人への気遣いを、育てる学校。
佐久市立田口小学校 校長 砥石 順一さん(※役職は取材当時)
取材日当日、佐久市立田口小学校では、「青少年赤十字(JRC)登録式」が行われました。これは、新しく1年生になったみなさんに、JRCバッジを贈呈し、青少年赤十字への仲間入りをしてもらう行事です。JRC委員長は、「気づき、考え、実行する」というJRCの合言葉のもと、田口小をより良い学校にしましょうと呼びかけ、その後、全員で青少年赤十字の一員として誓いを立てました。
このJRC登録式の運営を行う、委員長の森泉翔太さん、副委員長の石田みうさんにお話を伺いました。
Q.日頃、JRCの活動でがんばっていることは何ですか?
森泉委員長:
小学校と同じ敷地にある、龍岡城五稜郭の「お台所清掃」をがんばっています。観光客のみなさんに気持ちよく見てもらえることや、誰かの役に立てていることが、とてもうれしいです。
石田副委員長:
友だちや家族の気持ちを考えて行動しています。田口小学校では、何かあったら、友達がすぐに助けてくれます。これも、青少年赤十字の活動や経験があって、人に優しくしたいという気持ちが強いからだと思います。
Q.今日のJRC登録式を終えて、これから1年、取り組んでいきたいのはどんなことですか?
森泉委員長:
来年(令和4年度)いっぱいで閉校してしまうので、思い出になるようなことをやりたいです。「気付き、考え、実行する」という合言葉のもとに、みんなで考えていきたいと思います。
石田副委員長:
みんなと助け合い、友だちのためになるような委員会活動を頑張っていきたいです。
Q.今日からJRCメンバーに仲間入りした1年生への想いを教えてください。
森泉委員長:
田口小学校では、1年生の時にもらったバッジを6年間使います。今思うと、1年生の頃は、意味がよく分からないことも多かったのですが、上級生のみなさんや先生にいろいろ教えてもらったりする中で、その意味を少しずつ理解できるようになりました。1年生のみんなにも、このバッジを大切にしてもらって、僕たちの気持ちを次に繋げていってほしいと思います。
続いて、砥石校長先生にお話を伺いました。
Q.小学校でJRC活動に取り組むことで、児童のみなさんにどのような影響があるとお考えでしょうか?
「お友達への気遣い」につながっているのではないかと思います。JRCに登録している小学校は、実はたくさんあるんですよ。でもここは、日本赤十字社の創始者のひとりである大給恒さんが造った「五稜郭」の中にある。赤十字への距離感がすごく近いんですよね。そういった歴史から、子どもたちには自分たちの学校に対する誇りを感じているんです。赴任当時、五稜郭の施設を子どもたちと一緒に回ったことがあったんですが、その時に、学校のことがまだよく分からない私に、「先生に俺たちの学校を見せてやるよ!」と言われたことが印象に残っています。JRC活動のメインは、五稜郭の中の施設の清掃活動になりますが、施設や地域を大切にしているというのが伝わってきます。この姿勢には、新しく赴任される先生はみんなびっくりしていますよ。
Q.具体的にどのような活動をされているのでしょうか?
観光客が訪れる五稜郭周辺、主に「お台所」という資料館となっている施設の清掃が一番大きい活動ですね。この他にも五稜郭を調べる「五稜郭学習」も全学年でやっています。地域社会のために、という意識は、最初のうちはないと思いますよ。でも4年生くらいになると、勉強しているうちにそういう気持ちも分かってくる。大給恒さんの歴史を学ぶ、というのも、この活動の中でやっています。入学した時から当たり前のようにある活動で、これがもう20年以上続いています。20年前ということは、今後は、これから親になる世代も、この活動を経験しているわけです。JRC活動を通じて、友達への気遣いが、自然にできるようになり、これが連綿と受け継がれることで地域に優しさが広がっていく。そんなイメージを、ここの先生方はみんな、感じていると思います。
教育改革が進み、授業日数も限られた中で、通常の授業以外に違うことをするってなかなか大変なんですよ。こういう活動の時間がどんどん減ってきている学校もあると思います。でも、ここでは、JRC活動で優しさや思いやりの心に気付いた子どもたちが、自発的に「人のために」と行動しています。そして、子どもたちがそんな感じですから、先生も影響されてくるんですよ。「子どもたちのために」という気持ちが自然と強くなる。教えてもらうことがたくさんあって、こういった活動はやはり大切だと感じます。
Q.この取り組みは、子供たちの将来にどう影響すると思いますか?
JRC活動は、社会に出てから役に立つことだと思っています。
このコロナ禍で、行事にもいろいろ制限がかかっていますよね。田口小学校でいうと、例えば、毎年やっているキャンプの「飯盒炊飯(はんごうすいはん)」。感染防止の観点から、同じ飯盒で炊いたご飯を、みんなで分けて、それを食べるということはできません。どうにかして、同じような経験をさせてあげられないか、という中で、職員が出したアイデアが、「ハイゼックス」(※1)を利用した災害時の非常食体験です。トレセン(※2)で、子どもたちと一緒に職員がこれを体験していてね、これなら個包装でご飯が炊ける。災害対策の勉強としてこれを取り入れて、知識と技術を学びながら、みんなでご飯を食べることができました。JRC活動で学んだことが教育につながる、ということがうれしかったですし、周りの学校はみんなできない、という中で、「できる」と分かった時の子どもたちのエネルギーはすごかったです。例年のキャンプよりも、子供たちの成長を感じることができましたね。災害時に役に立つ技術を学ぶことができた、という直接的な学びのほかにも、状況に応じて、アイデアを考えて、それを形にすることの面白さ、大切さを感じてもらえたのではないかと思います。「気づき、考え、実行する」というJRCの精神そのものですよ。JRCの活動を積み重ねてきたからこそ実現した学習でしたね。
※1ハイゼックス
災害時の炊き出しなどに使われる調理用資材。ハイゼックス(高密度ポリエチレンの袋)の中に米と水を入れて、一定時間煮沸するだけで簡単にご飯が炊きあがる。袋のまま配布できるため、衛生面も安心で、日本赤十字社の災害救助活動の中で広く使われている。
※2青少年赤十字トレーニングセンター
リーダーシップ・トレーニング・センター(以下、トレセン)は、青少年赤十字の最も特徴のある教育プログラムの一つで、集団生活を伴う学習活動の場です。青少年赤十字メンバーはここで、リーダーとして必要な自主・自律の精神を身につけ、赤十字や青少年赤十字に関する知識や技術の理解を深め、生活態度全般にわたっての学びを深めていきます。
(例年、長野県では2泊3日の日程で実施。令和2・3年度は新型コロナウイルス感染症により、中止。)
Q.今後の活動のビジョンを教えてください。
田口小学校は、佐久市臼田地区4小学校の統合に伴い、令和4年度末で閉校となりますが、統合した後もこの活動を続けることができないか、模索をしています。
子どもたちを見ていると、統合後も各地区の文化は大切にしたいと感じます。人や地域を大切に想いながら、困った人がいたら助けること、物事を気づかいで解決すること、これが自然に受け継がれていくようになればいいですね。
ただ、これはやはり田口小学校のちょっと特殊な歴史があってのもので、他校でも簡単にできることばかりだとは思っていません。でも、「定まった活動がないこと」や「全国にたくさんの加盟校があること」がJRCの強みでもあるので、田口小学校等の取り組みの中に各学校にマッチするものがあれば、取り入れてもらえばいいと思っています。
そうやって青少年赤十字の考え方が無理なく、自然に広がって、やさしさと思いやりの心を育てる学校が増えていくことが理想です。