未来を守る「防災ゼミナール」Vol.4 災害時に通信手段が断たれたときへの備え
日赤の災害救護研究所の専門家の視点から、災害時に必要な知識や今から始められる防災など、役立つ情報を発信します。
≪災害救護研究所とは?≫
日本赤十字看護大学付属の研究機関として2021年に発足。災害時の救護活動を通して得た知見を学術的に分析・集約し、被災者の苦痛の予防・軽減を目的とした研究所
生き延びるための情報収集
●お話を伺った人
情報企画連携室員
近藤 祐史さん
(元・日本赤十字社医療センター
国内医療救護部/救命救急センター医師)
私はこれまで災害派遣医療チーム(DMAT)や、日本赤十字社医療センターの医師として、国内のさまざまな災害の被災地で救護活動に携わってきました。現在は行政機関で災害医療などの危機管理に取り組んでいて、最新の知見を日赤にフィードバックする役割も担っています。その中で、近年は特に災害時の情報収集の重要性や難しさについて、危機感を持っています。2018年の北海道胆振東部地震で被災地に向かった際、停電の影響で通信が困難になる経験をしました。この通信障害は、携帯電話会社の基地局が電力不足によって機能しなくなったことが原因でした。また、2019年の台風15号でも千葉県では送電設備が被害を受け、電力が復旧するまで数日間アンテナが機能せず、救護活動の障害となりました。このような状況では、災害に強いと言われるIP無線機も役に立ちません。災害への備えとして蓄電池やソーラー発電など電力を確保している方は多いと思いますが、大きな災害では、通信インフラそのものが使えなくなる可能性があるのです。
携帯電話が使えない場合に備え、どこに避難するか、どのような手段で家族や知人と連絡を取るかを考えておく必要があります。避難者が多い中でも落ち合えるよう、漠然とした場所ではなく具体的な目印(●●公園の▲像の前、など)を決めておくと良いでしょう。また、通信ができなければ、携帯電話で地図を見ることもできません。避難場所までのルートを事前に調べておくのも重要です。一方、衛星電話やアマチュア無線といった、通常とは別の連絡手段を確保する方法もあります。これらの通信機器は有用ですが、いざ使おうとすると、衛星電話の契約切れやバッテリー切れ、地形により無線が通じにくかったりと、うまく使えないケースも多く、定期的に使用の練習をしておくことが大切です。連絡手段として災害用伝言ダイヤルもありますが、遠方の親戚や知人を拠点として家族間の居場所や状況などを共有することも選択肢の一つです。「公衆電話から叔母の家にかけ、伝言する」などを決めておくのです。
日本国内であれば、災害が起きて家族が離れ離れになっても、生きてさえいれば再び会うことはできます。生き延びることが大前提です。普段から連絡手段の備えと共に、命を守るために安全な場所に避難するという意思の統一をしておきましょう。(近藤祐史さん 談)