長く続く被災地での苦労と、"命だけは守って欲しい"という赤十字ボランティアの想い

2023年の夏も、気候変動の影響により、日本各地で豪雨災害が発生しました。床上浸水4千軒以上という甚大な被害に見舞われた秋田市に住む、赤十字のボランティア板倉恵さん(62歳)が経験された浸水被害と、被災したからこそ伝えたい災害への備えの重要性についてお伝えします。

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赤十字のボランティア板倉恵さん

自らが被災したからこそ分かること

「7月15日は、天気予報等で大雨が来ることが分かっていたので、妻と子供は実家へ避難させ、私は町内会長・自主防災組織のリーダーなので、近所のお年寄りなどに声をかけて回りました。しかし、皆さん大雨被害を経験したことが無いので、階に居れば大丈夫と思い、避難所等へ行く方はあまりいませんでした。しかも、近くの公民館やコミュニティーセンター、学校など避難所に指定されている場所も浸水の危険性があったので、避難所は開設されかった。だからって、ホテルへ行くのは年金生活者は躊躇するし、行け行けと言っても行く場所が無いという人も正直多かったです。結果的に自分たちの地域の2階は無事で人的被害はありませんでしたが、2階の窓から見ていて、肩まで水につかりながら道を歩いている人が居て、『マンホールが溢れているかも知れないから足を取られないように気をつけて』と呼びかけました。」

長年、日本赤十字社の救急法指導員として赤十字の事業に携わっている板倉さんが、この度、防災ボランティアリーダーになるための研修を終了され、今年の夏の被災経験を振り返ってくれました。板倉さんのご自宅は床上60 ㎝浸水し、被災からカ月が経過した今も、階の床は剥がしたまま、泥を流し乾かす作業は行ったものの一度湿った断熱材からは今でも水が染み出て来るため、キッチン等1階部分は全て使えず、修理を依頼しているところだそうです。修理の手続き、行政による支援制度への申込手続きも、高齢者にとっては大きなハードルがあります。命があったのだから頑張っていこうと、板倉さんのように思える被災者ばかりではありません。避難先での生活は色々な物が足らずに不便を感じている人、しかしながら、「迷惑をかけてはいけない」という想いからじっと我慢をしている人も多くいるそうです。まだまだ冬を迎えるための物資支援や、こころのケアが必要だと言います。また、被災後、遠方に転居された方も少なからずいて、そういった方々が転居先で新たなコミュニティを築くことができているのか心配でもあるそうです。「今回、自ら被災して、災害の影響はこんなにも長く人々の生活と心に影響を与えるのだと、つくづく分かりました」と話します。

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7月15日ご自宅の2階から撮影

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被災直後(上)と、3カ月経った今(下)のご自宅1階

命だけは守る行動を

板倉さんは60歳まで警察官でした。警察官は交通事故の現場などでけが人の応急処置をする場面が多く、「救急隊員の到着まで、とにかく命をつなぐ」という身を持った体験から来る強い想いで、救急法の普及啓発に携わっています。“命さえあれば”という考えは災害時にも通じていて、今回の豪雨災害でも、110番や119番をしても警察や消防が救助には来られない所もあったので、助けを呼ぶ必要が無いように、自らが早めの避難行動をとるべきと訴えます。前述のように行く先が無くて困る場合もありますが、それにしても公助により助けてもらえると思っている人が多い“避難しなければならないと自分自身で思う”ように、強く呼びかける必要があると言います。

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10年程前から赤十字救急法指導員として活躍する板倉恵さん

赤十字が行っている「救急法の講習」や「防災セミナー」は、良いことだと誰もが思っているはず、しかし、難しそうとか災害は自分には関係の無いことと思っているのか、なかなか若い参加者が増えない点が課題だと言います。一人でも多くの人が、自分と周りの人の命を守る行動を身に着ける、そういったことの為に、どうしたら背中を押せるか、一歩前に踏み出すことを促すことができるか、日々考えているそうです。
日本赤十字社では子供向けの防災教育教材を開発し小学校や、児童館などと連携して講習会を開催するなど、若年層への普及にも努めています。