いまこそ知りたい、核兵器禁止条約!
いまこそ知りたい、核兵器禁止条約!
2020年10月24日、核兵器の開発や製造、保有、使用を全面的に禁じる核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons、略して「TPNW」)の批准国が発効要件の50に達し、いよいよ本年1月22日に条約が発効することとなりました。本号では条約の主なポイントについてご紹介します。
(1)核兵器とは?:「国家目線」から「人間目線」に(前文)
前文では核兵器がいかに人間の命と尊厳をはじめ、世界経済、食糧安全、地球環境や将来世代の健康、そして平和といった諸々の価値を踏みにじるかについて触れられています。印象的な点の一つに、条約では「Hibakusha」という文言がそのまま使われ、そのヒバクシャの苦しみこそが本条約の存在意義であることが強調されています。またヒバクシャと並んで国際赤十字・赤新月運動もその名を連ねており、そうした人々、団体が行ってきた核兵器全廃のための「努力を認識して、次の通り協定した」とあります。核兵器の問題はこれまで国家の「安全保障」や「抑止力」といった「国家目線」の言葉で多く語られてきましたが、条約は、「人間の生存のため」という理念―人道の実現―を出発点にしており、その視点を大きく「人間目線」のそれへと転換させていることが全文から読み取れます。
(2)核兵器を全面的に禁止(第1条)
条約は、核兵器の開発、実験、製造、取得、保有、貯蔵、移譲、使用、使用の威嚇などの活動をいかなる場合にも禁止している他、この条約の禁止事項を他者が行う場合、それを援助し、奨励することも禁じており、あらゆる角度からもれなくその全廃を目指しています。
(3)核保有国も囲い込む(第4条)
本条の小見出しは「核兵器の全廃に向けて」。核保有国が本条約に参加することを念頭に、定められた期限までに国際機関の検証を受けて核兵器を廃棄する義務を果たし、その全廃に向けたステップを示しています。
(4)被害者への援助、自然環境の修復、国際協力(第6条・第7条)
日本の被爆者が永年望んでいたともいわれる被害者への援助(医療やリハビリ、心理的サポートを含む年齢、性別に配慮した援助)、核兵器使用や核実験で汚染された自然環境の修復のための措置を執ることを定めています。また条約の義務を実施するにあたっては、国家間での協力の他、その支援の提供において、とりわけ国連機構、国際あるいは地域、各国の機構や機関、非政府の機構や機関、赤十字国際委員会、国際赤十字・赤新月社連盟、各国の赤十字・赤新月社を通じた実施も定められています。
(5)継続したモニター(第8条)
条約の実施状況などについて話し合う締約国会議の開催について定めています。会議には、条約に加盟していない国や赤十字を含むNGOなどもオブザーバー参加が想定されており、市民社会を含む幅広い参加者がこの問題を議論し、条約の義務の実現や参加国の増加など、継続したモニターが期待されます。
参考文献:
- ICRC, International Review of the Red Cross, https://e-brief.icrc.org/issue/nuclear-weapons-the-human-cost-ja/?lang=ja
核兵器禁止条約と赤十字:私たちの変わらないメッセージ
核兵器禁止条約の成立はあくまで一つの通過点であり、条約成立後も核兵器全廃に向けた継続した取り組みが必要とされます。赤十字の立ち位置も今後、更なる模索が必要ですが、私たちの基本的なスタンスは、2011年の赤十字の国際会議で採択された決議「核兵器廃絶に向けての歩み」に記されています。
(1) 現代の核兵器が使用された場合、その犠牲者、被害に人道的に対応することは不可能であること
(2) 核兵器の使用が国際人道法の定める理念と両立しないこと
この2つの理由はまさにヒバクシャの苦しみに裏付けられるものであり、私たちの活動の原則―苦しんでいる人を救いたいという人道―の精神に反するものです。赤十字はこれからも、核兵器のない世界の実現の原動力がヒバクの経験の中にあることを信じ、その声を着実に次世代へと受け継いでいくことに努めていきます。
「敗戦から遠ざかるにつれて、人々の記憶から、戦争の悲惨さや原爆の地獄絵図が次第に薄れていくように見えた。だが一方では、人々の目に触れない場所で、原爆の後遺症に悩みながら、世の偏見を逃れるために被爆者であることを隠し、ひっそりと罪を犯した者のように生きている人たちがいた...(中略)...私は思った。死んでいった人たちのために、そして、これから生きようとする人たちのために、私たちの戦争と原爆、そして平和を語りたい。」(雪永まさゑ編『きのこ雲 日赤従軍看護婦の手記』1984年、オール出版)