世界人道の日スペシャルインタビュー:紛争地ナイジェリアでの医療支援

日本赤十字社(以下、日赤)は、2019年12月から赤十字国際委員会(以下、ICRC)が実施するナイジェリアでの医療支援に対して継続してスタッフを派遣をしてきました(以前の記事はこちらから)。新型コロナの影響で一時派遣を中断していましたが、このたび1年ぶりに医療スタッフの派遣を再開し、現在ナイジェリア北部のマイドゥグリでは武蔵野赤十字病院の朝倉裕貴看護師が活動しています。今年4月に派遣されて4か月がたつ今、活動の様子や自身の思いを聞きました。

「根気強い」教育が患者の命を守る

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私は現在、ナイジェリアのマイドゥグリ・ボルノ州専門病院で、「教育担当看護師(Teaching nurse)」として勤務しています。今までICRCのミッションは3回経験したことがありますが、このような役割は今回が初めて。主に、現地の看護師に対して研修計画を作成し勉強会の企画・運営を行う他、看護師たちが研修での学びを日常の看護ケアで実践できるよう、ベッドサイドでの指導・教育(On the Job Training)も行っています。
写真左:病院内の様子 写真右:現地看護師に心肺蘇生法をレクチャーする朝倉看護師(いずれも©ICRC)

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実は数年間、ここマイドゥグリには教育担当看護師が不在で、現地スタッフへの教育は十分に行われていませんでした。現地情勢が不安定であったことと、そしてその後の新型コロナウイルス感染拡大の影響で現地への人員派遣が困難になったと聞いています。
そうした背景もあり、現在現地スタッフには基礎から教育を行っているところです。例えば「清潔と不潔の区別」。処置中、なぜこのタイミングでグローブを変えなければいけないのか、なぜここにガーゼを置いてはいけないのか。日本の看護水準からはなかなか想像しづらいかもしれませんが、このような基本的なところから一つ一つ丁寧に教えていく必要があるのです。長い間教育を受けてこなかった彼らに対して「教育は大切です。皆さん勉強しましょう」と、突然訪れた外国人が言ったとしても、それがそのまま通じることはまずありません。むしろ毎日嫌な顔をされ、現地の言葉で文句を言われながらも、同じことを繰り返し言い続けています。私たち看護師には患者の命を守る使命があるからです。他方、現実にはこうした小さなことの積み重ねが、現地の医療の質の向上に少しずつ繋がっていくと考えています。
文化・慣習・時間や物事に対する感覚の違いなどを改めて感じながら、根気強く取り組むことの重要性を痛感しています。仕事以外でも、現地スタッフと一緒に食事をしたり、休憩時間を共に過ごすことで、少しでもコミュニケーションをスムーズに取れるように努力しています。
写真:現地の医療スタッフと朝倉看護師©ICRC

地雷の恐怖の中で生きるナイジェリアの子どもたち

ICRCの活動の大半は紛争・戦争地での医療支援です。ここナイジェリア北部では、特にマイドゥグリ郊外や近郊の街で襲撃が相次いでおり、負傷をした人々が病院に運ばれてきます。以前は、1度に大量の負傷者が搬送されてくる大きな襲撃が月に1~2回のペースであったようですが、私が派遣された4月以降はそのようなケースには遭遇していません。それでも襲撃の負傷者が1度に複数人担ぎ込まれる日もあります。そのような緊急事態には、私も救急看護師としてチームメンバーと共に処置を行います。
病院に来る患者の多くが銃創(銃によるけが)と爆創(爆発物によるけが)を負っています。南スーダンは銃創の方が多かったですが、こちらは爆創が多く、特に子どもが運ばれてくるケースが目立ちます。理由はマイドゥグリ郊外では未だに対人用の地雷が無造作に落ちているからです。一見おもちゃのように見えるので、知識のない子どもたちが拾い上げたり、蹴ったりして爆発してしまうのです。手足は吹っ飛び、爆発の衝撃で飛び散った破片が身体中に刺さり、時には胸や腹を貫通し命を落とすこともあります。

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この写真のゴニ君も、爆創で病院に運ばれてきた子どもの1人です。入院中の不安や痛みもあり、診療中に泣いてしまうことが多いのですが、診察以外にもかかわる時間を設け、不安をできるだけ取り除けるよう心掛けています。地雷のような突然の出来事は子どもたちの心に深い傷を残します。ICRCのメンタルヘルスケアチームが子どもたちと一緒に遊んだりする機会を提供したり、会話をすることで、子どもたちの心に寄り添っています。
写真:地雷で手足にけがを負ったゴニ君(10歳)©ICRC

世界人道の日に寄せて

現在、世界は新型コロナウイルス感染症という共通の危機に立ち向かっていますが、今この瞬間にも世界では多くの人が紛争や衝突に巻き込まれ命を落としています。
その中でも、病院に運ばれてくる負傷者は、実は紛争犠牲者のほんの一握りの人たちです。衝突が郊外で起こるので病院に来ることができなかったり、道中で命を落とす方も多くいるのだろうなと日々想像しています。また、日々の病院への道のりの中では、物乞いにあったり、飢えに苦しむ人々を見ることもしばしば。「やらなくてはいけないこと」と「やってあげたいこと」は決してイコールではないところに「人道」という言葉の複雑さを感じながら、日々目の前の人々に向き合っています。

明日8月19日は「世界人道の日」

紛争や暴力に苦しむ人々のための支援は赤十字の活動の根幹です。コロナ禍でも現地で一人でも多くの命が救われるよう、日赤はこのような医療支援にも貢献していきます。
この記事を読んでくれた方々に少しでも紛争地の現状と、そこで奮闘している日赤職員の姿を知っていただければ幸いです。

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