おしらせ:核兵器廃絶を語り継ぐ

原子爆弾が広島・長崎に投下されてから今年で72年目を迎えます。これまで、自らの体験をもとに核兵器廃絶における中心的な役割を担ってきた被爆者の高齢化が進み、彼らの声や訴えを直接聞くことができる時間はわずかとなってきています。

赤十字は、72年前の被爆直後から原爆の犠牲者の救護活動に従事するとともに、核兵器の非人道性に鑑み、様々な機会を捉えその廃絶を訴えてきました。

核兵器廃絶を訴え、被爆者の思いや経験をこれからも語り継いでいくために、戦争や被爆を経験していない私たちができることはなんでしょうか。今回、日本赤十字社(以下、日赤)では、ユース非核特使として活動する鈴木慧南(けいな)さん(明治学院大学学生/国際NPOピースボートインターン)をお招きし、核兵器廃絶を若い世代から訴え、考えるトークイベントを開催しました。

過去と未来をつなぐ ~鈴木慧南さんの思い~

DSC02356.JPG

鈴木慧南さん(写真右から2人目)

広島出身でも長崎出身でもない鈴木さんが初めて被爆者の講話を聞いたのは大学のサークルで両市を訪れた時でした。もともと原爆や核問題に関心はあったものの、それは漠然とした気持ちであって明確な意識を持っていたわけではなかったそうです。

そんな鈴木さんが2つの体験について語ってくれました。1つは被爆者との接し方の変化、もう1つはピースボートでの体験です。

鈴木さんは広島で初めて被爆者の講話を聞いた時、あまりに辛い話にショックを受け、これ以上聞きたくないという気持ちになったそうです。しかしその後、長崎で通称「ヤスさん」という被爆者の講話を聞いたことが鈴木さんのターニングポイントとなりました。

ヤスさんの語り口は他の講話と違い、将来に対する希望を語る明るいものだったそうです。「体験を語るのは未来のあなたたちのため。未来はきっと明るく希望に溢れている。その未来の話をするのに暗く話す必要はない」というのがヤスさんのスタンスでした。「平和の原点は、人の痛みを分かる心を持つこと。たったひとつの命だから、人にも自分にも優しく生きていこう」ともヤスさんは語ります。鈴木さんにとって、このことは被爆の問題を考える上で、ハードルが一気に下がるきっかけとなりました。

その後、ピースボートに乗った鈴木さんは多くの一般の参加者、そして被爆者と世界各地を巡り、105日間寝食を共にしました。乗船中に被爆者の講話の補助を行った鈴木さんは「最初は多くのあつれきがあった」と語ります。

意見がぶつかる最大の原因は講話の伝え方についてでした。語り部には長年運動に取り組んできたという自負があります。一方、若い鈴木さんの目には、難しい言葉で話しても若者や子どもには理解できないと映ります。まして日本語を外国語に翻訳して伝える時には、なおのこと表現を工夫しないと伝わらないと鈴木さんは考えました。言葉以外にも様々な工夫を凝らすことで語り部の気持ちが正確に伝わるというのが鈴木さんの考えでした。そこにあつれきが生まれるのは当たり前のことです。「その言い方では通じない」と提言して「君に何がわかる」と言われたこともあるそうです。

鈴木さんは自分の考えを率直に被爆者に伝えることでこの難問を乗り越えました。もちろん問題がすぐに解決されるはずはありません。しかしそうして意見をぶつけ合ううちに互いの気持ちが通じ合い、被爆の問題以外の話もするような関係になったということです。ここにピースボートの体験で得た鈴木さんの結論がありました。被爆者だからといって無条件に尊敬したり不要な距離を置いたりせず、同じ人間として接することが大切だという結論です。

このアプローチは、「ヤスさん」からの言葉「たったひとつの命だから」に続く、鈴木さんの生き方の答えである「人間らしく笑って生きる」という極めてシンプルな考え方につながるように思います。今年は戦後72年目になります。原爆投下の衝撃も風化が進んでいます。世の中も変わっています。ひょっとすると今の子どもたちは原爆投下を歴史上の出来事のような感覚で受け止めているのかもしれません。鈴木さんの体験は、核兵器廃絶の運動も被爆体験を伝える活動も時代に合わせて変わっていかねばならないことを示唆しているように思えてなりません。

核兵器廃絶を語り継ぐ ~参加者の思い~

DSC02353.JPG

トークイベントを終え、参加者からは、「相手のことを考え行動する力、継続力が互いの理解になることを学んだ」、「被爆者の声や思いを若い人が伝えることによって、より現代に伝わることもあることに気が付いた」といった感想が寄せられました。

イベントの最後には、参加者全員で「No more ヒロシマ・ナガサキ」のメッセージを掲げ、核兵器廃絶の思いを表明しました。

今年4月核兵器廃絶に向け、赤十字会議を長崎で開催

長崎.jpg

ニューヨークの国連本部で、今月27日から核兵器禁止条約制定に向けた交渉会議が始まりました。

赤十字は、この動きを後押しし、核兵器廃絶に向けた機運を一層高めるため、日赤と赤十字国際委員会の共催により、核兵器廃絶を訴える会議を長崎にて開催します。同会議では、各国赤十字社の代表が、被爆地・長崎に会し、被爆の実相に触れ、核兵器廃絶の議論を深めます。

赤十字の核兵器廃絶に向けた活動について、さらにお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

本ニュースの印刷用PDF版はこちら(PDF:746KB)