ネパール:震災後の保健分野の支援ニーズに応える
2015年4月25日にネパールで発生したM7.8の大地震からまもなく2年を迎えます。日本赤十字社(以下、日赤)をはじめ各国赤十字社は、震災によって大きな被害を受けた地域を中心に、ネパール赤十字社(以下、ネパール赤)や国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)と協力しながら復興支援活動を続けています。
復興支援における重要な課題の一つが、地震で損壊した診療所の再建をはじめとする、地域の保健ニーズへの対応です。今号の国際ニュースでは、再建された診療所を先月連盟が取材した記事をご紹介します。舞台は、日赤が支援中のシンドパルチョーク郡。同郡ラガルチェ村の診療所は日赤が支援し、昨年再建が完了しました。
地域社会に欠かせない診療所の存在
ヤギャ・クマリ・ハドカさん(57歳)には忘れがたい日がありました。その日、稲穂の束を運んでいた彼女の息子が転倒し、頭を石に強打。頭には大きな切り傷ができてしまいました。「ずっと出血して、気が気ではありませんでした」と彼女は語ります。
11針を縫う大けがでしたが、幸運にもすぐに地元ラガルチェ村にある診療所でヘルスワーカー(※医師に代わって一次医療を提供する保健師)による治療を受けることができました。ヤギャさんは9人家族で、これまでも家族で診療所を月に平均2~3回利用していましたが、その時の診療所訪問が最も記憶に残るものになりました。
診療所は、メラムチ川上流の、木々が生い茂る谷の中腹に建っています。「診療所では本当に良いサービスを受けられて、とても感謝しているんです」診療所の外にいる患者の人たちとおしゃべりを楽しみながら、ヤギャさんはそう話してくれました。
もう一人のお母さん、プジャ・タパさん(20歳)にとってもまた、診療所はなくてはならない存在です。彼女の愛娘シャムラチャナちゃん(7ヵ月)は、再建された診療所で産声を上げた最初の赤ちゃんです。
「以前は、ラガルチェ村の多くの母親は家で出産していましたが、今では、月に平均2~3人の赤ちゃんがラガルチェ診療所で産まれています」そう語るのは、診療所のヘルスワーカーのルパ・ハトリ・チェトリさんです。ルパさんは、助産師や看護師とチーム一丸となって診療所で働いています。
赤十字による診療所再建支援
赤十字の支援でラガルチェ診療所が再建される以前は、村役場に隣接して診療所が建っていました。かつての診療所は今もそこに残ってはいますが、地震で深刻なひび割れを起こしています。
「このあたりの診療所のほとんどは、地震で損壊しました」そう語るのは、ラガルチェ村の元村長であるエケンドラ・カナルさんです。診療所再建に向け、カナルさんは土地の確保に尽力し、前任のヘルスワーカーは政府に対して再建の承認を求めるロビー活動を行いました。彼らの積極的な関与がなければ、診療所が再建されるまでかなりの年月を要していたことでしょう。
地元に暮らすヘルスワーカーや看護師らのおかげで再建された診療所では、24時間体制で軽度の病気やけがへの治療にあたることができています。今後の医療サービス拡大についてカナルさんは、「屋外での事故で骨折する人がとても多いので、診療所でそういった患者さんへの治療ができるようになればよいですね」と言います。
現在、診療所での治療が難しい場合は、谷のふもとにあるヘルスセンターが紹介されることになっています。ヘルスセンターは診療所から車で約1時間の場所にあり、質の高い治療を受けることができます。
ヘルスワーカーのルパさんが直面している問題の多くは、村民の身体的な病いに関するものです。その一方で、心理的な問題を抱えている村民も多く、ルパさんは可能な限り患者さんの相談に乗るようにしているそうです。失神の発作で苦しむ新婚の女性が診療所を訪れた際は、「新婚生活がストレスの原因だったため、彼女の話をじっくり聞いてあげました」と語ってくれました。
ネパール赤復興支援本部の保健調整官であるモーサム・ボハラさんによると、2015年の大地震は、もともと発展途上にあったネパールの保健システムに対して深刻な打撃を与えるものでした。「私たちは、地域に暮らす人々と緊密に連携しながら村のニーズにできる限り対応し、人々の生活に欠かせない診療所の再建にあたっています」と、モーサムさん。
ネパール赤では現在、村レベルの保健担当官の数を増やし、日本・韓国・英国といった各国赤十字社や連盟の協力を得ながら、40棟以上の診療所の建設・再建を支援しています。
●日本赤十字社のネパール地震救援・復興支援活動の最新情報はこちら
http://www.jrc.or.jp/activity/international/results/190125_003736.html