設備で順番待ちをする人びと © 日本赤十字社

20250307-7510c78ff9d44b7e6d6a9cffa32c9d536ed2fb6c.jpg家庭菜園の様子をモニターする赤十字ボランティア © 日本赤十字社

本事業は、一般の寄付に加えて、日本の企業等とのパートナーシップによって支えられています。その一例として、株式会社JAPAN STARの資金協力により給水設備が完成しました。また、株式会社ティムコからは今年度もオリジナルのジャケット90着をご寄贈いただき、赤十字ボランティアの誇りと自信につながっています。

地域住民と共に、赤十字ボランティアが中心となって進めてきた本事業は、2025年6月に現フェーズを終了します。しかし、今後も赤十字ボランティアが主体となって、地域の課題解決の取り組みを継続していきます。

インドネシア防災強化事業

インドネシアは災害多発国ですが、堤防や津波タワーなど防災インフラの整備が追い付いていません。日赤は特に巨大地震や津波の可能性が指摘されるジャワ島南部で災害に強い地域づくりを目指し、学校における防災教育の普及と村落での防災活動を軸にインドネシア赤十字社と共に取り組んでいます(過去の取り組みはこちら)。

2023年12月にケブメン県とマラン県を対象にした第1期の支援事業を終了し、2024年に最終評価を実施しました。評価の結果、防災バッグの準備や家具の安全対策など、住民の防災意識の向上と行動の変化が確認されました。一方、「海の女神が守ってくれる」という地元の信仰があり、防災活動の必要性を感じない、避難訓練が災害を呼び込むと恐れている、あるいは「災害に遭うのは運命だから逃げない」といった災害観を持つ人びともいることから、地道な啓発活動を続ける必要性が確認されました。

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クロージング・ワークショップの様子 © インドネシア赤十字社

20250307-d1ad7589689b9d71adee5426abce44a4b6bcf154.jpg防災授業の教科書を手にする生徒たち © インドネシア赤十字社

こうした教訓と成果が生かされるようインドネシア赤十字社と協議を重ね、11月より、新たに同国のスカブミ県とジャンバル県で第2期の事業を開始しました。第1期の成果と課題を生かし、さらなる防災力の強化に取り組んでいきます。

アフガニスタン気候変動対策事業

アフガニスタンは、2024年現在、緊急の人道支援を必要としている人びとが国民の半数以上にあたる2,300万人に上ります(2024年12月時点、国際連合発表)。同国では、女性の教育機会や公共の場での発言が制限されるなど、女性の権利の悪化が深刻です。政変の影響で多くの人道支援活動が制約を受けるなか、アフガニスタン赤新月社は全土にわたり支援の提供を許可された唯一の人道機関です。こうした状況下でも、アフガン赤新月社は、女性への支援を継続しています。しかし、支援ニーズが極めて高いにもかかわらず、国際社会のアフガニスタンへの関心は低下しており、支援が十分に足りているとは言えない現状があります。

日赤は2020年から5か年の支援事業を展開し、主に生計支援、植樹、防災活動を実施しています。植樹においては、干ばつの影響が著しく、深刻な水不足により苗木が思うように育たないという課題がありました。そこで、2024年度は、事業地のヘラート州(8台)とサマンガン州(2台)で合計10台のかんがい用太陽光発電ポンプの設置を決定、この給水設備の水質は良好で、配付した苗木を育てるだけでなく、コミュニティの人びとの飲み水としても活用されています(その他、生計支援・植樹の活動成果はこちらから)。

20250307-38e93771f54fb50f2cb01766f9afc7be62ca3563.jpg設置されたかんがい用太陽光発電ポンプシステム © IFRC

20250307-516fff5a5836bf4903255de4ca5633af61cd1c56.jpg乾いた大地に緑の畑がよみがえる © IFRC

大洋州気候変動対策事業

大洋州島しょ国では近年、南の楽園のイメージとは裏腹に、海面上昇や海岸侵食、海洋の酸性化が進行し人びとの暮らしに影響を与えています。長期化する干ばつや頻発化するサイクロンの被害も深刻です。

日赤は、2023年4月から同地域の11か国を対象に気候変動対策の支援を開始しました。本事業では、気候変動の脅威に屈しない持続可能な社会づくりを目指し、気候変動を正しく理解して行動するきっかけを若者に提供する「ユースのための気候変動研修(Y-Adapt)」を大洋州各地で開催、若い世代の力とアイデアを生かした草の根の取り組みを進めています。研修後、各国に戻った受講者は学んだ知識を自分たちのコミュニティに共有し、彼らが中心となって気候変動が生活に及ぼす影響や地域資源の特定、住民自ら実行できる適応策の計画、実際の活動に取り組みます。

例えば、フィジーでは、不適切な廃棄物の投棄が道路や排水溝を塞ぎ、洪水被害を悪化させていることから、ユース・ボランティアが主体となって、ゴミ箱の設置や定期的な廃棄物回収キャンペーン、正しい廃棄方法に関する啓発活動を実施しました。また、キリバスでも、高潮による浸水被害を想定した高床式のゴミ置き場の整備や現地の資材を用いた防波堤(ブイブイ) の建設、清掃活動等を実施しました。

20250307-d547e59bff6a693aecc09a7d1719a0b23d1c28cb.JPGフィジー赤十字社ユース・ボランティアによるゴミ置き場建設 © IFRC

20250307-c4a415cd6a8867abd6d5bbd6a320267901ad677f.jpegキリバス赤十字社ユース・ボランティアによる海岸清掃 © IFRC

このように住民自らが考え、気候変動による被害を少しでも減らす取り組みが続けられています。現地駐在員からのリポートはこちら

開発協力を通じて日本と世界を結ぶ

日赤の開発協力事業は、全国の都道府県にある支部や医療施設などの知見や技術を活用しています。例えば、ルワンダには保健分野の活動を支援する看護師、モンゴル等には救急法講習やこころのケアの指導員を派遣、またインドネシアには国内の災害救護に従事した職員を派遣するなど、現地での調査やボランティアへの技術指導を通じて事業の質の向上に努めました。

一方で、2025年2月には、研修を受講するために来日したアフガニスタンとルワンダの事業担当者が、それぞれ宮城県、東京都、および鳥取県の支部等を訪問し、現地の活動報告を行うとともに、青少年赤十字加盟校の児童たちや赤十字ボランティアとの交流を深めました。一方通行ではない、双方向の学び合いを重ねる中で、ニーズに即した顔の見える支援を実現し、将来に持続する活動を広げていきます。

20250307-50015a831bf8d55daea0fd974b5b0006160bf364.jpeg宮城県支部で活動報告するアフガニスタン事業担当者 © 日本赤十字社

Dance.png鳥取の子どもたちとダンスを通じた交流を図るルワンダ事業担当者 © 日本赤十字社

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