コロナ禍の赤十字の現在地:パンデミックから2年

 新型コロナウイルス感染症が「パンデミック」と宣言されてから間もなく2年が経とうとしています。アジアに端を発し、ヨーロッパ、北米、中南米、アフリカ等世界中を席巻したこの感染症は、昨年のデルタ株の流行に引き続き現在はオミクロン株という変異株として猛威を振るい、依然として収束の気配を見せていません。本稿では2年が経過しようとしている今、国際赤十字はどのようにこの感染症と向き合っているのかをご紹介します。

 各国赤十字・赤新月社および国際赤十字・赤新月社連盟(以下、「連盟」)は、約840億円規模の緊急救援アピール(支援要請)を発出し、①保健医療・水と衛生分野の機能強化、②移民・難民や貧困世帯等の最弱者に対する社会的・経済的支援、③各国赤の対応能力強化の3分野を中心に活動を展開してきました。これにより、赤十字はこれまで世界の88,600万人以上に新型コロナの症状に関する正しい情報や予防、衛生行動の普及等感染リスクを減らすための活動をし、7,900万人以上に新型コロナのワクチン接種の支援をし、12,200万人以上に安全な水やトイレ、手洗い場など衛生環境向上に関する支援を提供することができました(いずれも202111月末時点)。こうした背景において、現在、国際赤十字として優先度の高い支援の一部を以下にご紹介します。

まだまだ解消されない「ワクチン格差」:低所得国ワクチン接種率9.5%

 ワクチン接種の支援活動については、以前のニュース記事でもお伝えした「5本の柱」を軸に、ワクチンの公平な分配に係る取り組みを継続しています。

 新型コロナのワクチンは、全世界の6割近くの人が少なくとも1回目を接種済みという段階まで達していますが、内訳を見るとその多くが先進国における接種で、低所得国における接種率はわずか9.5%2022年1月18日現在)。そもそもワクチンがその国自体に行き届いていないことに加え、そのわずかなワクチンも国内で公平に分配されていなかったり、国民がワクチンに対して不信感を持ち接種を躊躇したり、医療アクセスが限られ遠隔地にあるワクチン接種会場への訪問が困難であったり、配布時にはワクチンの有効期限が切れていたり等、様々な理由があるためです。(右地図:ワクチンを接種している国別人口の割合©連盟)

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 赤十字全体では現在172の社がワクチン接種支援活動に携わっており、公平なワクチン分配のための支援を行っています。

 例えばペルー赤十字社は、連盟、赤十字国際委員会(ICRC)、保健省と共に国内にいる先住民たちにも新型コロナのワクチンが確実に行き渡るように支援をしています。アマゾンの先住民族コミュニティに対するワクチン接種は2021年6月に始まりましたが、接種後の死への恐れやワクチンへ不信から、接種がなかなか進みませんでした。ペルー赤十字社が先住民コミュニティと継続して対話し、ワクチンの重要性を伝え続けることで、確実にワクチン接種を進めることができています。

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アマゾン先住民へのワクチン接種支援(C)REUTERS CICR SebastiánCastañeda

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移民労働者へのワクチン接種支援会場(C)タイ赤十字社

 また、タイ赤十字社のワクチンチームは、保健省と共に移民労働者、ホームレス等向けのワクチン接種支援活動を行っています。ワクチンセンターを市場の近く、オフィスビル、デパートの中などに設け、こうした人たちが容易にワクチンを接種できるような環境整備に努めています。タイ赤十字社のボランティアとスタッフは毎日300人の移民労働者にワクチンを提供しています。

 パンデミックから2年が経過しようとしている現在もなお、ワクチンが特定の地域や特定のグループに公平に配分されていない、また、人々の中にワクチン不信や躊躇してしまう気持ちがあるという現状は根強く残っています。赤十字は引き続き、国際社会・草の根レベル双方で、ワクチン接種の重要性を訴えていきます。

パンデミック長期化による社会的・経済的影響への対応

 コロナ禍による失業や収入減少による生活不安、またこれに伴う貧困や家庭内暴力の増大など、新型コロナの長期化により深刻化する社会的・経済的影響。こうした可視化されにくい負の影響への対応も、赤十字が今後さらに力を入れなければならない分野の一つです。

 連盟が38の赤十字社に実施したコロナ禍による社会的・経済的影響に係る調査報告書では、新型コロナの影響をより受けやすい女性に対する支援の拡充が指摘されています。これは、男性に比べて女性はインフォーマルセクターや観光業に従事している場合が多いため失業率が高かったり、家庭内暴力・性暴力の被害に遭いやすいためです。特にコロナ初期から現在まで、女性への暴力被害は世界各国で報告されており、ホットラインによる相談がコロナ前の7倍に増えた例もあります。例えばイタリア赤十字社では、暴力被害を受けた女性に対し、心理社会的支援に加え、食事や寝床を提供し、コロナ禍でも安全な場所で生活できる支援を実施しています。また、エルサルバドル赤十字社では、性暴力の被害を受けた女性に対し電話やショートメールで24時間連絡がとれる支援を続けています。

 移民や難民も、新型コロナの影響による深刻なダメージを受けているグループの一つです。こうした人々はコロナ以前から、その国の社会保障を受けにくかったり、正規雇用の機会を得られないなど、不安定な環境での生活を余儀なくされてきましたが、コロナ禍によりさらなる苦境に立たされています。例えばコロンビアはベネズエラから約170万人の移民・難民を受け入れていますが、その大多数が失業手当などの社会保障がないまま不安定な労働環境に置かれており、コロナ禍により事態はさらに深刻化しています。このためコロンビア赤十字社は、ベネズエラ人移民・難民のための特別なホットラインを設け、新型コロナの情報提供や健康面でのサポートの他、コロナ禍による不安や睡眠障害などメンタルヘルス上の問題を抱える人々への心理社会的支援も実施しています。また、国内に360万人以上のシリア難民を抱えるトルコの赤新月社は、コロナ以前からトルコ全土でコミュニティセンターを運営し、難民支援を行っています。コミュニティセンターでの支援対象者のうち、無収入の人々はコロナ前は6%でしたが、コロナ禍によりその数が32%まで上昇したことから、トルコ赤新月社は連盟と共同でデビットカードでの資金給付支援を実施し、人々のニーズに迅速に対応しています。

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ベネズエラからの難民への食料配付(C)コロンビア赤十字社

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デビットカードで買い物をするシリア難民の女性(C)トルコ赤新月社

 なお、支援を要する人々は女性や移民・難民だけではありません。今回の調査で、都市部の人々は郊外の人々より新型コロナの影響を受けやすいということもわかっています。これまで一般に都市部の人々は社会保障へのアクセスが容易であり、災害時には郊外の人々よりも回復力が高いとされていましたが、コロナ禍では人口の多い都市部に集中してロックダウンなどの感染予防策が導入され、結果として都市部の人々の雇用や生活環境にも大きな影響を与えました。つまり、これまでいわゆる「脆弱層」とされていなかった都市部の人々にも、支援の目を向ける必要性が生じており、支援ニーズの動向は依然として予断を許さない状況が続いています。

継続する「コロナ禍」の中で必要となる支援は

 新型コロナのパンデミック宣言から2年が経とうとしている現在、支援を要する人道課題は徐々に広がりを見せ、それは今も続いています。国際赤十字は、重症化を防ぐためのワクチンの公平な分配や、コロナ禍の影響を被りやすい人々への支援の拡充をはじめ、新型コロナの検査体制拡充や広がるメンタルヘルスの問題に対する支援等、コロナ初期から継続する課題と新たに出現してきた課題の双方に取り組んでいます。

 日赤はこれまで、国内では病院や隔離施設等でのコロナ患者の対応やワクチンの接種支援活動、コロナの「3つの感染症」のガイド等こころの健康を維持するためのメッセージの発出、貧困家庭や独り暮らしの高齢者の方々に赤十字ボランティアが食料を配付するなどの活動を行ってきました。また国際赤十字に対しても、総額1億5,000万円の資金援助や酸素濃縮器などの医療機器や救援物資の提供を通じ、流行中心地となった国々や低所得国でのワクチン接種の推進のための支援をしてきました。そのいずれの支援にも共通するのはいかなる状況下でも人間の「いのちと尊厳」を守ることです。

 これからも、国際赤十字一丸となって、この感染症に対応していきます。

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